
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【1】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【2】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【3】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【4】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【5】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【6】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【7】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【8】
ザザザ
ガガッ
「…あー」
「あー、あー。只今マイクのテスト中 只今マイクのテスト中」
「…」
ザザザ
「えー、こちらは●●県××町。私の名前は、……」
ザザ
「です。ハロー、ハロー。誰かこの放送を聞いてはいませんか?」
「…聞こえていたら、どうか応答を」
「私は朝の9時から10時、午後2時から3時の間にはここにいます」
「繰り返します。●●…県、××町、…の商店街です」
「ハロー、ハロー。私は元気です。応答どうぞ」
ザザザ
プツン
世界滅亡系かな
クロスチャンネルかな
|
|
女「…」
ピピピ ピピピ
女「…3時か」
ピッ
女「…ふー」ノビ
女「…」パラ
“9月6日 ×”
女「よし、っと」パタン
この手帳にも、ずいぶん×が増えた。
女「今日の晩御飯、…なににしようかなー」
私の独り言も、ずいぶん増えた。
>>8
これを見に来た
女「あるーひー」
女「もりのなーかー」
女「くまさーんにー」
女「であーったー」
ガタ
女「…」カラ
女「消費期限……2日前か」
女「…」ウーン
女「ま、いっか」
女「きょうのごはんはーレトルトカレー」フンフン
商店街の店には、多くのレトルト食品や缶詰がある。
日持ちしないものは、すぐに食べた。
5年経った今でも賞味期限以内の食べ物は、珍しい。
女「…って、もう三日連続カレーだよ」
これが6年、7年、…10年ってなったらどうなるんだろうか。
女「…料理勉強すっか」
それまで生きていられたらの話なんだけども。
女「…」カチ
グツグツ
女「よしよし」
私は、多分恵まれている。
こうやって食べ物を得ることもできる。 自家発電と浄水機能のついた家に住むことができる。
女「あちち」
女「…よし、完成」
まあ、今のところは。
女「……」カチ
ご飯を食べる時は、いつもラジオをつける。
ザザザ
女「…」
ノイズしか聞こえない。5年前から変わらない。
しかし、この音すら消すと、どうしようもなく
女「…カレー飽きた」
寂しくて、たまらない。
女「しゃーぼんだーまーとーんだー」ゴシゴシ
女「やーねまーでーとーんだー」パンパン
女「やーねーまーでーとーんでー」ギュッ
女「こーわれてーきえたー」
女「よし。洗濯完了、っと。お風呂入ろう」
もう何年もシャワーしか浴びてない。
歩けば銭湯があるけど、沸かし方なんて分からないし。
多分、恐ろしく汚いから、行かない。
女「…」ヌギ
女「おう、セクシー」
女「…」
嘘だ。私は痩せてて、少しみっともない体をしている。
胸も、多分平均よりも小さい。
女「栄養不足なのかな」
これも嘘。私のお母さんも、小さかったから、遺伝だ。
女「…」ジャー
女「ふんふん」フキフキ
女「ふんふーーん…」
女「…はあ。涼しいな」
ずっと一人で生きていると、開放的になってしまうらしい。
女「風がすーすーするー」
誰にも見られていないので、パンいちでいることはザラだ。
女「…っくしゅっ」
女(もう秋だもんなー…。いやー、涼しくて結構結構)
女「よっと」パサ
女「…そろそろ衣替えするかなー」
女「…」ピッ
女「1時、か」
女「ちょっと夜更かししすぎたかな。…寝よう」
生活リズムは、変えないようにしているけど
最近は夜更かしするようになった。
寝て起きる作業が、だんだん苦痛になってきた気がするのだ。
女「…よいしょ」ボフ
女「おやすみなさい」
誰もいない空間に向かって挨拶するのも、変えないようにしてる。
何か言っていないと、喉が塞がってしまう気がして。
もう二度と、喋れない気がして。
女「…あ」
女「やば、閉めるの忘れてた」タタタ
女「あぶないあぶない」
シャッターは、かならず降ろして寝る。
野犬が入り込んできたことがあるのだ。
もう、そんな動物の姿すら見られなくなってしまったけど。
女「よし、」
ガシャン
女「今度こそ、マジで。おやすみなさい」
私は一人だ。
女「…」スゥ
「…夜が来て」
「あたりが闇に支配される時」
「月明かりしか見えなくたって」
「恐れることなんてないさ…」
女「…」モゾ
「怖がる必要なんて、どこにもない」
「ただ君が暗闇の中ずっと」
女「…」
女「う、ん?」
「ソー、ダーリンダーリン…」
女「…」ガバッ
「スタンド・バイミー…」
女「え、え?」
女「…ラジ、オ?」
…
女「違う…」

綺麗な、澄んだ歌声だった。
少女のような、甘く深みのある、それでいてどこか粗い。
女「…な、に?」
手元の音楽プレイヤーを見たけど、違う。
第一私のプレイヤーにこんな歌入ってない。
女「…」
女「あ、…」
窓が開いていた。
少しかけた、白い月が見えた。
女「まさか」
まさかね。
女「…」
「スタンド・バイミー…」
女「!」
空耳じゃ、ない。
女「…っ」バッ
靴も履かずに、飛び出していた。
女「だ、誰かいるの!?」
街灯もない、月明かりだけが頼りの道だ。
女「ねえ、誰?!」
歌声が、聞こえない。
女「…」
女「ねえってば!!」
しんとしている。
女「…やっぱ、…気のせい?」
コツ
女「!」ビク
振り返ると、目の端が何か動く物体を捕らえた。
遠くにある角を曲がっていったようだ。
女「…待って!」
女「ねえ、ちょっと!待ってってば!」タッ
女「はぁ、はぁ」タタタ
コツ コツ
女「止まって!ねえ、誰なの!」
コツ コツ
女「ちょ、…」
女(暗い。全然見えない…。音だけが頼りだ)
女「おーい!!」
女「…っ、はぁ、はぁ」
私の声は届かないのだろうか。
女「…っ」タタ
足音は規則正しく、私を引き離すように進んで、進んで
女「…」
消えた。
女「…嘘」
女「…なによ、もう…!」ダン
女「…」ハァ
女(って、あれ?)
女「…放送局、だ」
女「…」
女「…誰か、いますか?」
…
女「…はぁ」
女(私の耳も、ついにおかしくなったか)
女「…あほらし」クル
女「帰ろ」
コツ
「ダーリン・ダーリン…」
女「!」バッ
女(やっぱり、いる!)
女「…」キィ
放送局は、頻繁に出入りするので掃除してある。
床に、乾いた土の足跡がついている。
女「…」ゴク
やっぱ、いんじゃねえか。
女「…ちょっと、誰なのっ」
ざっと見渡しても、人影は無い。
ということは、残っているのはスタジオのみ。
女「…」
女(あけ、…るか)キィ
ガチャ
女「…」
女「あれ?」
女(誰も、…いない?)
ギシ
「動くな」
女「!!」

女(え、ちょ、なにこれこの背中にあたってる固いのは)
女(っていうか今声したよね、人だよね、なんで動くな?え?いやいや、動くわ)
「だから動くなって」
女「い、…った!」
「刺すぞ」
女「え、え、…な」
「…人か?」
女「み、見て…分かるでしょ?そうだよ…」
「タッセルクリア」
女「え?」
「タッセルクリア、…感染は?」
女「してない」
「証拠は」
女「首を見たら分かるでしょ」
「…」
私のうなじに、冷たい指が触れた。
「…アザはないな。よし、膝をつけ」
女「な、なんでよ」
「武器を携行していないか調べる」
女「あのねえ!!」
女「武器もなにも、持ってるわけないでしょ!私今シャツ一枚なんだよ!?」
「可能性はある」
女「持ってない!本当に、ない!あるわけない!」
「…」
女「あなたを傷つけるとか、そういう考えがあってここに来たんじゃないんだって」
女「ただ、寝てたら歌が聞こえて。それで、びっくりして」
女「人がいるんだって…無我夢中で飛び出してきたんだって!」
「…そうか」
女「だから、…何も持ってないってば」
「そのようだな」
ピッ
「金属探知機の反応はない。本当に何も持ってないようだな」
女「何時の間にそんな。…だからそう言ってる」
「はだしで、何も持たず走ってきたのか?」
女「そうよ」
「馬鹿かお前は」
女「…」
返す言葉もない。
女「あ、あなた…誰なの」
「お前こそ誰だ」
女「…」
女「私は、女。ここに住んでる」
「ひとりでか?」
女「そうよ」
「何年」
女「あのときからずっと。5年くらい」
「他に人はいないのか、本当に」
女「そうよ…」
「じゃあ、あの放送はお前が?」
女「!」
「2ヶ月くらい前に、ラジオで放送を聞いた。ここに生存者がいると」
女「そ、それ私。私が放送した」
「…そうか」
背中にあたっていた冷たさが、なくなった。
女「…」
「もう動いていい」
女「…」ソッ
恐る恐るふりむくと、
女「…あ」
本当に、本当に久しぶりに見る、“生きた人間”の顔があった。
切れ長の猫みたいな目。長い黒髪。引き結んだ唇。身長は、私より少し低い。
女「…ど、どうも」
「ああ」
多分、女の子だ。
見てる
女「え、っと」
「女、といったか」
女「あ、うん」
「俺はリン。隣県から来た」
女「リン。…よ、よろしく」
リン「しかし、どうしてこんな真似をした」
女「は?」
リン「後ろからこそこそついて来たろうが。気づいていたぞ」
女「いや、だからあなたを追いかけて」
リン「2時から3時の間はここにいるんじゃなかったのか?」
女「…いる、けど」
リン「いないじゃないか」ズイ
女「…」
リンが差し出した時計の文字盤には、2時13分と刻まれている。
女「…午前じゃなくて、午後なんだけど」
リン「紛らわしい!!」
リンの目が細められ、鋭い八重歯がむき出しになった。
女「ご、ごめん」
リン「午前午後くらいの区別はつけろ!普通、朝と夜にいるものだと思うだろ!」
女「うん?そ、そうかな。ごめん」
女(あれ?私、午後ってつけてたはずなんだけどなあ)
リン「…ああ、もう。もういい」バン
女「…」
ノイズかなにかで聞こえなかったんだろうか。怒られ損だ。
女「リン、…さん?」
リン「何だ」
女「えっと、隣県から来たのよね」
リン「ああ」
女「生存者は?いた?」
リン「…いたけど、死んだ」
女「…そ、っか」
リン「俺は一人でここまで来た。1年前から、俺は一人で旅している」
女「旅?」
リン「そうだ。生き残りを探して、救助を求める旅」
女「そ、そうなんだ…」
私より若そうなのに、すごい勇気だなぁ。
リン「先日この放送を聴いて、てっきり誰かがここでコミュニティを作って暮らしているものだと思ったんだが」
女「…」
リン「まさかこんな、…こんな女が一人でいるとは」
女(え、睨まれた…?)ガン
しえん
リン「それにしても、この商店街はどうなっている?」
女「ん」
リン「…いないだろうが、アレが」
女「ああ。…トウメイ?」
リン「トウメイ?…なんだそれ」
女「あの、目の無い半透明な、ふわふわしたやつでしょ」
リン「…クリアだろ?」
女「…?」
話がかみ合わない。
リン「タッセルクリアに感染して死んだものの成れの果てだ。クリアというだろ、正式名称は」
女「あ、ああ」
女「うん、多分それだ。ごめん、勝手にそう呼んでた」
リン「…」
リンの視線が痛い。すごく、見下されている気がする。
リン「で、そのクリアはここにはいないのか?駅には大勢いたが」
女「うん、ここには一匹もいないよ」
リン「…そうか。どうして」
女「前には2、3匹いたけど、駆除したの」
リン「…お前がか?」
女「うん」
リン「そうか」
女(疑わしそうな顔して…)
トウメイを私が全部駆除したっていうのは、本当だ。
大変だった。多分、人生で一番疲れた。
リン「まあ、…信じがたいが。クリアが寄らない土地も、あるにはある」
リン「こんなに広範囲な事例は初めてだがな」
女「そうなんだ」
リン「お前、ここから一歩も出てないのか?」
女「うん」
リン「…どおりで物知らずなはずだ。合点がいった」
女「…」ガン
リン「まあ、いい。お前の住処はどこだ?案内してくれ」
女「う、うん。分かった」
少し、どきりとした。
私の家に、リンが来る。
リン「何笑っている」
女「あ、ううん。別に」
一人ぼっちの時間が、静かな感動とともに破られようとしていた。
リン「…電気がつくのか」
女「うん。よくわかんないけど、そういう装置がついてるんだ」
リン「…へえ」
女「あと、水も飲めるよ」
リン「ふうん」
女「すごいでしょ」
リン「お前が威張ることではない。ここは恐らく、避難用のシェルターだからな」
女「…はい」
リン「稼動してるのか。こんな田舎なのに…。驚いたな」
女「リンのいたとこは、どうだったの」
リン「こんな設備はなかった」
女「おお、そっか」
リン「まず手入れする人間がいなければ話にならないからな」
女「まあ、ね」
リン「そうか。ここでなら、まあ、外に出なくても生きてはいけるな」
女「うん。すごく住みやすいんだよ、ここ。商店街の中で何でも手に入るもん」
リン「…」
女(あれ、なんでまた睨まれるんだろう)
リン「…」
女「リン、お腹すいてない?」
リン「いらん」
女「そっか。あの、どうぞ座って」
リン「ああ」
リンは、肩に担いでいた大きなバックパックを下ろした。登山用のやつだ。
それから、…腰にさげていた木刀も下ろした。
リン「…で」
女「うん」
リン「色々情報交換が必要だな。この地方がどうなってるか、俺は全く知らないんだから」
女「そうだね」
リン「…話せ」
女「自己紹介ってことだね。私は、女。18歳で、ええと、ここに住んで5年目」
リン「18歳?…見えないな」
女「背が全然伸びなかったんだよね」
リン「いや、まあ。…そういうことじゃないが」
女「リンはいくつ?」
リン「16」
女「あ、そうなんだ。…14くらいかと思った」
リン「…」
女「お互い童顔なのかなー。あはは」
リン「俺は世間話がしたいんじゃない。ここで何が起こったか、どう対応したかを話せと言ってるんだ」
女「あ、は、はい。ごめん」
静かに目を閉じた。
あの日、…あのことを思い出す。
私の脳には、鮮やかに残っている、最後の記憶。
人がいて、家族がいて、友達がいた、色のある記憶だ。
5年前の夏、世界が崩壊した。
“タッセルクリア”
どこかの国の学者が発見した、病気。
感染源は不明。人間だけでなく、あらゆる生物に感染し
物凄い速さで拡大していく。
何故か、その存在は隠されていた。
あとから、某国が実験した生物兵器なんじゃないか、とか。未知のウイルスが研究所からもれたのだ、とか。
憶測が飛び交ったけれど。
真相は全く分からないし、噂する人もなくなった。
文字通り、なくなったのだ。
タッセルクリアは、全ての人間の体内に、平等に入り込み、全てを殺した。
実験だろうが生物兵器だろうが、どうだっていい。
皆、死んだんだから。
その日私は、学校にいた。
外国で未知の病気が発生したということは、前々からニュースで報道されていたけど
ほんのささいなニュースだった。専門家も、問題ない、風土病だ…と言っていた。
全ては嘘だった。
ニュースの一ヵ月後、首都の空港である男性の頭部が爆発した。
爆発、というか。なんというか。少しニュアンスが違うんだけど。
とにかく、頭が青い半透明のとろりとした液状になって、膨らんで
そのまま、クラッカーみたいな音を出して、飛び散ったのだ。
飛び散った綺麗なゼリーは、道行く人々の肌に付着した。
2時間後、皆の頭はクラッカーみたいな音と共に飛び散った。
私は居眠りをしていた。
急に鳴った校内連絡の音声に、びびって顔をあげたのだ。
“避難警報が県から出されました”
焦った校長の声が、寝ぼけた頭に飛び込んできた。
「警報だって」
「首都でパンデミックが」
「でも、ずっと遠いから大丈夫なんじゃない?ここ、田舎だし」
「警報って、具体的にどうしたらいいのよ」
ざわざわ、ざわざわ。
先生が言った。
とりあえず、家に帰って避難準備を整えるように。
ニュースを常につけること。臨機応変に、自治体の指示に従うこと。
私は言われたとおり、家に帰った。
お母さんが真剣な表情でテレビに見入って、
首都に住んでいるお母さんの妹…私のおばさんの名前を呟いた時
ああ、これはただごとじゃないんだ。
そう気づいた。
警報の2日後、悪魔は私のいる町にも到着した。
逃げた人もいる。 逃げれなかった人もいる。
どうだろうが関係ないだろう。 皆、遅かれ早かれ頭を爆発させた。
しえん
リン「…そうか。やはり、ここにも」
女「私の家族は、離島にいるおばあちゃんの所へ避難しようとしてたんだけどさ」
女「船も飛行機も、何もかもごちゃごちゃだったじゃない?」
リン「ああ」
女「だから結局、ここから出られなかった」
女「…って、こんなかんじです」
リン「家族はどうした」
女「お父さんは、出張に行ってた。初日は連絡がとれたけど、町にタッセルクリアが来たころには、もう」
女「お母さんは、…もちろん死んだ。私の目の前で」
リン「そうか」
女「…うん」
見慣れたお母さんの、優しい笑顔が歪んで
青い、綺麗な水風船みたいになって
ぱーん
女「…」ブルッ
リン「政府が自衛隊を派遣して救助にあたったんだがな。逆効果だったよな」
リン「港や空港に殺到した人の中に、1人でも患者が混じってれば、皆死ぬ」
女「うん」
リン「…お前は」
女「…」
私は、悪魔に勝ったみたいだった。
お母さんの体液が飛び散って、私の目の中に入った。
ああ、死んだ。
そう思った。
あまりに衝撃的で、お母さんの横たわった体のそばで暫くぼうっとしていた。
それから、お母さんと寄り添って目を閉じた。
お母さんと添い寝をするなんて、小学校低学年以来だった。
お母さんは、温かかった。
タッセルクリアが死体の中をうごめき、お母さんの体を水にして溶かしていくのを
ただ、ぼんやり見ていた。
私は、自分の最後の時であろう二時間を、そうやって過ごした。
目を開けると、夜だった。
あれ?と、自然と言っていた。
水を浴びたのは昼だ。 もう破裂していてもおかしくない
町は恐ろしく静かだった。
避難したか、死んだか。
出て確かめる勇気はなかった。
ただ、私は生きていたのだ。
お母さんの死体は、消えていた。
青い水溜りだけが、そばにあった。
リン「…タッセルクリア」
リン「英国の科学者の名前と、透明、という意味のクリアという単語を合わせた病名」
リン「潜伏型もあるが、その場合は首に赤黒いアザができる」
リン「感染スピードは非常に速く、患者と濃厚接触、または死んだあとの体液を浴びると感染する」
リン「感染した場合、寿命は1~2時間」
リン「頭部が水状になり、破裂する。そうして菌を飛び散らせるんだ」
女「詳しいのね」
リン「政府からチラシが来たろ」
女「…読んでない、かも」
リン「…」
女「そ、そんな時間なかったんだもん」
リン「致死率は100パーセント。死体は菌に犯されて水状になり、消える」
リン「…しかし、感染しても発病しなかった人物も、いる」
女「リンと私みたいなね」
リン「そうみたいだな」
女「リンは、感染しなかったんだよね」
リン「ああ。水は浴びたが、どうもなかった」
女「こんな人が、どれくらいいるんだろう」
リン「さあな。俺は10人ほどに会ったことがあるが」
女「え、そうなの」
リン「…けど、死んだ」
女「…」
リン「タッセルクリアが原因じゃない。病気で死ぬものは、半月で全滅した」
女「…トウメイ」
リン「二次災害、クリア」
リン「…死んだ患者が、ゼリー状の生物となって甦る」
女「…」
そうだ。
あれは悪夢だった。
色々な形をした、幽霊みたいなものが。 あるいは、形すら成してないものが。
漂い、はいずり、歩き、ぴちゃぴちゃと水音を発していた。
女「…あれって、何なの」
リン「知らん」
女「…」
リン「しかし実体がある以上、オカルトなものではないだろうな。あれは、ゾンビみたいなものじゃないか?」
女「そうだね」
リン「俺らを捕食するっていう点でも、同じだしな」
女「あれって、食べてるの?」
リン「俺はそう解釈してる」
女「…私は、実際にトウメイが人を食べるところは見たことないんだ」
リン「だろうな」
女「襲われたことは、あるけど」
リン「何故生き残れたんだ?お前みたいなのが」
女「だから、倒したんだよ」
リン「どうやって」
女「本当だよ。私、商店街にいた数匹は本当に倒したよ」
リン「だから、どうやって」
女「…」
殴った。
できるだけ長い棒状のもので叩くと、トウメイは真っ二つになった。
地面にすいこまれて、消えた。
でも、それだけじゃない。
女「ねえ、リン」
リン「ああ」
女「トウメイを殺したこと、ある?」
リン「ある。何回もある」
女「どうやった?」
リン「そりゃ、物理攻撃だ。叩き斬るのが一番だな。大体一発でしとめられるようにはなった」
女「…そうなんだ」
リン「お前は?違うのか?」
女「あ、う、ううん。そんな感じ。火をつけても消えるんだよ」
リン「知ってる」
女「あ、そ…」
女「リンは、どうして旅してるの」
リン「はあ?」
女「だって、わざわざ外に出るなんて」
リン「逆に、お前はどうして旅をしないんだ?」
女「あ、…危ないから?」
リン「ここにいるほうがよほど危ない。資源もいつか尽きるし、だいたい」
リン「…なにもできないで、ただ死ぬだけじゃないか」
女「…そう、だけど」
リン「まあここにはクリアが寄り付かないっていうのもあるんだろうがな」
リン「普通は、出て行くだろ。俺みたいにさ」
女「…う、…」
意気地なし。
そういわれてる気がした。
女「…」
リン「まあ、お前は女だからか…」
女(…なんだよ。自分だって女の子のくせに)
でも、リンはすごい。それは素直に分かる。
女「…」
リン「まあ、いい」
女「…」
リン「とりあえず、ここは安全なんだな?」
女「うん」
リン「じゃあ、俺は寝る。いいよな?」
女「あ、う、うん」
リン「空いてる部屋は?」
女「あっち」
リン「じゃ、借りる。じゃあな」スタスタ
女「え、あの」
リン「なんだ?」
女「…えーと、いや」
女「…お、おやすみなさい」
リン「…」
リン「ああ。おやすみ」
バタン
女「…」
=次の日
女「…ん」モゾ
女「…ふ、ぁ」
女「…」ムク
女(朝、か)
女「…7時」ムニュ
女(あさ、ごはん…)
女(あれ?…でも、なんか。いい匂い、する?)
ガチャ
「僕らの頭上に広がる空が」
「例えば、崩れ落ちてきたって…」
女「…!?」
女(な、な、)
リン「あ、起きたのか」
女「だ、誰っ!!!?」
リン「は?」
女「…あ!」
リン「なんだ、お前」
女「え、ええと」
リン「寝たら忘れるのか?どういう頭してんだよ」
女「リ、リン」
リン「ああ」
女「夢じゃ、…無かった」
リン「…変な奴だな、お前って」
女「…」ホッ
リン「ところで、…その恰好はどうにかしろ」
女「え?」
リン「どうしてシャツ一枚で寝る?下着が見えている。せめてまともな服を着てから来い」
女「あ」
リン「早くしろ。恥を知れ」
女「あ、うん。…ごめん」ボリボリ
女(いいじゃん、別に…。女同士なんだしさ)
女「…それ、朝ごはん?」
リン「ああ」
女「パン、だ」
リン「そうだな」
女「賞味期限、大丈夫?」
リン「自分で作ったやつだ。お前、まさかレトルトばっかり食ってるのか?」
女「自家製!すごいね…って、え?」
リン「普通、なにか作物を育てたり、収穫したりして食いつなぐだろうが」
女「…」
リン「考えもしなかったか」
女「リン、すごいね。サバイバルマスターってかんじ」
リン「短い付き合いだが分かったぞ。お前は、真症のアホだ」
女「これ、食べていいの?」
リン「勝手にしろ」
女「わーい、いっただきまーすっ」
リン「…何なんだ、本当に…」
女「うまっ。リン、すごい。パン屋さんみたいだよっ」
リン「…」

リン「ここ、シャワーは出るのか」
女「うん。温水で出るよ」
リン「…そうか。借りていいか?」
女「勿論勿論!水浴びばっかりしてたの?」
リン「ああ」
女「じゃ、久々に温かいお湯堪能してきなよ。あ、着替えある?」
リン「いや。洗濯していないから、これだけだ」
女「じゃあ、私が洗濯しといてあげるよ。服も貸すから」
リン「…恩に着る」
女「じゃ、脱衣所に置いておくからね」
リン「ああ」
バタン
女「えーと。シャツと、…ショートパンツでいいかな。あ、下着…」
女「…商店街から取ってきた新品のがあるね。これでいや。サイズ小さいし」
女「…ふふん、リンより私のほうが大きいもんね。久々に優越感」
女「で、洗濯洗濯と」パサ
リンの服は、黒い色が多い。
そういえば、昨日会ったときも黒いパーカーに黒いズボンに、ブーツだった。
女「…好きなのかなー」
ジャブ
女「今日は天気いいし、すぐ乾くね」

バタン
女「あ、干しといたよ」
リン「ああ」
女「サイズ、少し大きいけど平気だよね。これでよかった?」
リン「…」ポイ
パサ
女「ん?」
リン「なんだこれは」
女「何って、ブラとパンツ」
リン「いらん」
女「え!?ま、まさか今、ノーパン!?駄目だよ、女の子なんだから。ブラもつけて!大きさ的に必要なくても!」
リン「ふざけてるのか」
女「え、大真面目…」
リン「…」ギロッ
女(え?え?まさかこういう女物嫌いなのかな?パンツとかもボクサータイプの履いちゃう女子?)
リン「…だ」
女「え?」
リン「だから、」
リン「俺は男だ」
女「」
何を言ってるんだ、この人は。
だって、睫毛長いし、髪も長いし、手足もスラーってしてるし
…悔しいけど、可愛い顔だし。
あと、声だって低いけど、こういう女の子大勢いるじゃない。
一人称は俺だけど、そういう病気なのかなあって納得してるんだけど。
リン「お前の目は、節穴か?」
女「え、え、」
リン「男だろ。どう見ても」
女「…」
リン「…お前」
女「ほんとに、…男?」
リン「確かめるか?」
女「ま、まじで?」
リン「…。これ、小学校のころの学生手帳。ほら、何て書いてる」
女「…キノミヤ・リン。…11歳、男」
リン「読めたな」
女「…」
女「ごめんなさい!!」ズザァ
リン「…チッ」
しえん
おねショタ最高れす(^q^)
女「本当に、本当にそういうつもりじゃなかったの!」
リン「…」
女「で、でもさあ。リンだって髪伸ばしてるのがいけないんじゃない」
女「…で、でしょ?」
リン「髪を伸ばそうが切ろうが、俺の勝手だ」
女「…う、うん」
リン「…はぁ」
女「だから、ごめんなさいってば!!」
リン「ここまでの馬鹿とは思わなかった」
女「い、いや!誰だって間違えるでしょ!?まんま女の子だもん」
ヒュッ
女「…あ、」
リン「これ以上言ったら喉掻っ切るぞ」
女「は、はい」
リン「…」カチャ
女(フ、フォークで。…こええ…)ドキドキ
ちょい落ちます!
>>57
待ってるぞい
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【2】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【3】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【4】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【5】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【6】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【7】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【8】
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元スレ 女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1441511235/
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コメント一覧 (13)
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- 2015/09/28 22:47
- 日記はここで終わっている…
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- 2015/09/28 22:49
- 終わってからまとめろよ
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- 2015/09/28 22:57
- 続きはよ!
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- 2015/09/28 22:58
-
え、読み終わったら寝ようと思ったのに!
違う意味で寝なくちゃなんねえじゃねえかふざけんな
続き気になんだろ~が
-
- 2015/09/28 22:59
- 続きはよ
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- 2015/09/28 23:31
- 続きはまた来週パターンか、久しぶり味わった
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- 2015/09/29 00:12
- つまんな
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- 2015/09/29 00:44
- 絶対これ続き見逃すパターンだ
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- 2015/09/29 05:26
- クロチャンの劣化丸パクリ
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- 2015/09/29 07:24
- なにが面白いんだよ
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- 2015/09/29 09:43
- decoか
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- 2015/10/17 16:30
- 塩の街そっくり
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- 2015/11/14 21:04
- 神
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