女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【2】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【3】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【4】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【5】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【6】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【7】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【8】
リン「…」モグモグ
女(怒ってるのかな…)
彼女、…いや、彼の表情は冷たい。 特に何の感情も読み取れなかった。
ただ長い睫毛だけが気だるそうに動いている。
リン「おい」
女「はっ、はいっ」
リン「…ここ、食料の備蓄はどうなってんの」
女「食べ物?…いっぱいあるよー。個人商店行けば」
リン「商店街内か?」
女「うん、勿論」
リン「…」
リン「都市部の大きなスーパーなら、長期期間保存できる食品があるんだがな」
女「あー…。10年以上持つやつ?あれすごいよね。確かに、ここにはないよ」
リン「まあ、いい」カチャ
女「…」
これからどうするんだろう。
そういえば私、何も聞いてないなあ。
女「リ…」
リン「物資を補給したい。案内してくれないか?」
女「お、おお?いいよ。勿論」
怒ってると思ったのに。彼はどこか掴めない。
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ガラガラ
リン「…いつもシャッターを閉めてるのか?」
女「うん。閉めとかないと、野犬とか入り込んできたりするんだ」
リン「そうか」
女「まあ、イヌですら最近は見かけないんだけどね」ガタ
リン「ふうん」
女(相槌が適当だ…)
ふと後方の彼に目をやると、手には何故か黒光りする棒が握られていた。
女「…リン、それ、なに?」
リン「は?」
女「い、いや。その棒」
リン「警棒。護身用で抜いてるだけだ。別にお前を襲ったりはしない」
女(いや、そんな物騒な物持ってついてこられてもなあ…)
ここにトウメイはいない。
そう説明したのに信じてくれないのは、彼の用心深さゆえか。それとも、単純に私が信用されてないのか。
女「ここだよ」ガラ
リン「綺麗なもんだな」
女「一応、考えて取ってるし手入れはしてるんだ」
リン「そうか」
リン「貰っていくが、いいか?」
女「うん、勿論だよ」
リンが大きなリュックサクに缶詰やらお米やらを詰め込んでいく様子を、ぼうっと眺める。
女(…リンは、この物資を補給したら出て行くつもりなんだろうか)
女(だろうなあ。旅してるって言ったし…)
女(旅、かあ。一人でなんて大変だな。私には到底できないや)
リン「おい」
女「!あ、はい」
リン「次は電池を補給したい。家電屋は?」
女「あ、こっちだよ」
女(…ふと思ったけどさあ)
女(…私は、どうすべきなの?)
リンを見る。
リン「…」
仏頂面で、恐らく補給リスト?を睨む少年。
女(…ここにいる、のかと思った)
女(というか、それが目的だと、てっきり)
そのまなざしの真剣さから、それはないと今はっきり分かった。
電池、換えの懐中電灯、日用雑貨、タオル、石鹸…
全てを滞りなく補給したリンは、ふむふむと頷いた。
リン「これで最後だ」
女「…洋服屋さん?」
リン「ああ」
女(そろそろ秋だし、衣替えでもするのかな)
リン「…」チラ
女「?…選ばないの?」
リン「それはこっちのセリフだ」
女「は、い?」
リン「お前はさっきから、俺の荷詰めを見ているだけだが、自分の準備はしてるのか?」
女「じゅんび?」
リン「…ああ」
女「何の?」
リンの目が、大きく見開かれた。 黒目がやけに大きくて、子どもみたいな表情になる。
リン「…だから、ここを出る」
女「はあ?」
リン「はあ?」
ここを出る?…はあ?
女「ええと、どういう」
リン「これから寒くなるから、防寒はしっかりしておけ。服は極力、動きやすいパンツスタイルのものな」スタスタ
女「ええ!?」
しえん
女「ちょ、ちょっと待ってよ」
リン「…」
冬物のシャツを見ていたリンが、鬱陶しそうに顔を上げた。
女「ええと、私、ここから出るの?」
リン「逆に出ないのか」
淀みない手つきで、必要最低限のものだけカゴに入れていく。
女「で、…」
考えもしなかった。
ここから出る。ひとりぼっちだけど、安全で、工夫すればどれくらいでも生きていけるここを
女「…で、る?」
リン「…」
リンが手を止めて、こちらをじっと見た。
その瞳には、特に何の感情も浮かんでいない。
行くのか?行かないのか? 事実確認だけを伺うような、事務的な光だけが宿っている。
女「…ちょっと」
リン「別に強要はしないが」
女「ごめん、考えさせて」
リン「俺は昼にはここを出る」
女「…」
なんて性急な奴だ。
リン「まあ考えるのもいいが、早めにな。俺はここにいるのは得策ではないと思う」
女「…」
女「…」
リン「必要なものは揃った。もういい」
女「そ、そっか」
結局私は、どの衣類も取らなかった。
リンは、それ以上聞かなかった。
女(…外には、トウメイだっているでしょ)
女(それから、家もないし、野宿だってきっとするだろうし)
危険だ。それに、なにより、…
リン「何してる。早く入れ。閉めれない」
女「あ、…うん」
このぶっきらぼうな異性と、って。ねえ。
家に帰ると、リンは手早く荷造りを済ませた。
少しだけ膨らんだ登山用のリュックサックを背負うと、ちらりとこちらを見た。
リン「…11時半。もう出る」
女「うん」
リン「まあ、元気でやれ」
女「ありがとう」
なんとなく、着いていく。
リン「…何だ?」
女「いや、見送りくらいしようかなと」
リン「いらん」
女「まあ、でも。…いいじゃん」
なんとなく、離れるのが惜しい。
リン「よ、…っと」
ガラ
商店街を抜けると、すぐ駅だ。
リンはそこを目指して歩き、また自分の旅を続けるだろう。
女「…じゃあね、リン。短い付き合いだったけど」
リン「ああ」
女「元気でね」
リン「ああ」
女「…」
リンは振り返らず、シャッターをくぐった。
誰も吸わない、新鮮な外気が流れ込んできた。
錆びた商店街の床に、空間に、アーチに、それから、私の肺の中に。
女「…」
リンは最後に、小さな会釈だけした。
私は、…何だか、これ以上彼の背中を見ていたら、自分が取り返しの着かないことをしてしまったんじゃないか。
…そう思ってしまう気がして
女(…帰ろう)クル
そのときだった。
リン「女」
女「…」
リン「お前は、…平気なのか?こんなところで、一人ぼっちで」
女「…」
思わず振り返った。
しかし彼の姿は見えなかった。 言うだけ言って、満足した。俺は消えるぜ。とでも、言わんばかりに。

女(ひとりぼっちで)
女(…本当だ)
女(ここで、死ぬまで一人?折角、リンが来たのに)
女(こんなチャンスを、みすみす…)
誰でもいいから、傍にいてほしいのに。
そう思ったから、あんな出鱈目な放送までしてたのに。
女「…!」
ガシャン
女「…っ、リ、リン!!」
リン「…」クル
女「…あ、」
リン「なんだ」
女「…っ」
ここから出なくちゃ。
女「…10分で、…準備するからっ」
麻痺した頭でも、分かってる。
このまま一人で生きるのはいや。一人で死ぬのはいや。
女「…だから、…待ってて…」
リン「…」ハァ
リン「…ゆっくりでいい」
リン「防寒具。タオル、懐中電灯、日用雑貨…。あとはどうしても持っていきたいもの。それだけ詰めろ」
リン「どうせ、行く先々で補給はできる」
女「…う、うん!」
リン「行け」
女「分かった!」
修学旅行で使おうと思っていた、大きなボストンバッグを引っ張り出した。
それから、お母さんがくれた肩掛けの鞄も。ちょっと高いやつを。
女「…え、っと」
服と、日用品と、それから
女「…」チャリ
家族写真一枚と、お母さんの気に入っていたネックレスと、お父さんの眼鏡の替えを持っていくことに決めた。
女「…よし」
ガチャ
女「……」
ばいばい、私の町。
女「ばいばい、お母さん。お父さん」
バタン
リン「…」
女「リン!」
リン「…」チラ
女「ごめん、遅くなっ…うわ!」ズシャア
リン「馬鹿か」
女「…ご、ごめん」
リン「焦んなくていいって言っただろ。ほら」グイ
女「…ありがと」
リン「ここには当分戻ってこないけど、いいんだな?」
女「うん」
リン「…そうか。じゃあ、着いて来い。こっちだ」
女「分かった」
久しぶりに真っ向から浴びた太陽は、痛いくらいにまぶしかった。
=駅
女「うわ、…」
なんじゃこりゃ。
リン「お前、本当にひきこもりだったんだな」
女「…お恥ずかしい限りで」
久々に、本当に久々に見た駅は、その、なんというか
女「…自然に帰りつつあるね」
ホームに絡みついたツタ、床の割れ目から生える草、かしいだ電車。
リン「どこもこんなものだ」
女「へ、え…」
リン「足元気をつけろ。またコケるなよ」
女「う。はい」
リン「…この地図見てみろ」
女「うん」
リン「俺は、こっちの山間部から来た。で、ここを経由してまた北上するつもりだ」
女「うん」
リン「それでいいな?」
女「勿論」
リン「結構」
女「リンは、どうやってここまで来たの?」
リン「ん?」
女「歩いて?」
リン「んなわけあるか」
女「まさか、電車で?」
リン「…」
お前馬鹿か。 言われなくても視線は口より多くを語る。
女(でも、わざわざ西口にまわってるけど…。どこ行くのよ)
とうの昔に雑踏の絶えた駅に、再び二人の靴音が響く。
女(…静か。それに、綺麗かもしれない)
リン「…」コツ
女「うわ」ドン
リン「…」ジロ
女「ご、ごめん。だって急に止まるから」
リン「…静かにしろ」
女「え?」
シャキン、と彼の下げた手の中で音がした。
女「…え、な、何?」
リン「だから静かにしろって」
女「いやいや、なんで急に警棒」
リン「…」
空気が、変わった気がした。
女(…寒い)ゾワ
リン「いいか、…俺の後ろを着いて来い。離れるなよ」
女「う、…うん」
警棒を手にしたリンが、さっきよりずっとゆっくりとした歩調で、足を進める。
リン「…」
動く気配すらないエスカレーターを覗き込み、またゆっくり、音を殺して歩く。
女「…ねえ、リン?」
リン「だから、…。黙れ」
女「ご、ごめ」
コツン
リン「…!」バッ
リンがすばやく振り向いた。 彼の束ねていない、肩まである黒髪が、私の頬にかかる。
コツン。
暗い駅のホームのむこうから、音がする。
女「…」
コツ ピシャ
リン「…くそ。やっぱり、いるか」
この音を、…私は聞いた事がある。
コツ ピシャ
ピシャ ピタ
女「…あ」
線路を横切って、体を揺らしながら、青く鈍く光りながら、
現れたのは
「…」
女「…トウ、メイ」
リン「下がれ!」
それは相変わらず、半透明で青くて、ぷよぷよした質感で。
つるんとした体をしている。
お腹が以上に大きくて、水を湛えたその中に、白い脂肪の塊のような物が浮かんでいる。
女「…こっち、…来る…」
リン「のろい。…倒せる」
トウメイの形は、個体によって全く違う。
私が商店街で会った数匹も、一匹はクモのような足を持ってたり、一匹はただの丸い塊だったり…
このトウメイは、少し崩れた人間のような形だった。
少なくとも、不恰好な二足歩行ができる。
リン「…」
リンが警棒を硬く握り締めた。 手の色が、いつもよりずっと白くなる。
「…ぁ」
ビシャ
リン「…いいか、俺が奴のほうへ走って行って攻撃する。お前は、ここにいろ」
女「…で、でも」
リン「動きが遅いから大丈夫だ。すぐ終わらせる」
「…ぅ、-」
ビシャ
リン「…っ!」タッ
リンの体がしなり、猫のように走り出した。
トウメイは、頭部のようなものを、少し傾けて彼を見る。
女(…遅い)
リンが警棒を振りかざした。
「…ぁああ…」
女「…!」
あぶない、と叫ぶより早く
足は動いていた。
トウメイはリンが警棒を振りかざした瞬間、今までのは一体?という速さで振り向いて
リン「…!」
頭部のようなものが、ぱっくりと二つに割れた。
女「リン!!!」
リンを飲み込もうと、軟体を伸ばして
女「…っ、やめて!」
リン「おま、っ!」
「っ」
ビシャ
リン「な、に…やってんだ!」
リンの見開いた目、大きく開けた口が、ぼやけて見えた。
目の前がやけに青い。
要するに。
「…ぐ、…」
私はトウメイに頭から食われた。
リン「女っ!!」
その瞬間。
目の前の青が、激しく揺らいだ。
女「…」
まただ。
また、聞こえる。
「…す、けて」
「たすけて」
目を閉じる。
トウメイの体は、温かかった。
それこそ生きた人間の体温と、何ら変わらない。
「このこを助けて」
「このこだけでもいいから」
女「…」
リン「…! …!」
リンが何事か大声で叫んで、私を引っ張り出そうと手を伸ばす。
私の手首を掴んだ彼の目が、一瞬、裂けそうなくらい大きくなった。
女(ああ)
「わたしのあかちゃんを」
女(彼にも、聞こえてるだろうか)
彼女の。…トウメイの声が
「…おねがい」
「困ったな」
え?
何を言ってるの。
あなたが困るんじゃない。一番困るのは私なのに。
「とりあえず、落ち着いてくれ」
落ち着く?なんで?
私のおなかの中には、あなたと私の一部が結びついてできた、新しい命が宿ってるのに?
どう冷静になるっていうの?
「困ったな。…なあ、どうしよう」
それは私が一番聞きたいのに。
責任を取ってくれるって言ったじゃない。だから、私は、あの時…。
「この電話番号は、現在使われておりません」
「この電話番号は、現在使われておりません」
…
どう、しよう
誰か、誰か助けてよ。
おなかの中では新しい命がぼこぼこ元気に動き回ってる。
今更殺せない。
でも、彼が一向に電話に出てくれない。
彼じゃない、この子の、お父さんが。
誰か
誰か助けてよ。
私一人じゃ、どうしようもできないのよ。
産めないよ。 育てられないよ。
「…おかあ、さん」
お母さん、助けて。
「おかあさん…」
「なんね、キョウコ」
「おかあ、さん。あのね、あのね。…ごめ、…んね」
「どうしたんね」
「私、私、産めない。彼が、私とこの子を捨てたの。ねえ、どうしよう。産めないよぉ…」
「…なーに言ってんの」
え?
「産めないわけないでしょ。なんね、父親がいないと子どもは生まれてきちゃならんのか?」
「そうじゃないよ、けど、けど」
「キョウコ。よく聞きなさい」
「…父親なんて、また新しく探せばよか。あんたとその子を受け入れてくれる男ば、探さんね」
「でも、でも」
「それまでお母さんに頼れば良かがね。なにを心配してるとね」
「…」
おかあさん。
「とりあえず、戻っておいで。栄養つくもん食べさせてやるから」
おかあさん。
「…うん…」
「駅まで迎えに行くが。何時がいい?」
おかあさん。
「…あり、…あり、がとう…」
「…ふふ」
「なーに言ってるの、もう。気をつけて来なさいよ」
「…うん」
ねえ、私のあかちゃん。
あなたは良いお婆ちゃんを持ったよ。
私も頑張るからね。 一緒に、生きて行こうね。
「えー、次はー、××ー。××ー」
がたん ごとん
「…あ」
ぼこん
「今、蹴ったね?」
「…ふふ。元気だねー」
私、決めたよ。
もう迷わないよ。
「きゃあああああああああ!!!」
ぱーん
「…な、なに?」
なに、あの音。
あの人、頭がない。
ちょっと、…なに、これ。
頬っぺたに、水がかかって。
なに
なに、これ
あかちゃん、
せっかく、 いっしょに
おかあさんにも おうえんしてもらったのに
いや
「…あかちゃん」
女「…」
ゆっくり、目を開ける。
「あかちゃん、…守れなかった」
ああ、そうか。
この大きく肥大したお腹は、妊婦の証なんだ。
白い塊は、きっと
「あかちゃん、まもれなかったよ…」
女「ううん」
女「あなたは十分頑張ったよ」
女「辛かったね」
「…」
女「もう、休んでいいんだよ」
「本当に?」
女「うん。赤ちゃんとお母さんとでさ、一緒にゆっくり休みなよ」
「…」
視界が揺らぐ。 水の温度が、ゆっくりゆっくり下がっていく。
「あ」
「ありが、とう」
女「どういたしまして」
トウメイの頭部が、弾けた。
体が投げ出され、しりもちをつく。
女「…った」
リン「女!!」
女「あ、ごめん。大丈夫」
リン「…今の、今の何だよ」
女「…」
トウメイの体が、さらさらした水となって、あふれた。
女「…おやすみ」
後には、小さな水溜りが残った。
リン「…」
女「…リンにも、見えた?」
リン「ああ」
女「…」バサ
女「久しぶりにやったな。…結構疲れるんだ、これ」ゴシゴシ
リン「あの、声と映像は。…まさか、こいつの」
女「うん。生前の、一番強い記憶」
リン「…」
女「妊婦さんだったんだね。かわいそうに」
コツ コツ
リン「…なんで黙ってた」
女「はい?」
リン「さっきのは、…お前のやったことだろ?」
女「ええと、トウメイの記憶を見たこと?」
リン「そうだよ!俺がやつらに触ってもあんな反応はなかった!」
女「やっぱそうなんだ…」
リン「何だよ、さっきのは!?」
女「わ、私に言われても分かんないよ!ただ、触ったらああなるんだもん」
リン「いつもそうか?あんな風に生前の記憶を?」
女「そうだよ。で、終わったらああやって溶けて消えるの」
リン「…信じられん」
女「私だって最初はびっくりしたよ…」
リン「…ますます怪しいな、お前」
女「え!?いやいや、そんな」
リン「でも、まあ。使える」
リン「触れたら即成仏ってわけだ。俺がわざわざ叩ききるまでもないんだな」
女(もしかして、私を盾にしようとしてる?)
女「で、でもね。あれすごく疲れるんだ」
リン「ふうん?」
女「終わったら悲しい気分になるし、頭も痛くなってくる」
リン「…どういうことだ。お前だけ…」
女「分かんない」
リン「…」
リン「まあ、いい。攻撃で殺すよりあっちのほうが寝覚めもいいからな」
女「あ、そうだよ。だから私、そうやってトウメイを倒してた」
リン「便利な能力だな。足手まといにはならなさそうだ」
女「…ど、どうも?」
リンは少し表情を和らげた。
リン「…生前の記憶か」
リン「そういうもの、無いかと思ってた」
女「…そう思っても不思議じゃないよ」
ただうごめき、こちらを飲もうとしてくる物体。
…人の、成れの果てだ。
リン「お前のいた商店街と違って、外は結構クリアでまみれてる」コツ
女「うん」
リン「だから、気をつけろ。避けるのが一番だ」
女「…そうだね」
振り返って、ホームを見る。
あの妊婦が、きっと、お母さんにも赤ちゃんにも会えず死んでいった場所。
女「…」
私は彼女を救えたんだろうか?
リン「おい、行くぞ」
女「…うん」
水溜りが、もれた光を反射して、控えめな光を放っていた。
リン「…よ、っと。よし、いいぞ。クリアはいない」
女「おお、…って、駐車場?」
リン「ああ」チャリ
女「!」
あれ。まさか、あの駐車場に停まってる、綺麗な車は。
リン「荷物後部座席に入れろ。早くな」カチャ
女「ええええええ!?」
リン「うるさい。クリアが来たらどうすんだ」
女「いや、え?く、車?」
リン「何か問題でも?」
…灰色の3部座席まである車。 家族のいる家庭に人気だったやつだ。CMでよく見た。

女「…リンが、運転すんの?」
リン「当たり前だろ」
飄々と言う。
女「めんき…」
免許、といいかけてやめた。この世界に法律などもはや存在しない。
女「…大丈夫なの?」
リン「いやならお前は走って着いてきたっていいんだぞ」
女「う、…」
かなり不安だ。いや、でも車体はぴかぴかだし、無事故ではあるんだろう。
リン「ほら、荷物」
女「…」
バム
リン「助手席に乗れ。シートベルトつけろよ」
女(…スピード狂とかじゃありませんように)
AT車なら免許なんか無くても余裕余裕
どるん、と長く聞かなかったエンジン音がして、車が微動した。
リン「…じゃ、行くぞ」
女「…」
リン「あのなあ、俺は安全運転なほうだぞ」
女「う、うん」
小さく舌打をして、リンはハンドルを切った。滑らかな振動が、足の下から伝わってくる。
なるほど、…確かにリンの運転は見事なものだった。いや、まだ縁石から離れただけだけど。
リン「…とりあえず、北な。あ、そうだ」
女「ん?」
リンがふとブレーキを踏み、こちらに体を向けた。
リン「これから、よろしく」
白くて長い指を持つ手が、差し出される。
女「…!」
女「よ、よろしく。ふつつかものですがっ」
まともに触れた、リンの手。…他人の手は、予想していた以上に温かかった。
リン「なんだそれ」
ふん、と鼻で笑い、リンは手をひっこめた。そのまま運転を再開する。
女(…ああ)
これから彼と、二人で旅をするんだな。
当たり前のことが今更強く感じられて、思わず下を向いて、それから
…彼にバレないように、私は小さく微笑んだ。
とりあえず出会い編終了です。
お付き合いありがとうございました。
また日を置いて書いていくと思いますので、よろしく!
乙!
1さん、お疲れ様です。
何だか昔読んだ新井素子作品を彷彿とさせる世界観ですねぇ。
“小説家になろう”とかで掲載する予定はないんですか?
面白い!続きまってます!
一旦お疲れ!
このまま終わってもいい位上手く纏まってるな
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【2】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【3】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【4】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【5】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【6】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【7】
女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」【8】
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元スレ 女「ハローハロー。誰かいませんか?どうぞ」
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1441511235/
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コメント一覧 (9)
-
- 2015/09/28 23:12
- 何これ。
-
- 2015/09/28 23:36
- 面白かった。続いてもいいし、ここで終わりでも良い感じ。
-
- 2015/09/28 23:40
-
小説読んだことないんだけど、これは面白くて最後まで読めた。
売られてる小説ってこれより面白いのかな?
-
- 2015/09/28 23:47
- ふむ。おもしろい
-
- 2015/09/29 00:11
- ビフ・タネンかと思って開いてみたら違った
-
- 2015/09/29 00:25
- ありふれた世界滅亡系とはまた違った面白さだな
-
- 2015/09/29 08:57
-
五年も経ってたらガソリン腐ってそう。
でも、或いは誰かが製油してるのかも。
-
- 2015/09/29 12:51
- がっこうぐらしからインスパイア?
-
- 2015/11/14 21:05
- 神
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