
男「俺たち……もう会わない方がいいと思うんだ」
女「そんな……!」
女「うっ、うっ、うっ……」
女「あんなに……好きだったのに……」
ヒュゥゥゥゥ…
女「寒い……」
カサカサ…
ダイオウグソクムシ「余が脱皮した皮でよければ」ファサッ
女「!」
ちょっとワロタ
女「温かい……」
ダイオウグソクムシ「温まったか?」
女「!? あ、あなたは!?」
ダイオウグソクムシ「余はダイオウグソクムシだ」
女「えええ!?」
女「ダイオウグソクムシってたしか海で暮らしてるんじゃ……」
ダイオウグソクムシ「訓練すれば陸で生活することも十分可能だ」
女「可能なんだ……」
ダイオウグソクムシ「温まったのなら、これで……」ワサワサ
女「待って!」
ダイオウグソクムシ「む?」
女「お礼もさせずに行っちゃうなんてずるい! せめて家ぐらい寄ってったら?」
ダイオウグソクムシ「……そうさせてもらおう」
―女の自宅―
女「あなたは何者なの?」
ダイオウグソクムシ「余はダイオウグソクムシ界の大王の息子、将来的に大王になる者だ」
女「ややこしいけど、つまり王子様ね」
ダイオウグソクムシ「うむ」
女「王子様がどうして一人でいるの? 普通、付き人がいるんじゃ……」
ダイオウグソクムシ「ダイオウグソクムシ界では、王位継承者は継承前に見聞を広めるため」
ダイオウグソクムシ「大王からの許可があるまで、人間界で暮らすというしきたりがあるのだ」
女「へぇ~、可愛い子には旅をさせよってことね」
ダイオウグソクムシ「それで旅をしていたら、お前が寒がっていたのでな」
女「皮をかけてくれたってわけか」
女「ねえ、見聞を広めるったってなにも一ヶ所に留まっちゃいけない理由はないでしょ?」
ダイオウグソクムシ「うむ」
女「だったらさ、しばらく泊まっていってよ!」
女「あたしも一人暮らしだからたま~に心細くなるしさ。同居人が欲しかったんだ!」
ダイオウグソクムシ「よいのか?」
女「うん!」
ダイオウグソクムシ「だったら……お言葉に甘えさせてもらおう」
ダイオウグソクムシ「この外見だと宿を探すのも一苦労なのでな」
女「やった!」
「大王」って「王」に比べるとマヌケな響きになるよね
女「ふあぁ……おはよう」
ダイオウグソクムシ「おはよう」
女「あたしは仕事に行ってくるから、好きに過ごしてて」
ダイオウグソクムシ「分かった」
女「行ってきまーす!」
バタバタ…
ダイオウグソクムシ「あわただしいことだ……」
ダイオウグソクムシ(そういえば、昨日なんで落ち込んでいたのか、理由を聞いていなかったな)
ダイオウグソクムシ「それにしても、汚い部屋だ」
ダイオウグソクムシ「少し掃除してやるか……」ワシャワシャ
ポツン…
ダイオウグソクムシ「ん……これは……」
ダイオウグソクムシ(あの娘と人間の男の写真……)
ダイオウグソクムシ(ゴミ箱のそばに落ちてるが、捨てようとしたが捨てられなかったといったところか)
ダイオウグソクムシ「…………」
女「ただいま!」
ダイオウグソクムシ「お帰り」
キラキラ…
女「わっ、キレイになってる!」
ダイオウグソクムシ「ああ、少し掃除させてもらった。整理はしたが捨てていないから安心しろ」
女「へぇ~、お掃除得意なんだ」
ダイオウグソクムシ「これでも“深海の掃除屋”の異名を持つのでな」ワシャッ
女「ありがとー!」チュッ
ダイオウグソクムシ「よせ……。お前にはちゃんと相手が……」
女「ん?」
ダイオウグソクムシ「いや……なんでもない」
女「ところで、ハンバーガー買ってきたの。食べる?」
ダイオウグソクムシ「次期大王であるこの余が、ハンバーガーなど……」
女「いいからいいから、食べてみなさいって! 大王たるもの食わず嫌いなんてダメ!」
ダイオウグソクムシ「うむ……」モグッ
ダイオウグソクムシ「!!!」
ダイオウグソクムシ「う、うまい! こんなうまいもの食べたのは初めてだ!」
女「……ベタな反応をありがとう」
読んでるぞ
この大王可愛いぞ
女「ねえ」
ダイオウグソクムシ「む?」ガツガツ
女「ダイオウグソクムシ界ってどんな世界なの?」
ダイオウグソクムシ「深海にある、ダイオウグソクムシの王国だ」
ダイオウグソクムシ「人間たちのおとぎ話“浦島太郎”に出てくる、海底の国があるだろう?」
ダイオウグソクムシ「ちょうどあれと似ている。タイやヒラメの舞いなどは見せられんが」
女「へぇ~、ってことは人間も暮らせるの?」
ダイオウグソクムシ「まぁな。ただしオススメはしない」
女「ふーん」
ダイオウグソクムシの画像見たけど普通にグロいな
―会社―
課長「まったく、こんなミスをして……!」
女「しかし、わたしは課長の指示通りに……」
課長「私がいつこんな指示をした!?」
課長「これだから肝心な時に女ってのはあてにならん!」
女「…………!」
女(なによ! 自分のミスを棚に上げて……トラブルの時はいつもこうなんだから!)
―女の自宅―
女「ただいま!」バタンッ
ダイオウグソクムシ「おお、お帰り」
女「…………」イライラ
ダイオウグソクムシ「どうした? 今日は荒れておるな」
女「そうよ! 大荒れ! 嵐だわ!」
女「今日はいーっぱいお酒買ってきたの! だから飲も! 二人で飲も!」
ダイオウグソクムシ「……付き合おう」
ダイオウグソクムシ「これがストロングゼロか……」グビッ
女「そう! 手っ取り早く酔うにはこれが一番!」グビッ
ダイオウグソクムシ「ふむ、うまい」
女「あーもうっ、課長のヤツ!」グビグビ
女「死んじまえーってんだ!」ポイッ
ダイオウグソクムシ「やれやれ、酒癖の悪いことだ。余の父上を思い出させる」
女「飲んでる!? ダイオウグソクムシ!」
ダイオウグソクムシ「飲んでる飲んでる」
女「脱皮してよ!」
ダイオウグソクムシ「え?」
女「ダイオウグソクムシって脱皮するんでしょ? やってよー!」
女「ほーら、だっぴ! だっぴ! だっぴ!」
ダイオウグソクムシ「仕方あるまい……ほれ」ペロンッ
女「きゃーっ! 豪快ーっ!」パチパチパチ
女「じゃあさ、今度はあたしが脱皮するーっ!」ヌギヌギ
ダイオウグソクムシ「コラコラ、若い娘がはしたないぞ!」
女「次はブラを……」ヌギッ
ダイオウグソクムシ「やめんかーっ!」
女「ねえ、王子様」
ダイオウグソクムシ「コラコラ、からかうな」
女「あなたって故郷に戻ったら王様になるんでしょ?」
ダイオウグソクムシ「その予定だ」
女「お妃さま候補はいたりするの?」
ダイオウグソクムシ「今のところいない」
女「だったらあたし、立候補しちゃおっかな~」
ダイオウグソクムシ「……飲み過ぎだ」
ダイオウグソクムシって凄く呼びにくそう
……
女「課長のバカヤロー……あいつのバカヤロー……」
女「男なんてみんな……バカヤロー……」
女「すぅ、すぅ……」
ダイオウグソクムシ「やれやれ、やっと眠ったか」
ダイオウグソクムシ「しかし、色々と抱え込んでいるようだ。しばらくそばにいてやるか……」
大王具足虫・・・
休日――
女「今日は一日デートしよう!」
ダイオウグソクムシ「たまの休日なのによいのか?」
女「あなたももっと人間界を見て回りたいでしょ? レッツゴー!」
女「おはようございます!」
主婦「あら、お出かけ?」
女「ええ!」
主婦「! そちらの……虫は?」
ダイオウグソクムシ「ダイオウグソクムシだ」ワシャワシャ
主婦「あら珍しい。行ってらっしゃい」
珍しいで済ますなw
子供A「わっ、可愛い~!」
子供B「おっきい~!」
ダイオウグソクムシ「コラコラ、あまりいじくるな」
女「公園を通りがかったら……子供たちにも人気あるのね~」
子供C「すげー! でっけーベンジョムシ!」
女(あっ……ベンジョムシなんていったら傷ついちゃう!)
ダイオウグソクムシ「よせ、照れるではないか」
女「褒め言葉になるの!?」
―ファーストフード店―
女「お昼はハンバーガー食べよっか」
ダイオウグソクムシ「よいのか!?」ワシャワシャ
女「うん、大好物じゃない」
ダイオウグソクムシ「大好物などではない。ちょっと気に入っただけだ」
女「素直じゃないんだから……」
女「二つ買ってきたよ。はい、一つあげる」
ダイオウグソクムシ「うまい!!!」ムシャムシャガツガツ
女「…………」
女「あたしのも食べる? あたしポテト食べるから」
ダイオウグソクムシ「いや、そんな卑しいことは……」ワシャワシャワシャワシャワシャ
女「足がものすごい正直なんだけど」
ワシャワシャワシャ
女(そういえば、さっき子供が……)
子供C『すげー! でっけーベンジョムシ!』
ダイオウグソクムシ『よせ、照れるではないか』
女(よーし、ちょっと褒めてやるか)
女「たしかにあなたってよく見ると大きなワラジムシよね」
ダイオウグソクムシ「人のことをワラジムシ呼ばわりするとは失礼ではないか!」プンプン
女「ワラジはダメなの!?」
スタスタ… ワシャワシャ…
女「今日は楽しかったねー」
ダイオウグソクムシ「ああ、大勢の人間とふれ合うことができた」
ブーブー…
女「!」ハッ
ダイオウグソクムシ「どうした?」
女「ごめん、ここでちょっと待っててくれる?」
ダイオウグソクムシ「うむ、分かった」
女「なによ、あんなひどいこといったくせに……」
女「今さらそんな電話してきて……勝手だよ……」
女「こっちはもう気持ちが切れてるの……切るよ……」
ダイオウグソクムシ「…………」コソッ
女「ごめんごめん、待たせちゃって!」
ダイオウグソクムシ「いや、大丈夫だ」
女「今夜は奮発して、二人で鍋でもつつこうか!」
ダイオウグソクムシ「……うむ」
…………
……
しばらくして――
―女の自宅―
ピンポーン…
女「はーい!」
ガチャッ
家臣ダイオウグソクムシ「突然の訪問、失礼いたす」
女「!」
女(ダイオウグソクムシ……!)
家臣ダイオウグソクムシ「調査によると、こちらで若がお世話がなっているはずなのですが……」
女「若?」
女(あっ、若ってもしかして……)
ダイオウグソクムシ「おおっ!」ワシャワシャ
家臣ダイオウグソクムシ「若! お久しぶりでございます!」ワシャワシャ
女「この人もダイオウグソクムシ界の?」
ダイオウグソクムシ「うむ、彼は家臣ダイオウグソクムシ。文武に秀でた優秀な男だ」
家臣ダイオウグソクムシ「はじめまして」ワシャワシャ
女(家臣なんだか大王なんだかややこしいわね……)
ダイオウグソクムシ「して、なんの用か?」
家臣ダイオウグソクムシ「はい、このたびは大王様が正式に許可をお出しになったので……」
家臣ダイオウグソクムシ「本日をもちまして、この試練は終了となります」
ダイオウグソクムシ「そうか……わざわざありがとう」
女「へぇ~、よかった――」ハッ
女「あ、ってことは……もうダイオウグソクムシ界に……?」
ダイオウグソクムシ「うむ、突然で申し訳ないが、今日で帰ることになる」
女「そんな……!」
女「もうちょっといることはできないの?」
ダイオウグソクムシ「ありがたいが、そうもいかん。国民が余を待っているのでな」
ダイオウグソクムシ「余が戻らねば、この家臣にも迷惑がかかる」
女「だ、だったらさ……あたしも連れてって!」
ダイオウグソクムシ「!」
女「ダイオウグソクムシ界って、たしか人だって住めるんでしょ?」
女「あたし、あなたのこと気に入っちゃったし、別れたくないの!」
女「だからお願い! あたしのことも連れてって!」ギュッ
ダイオウグソクムシ「…………」
パシッ
女「いたっ……!」
ダイオウグソクムシ「お前も分かっているはずだ」
ダイオウグソクムシ「人には人の、ダイオウグソクムシにはダイオウグソクムシの生き方があると」
ダイオウグソクムシ「余とてお前との生活は楽しかった。よき人間と出会うことができた」
ダイオウグソクムシ「だからこそ、今のお前ならば、人の世界でも強く生きていけると信じている」
ダイオウグソクムシ「逃避などしてはならぬ」
女「…………!」
女「あーあ、あたしが現実逃避したかっただけって見透かされちゃったか」
女「さっすが大王様!」
ダイオウグソクムシ「世辞はよせ」
女「よっ、ベンジョムシ!」
ダイオウグソクムシ「…………」ポッ
女「ねえ、国民みんなから慕われる立派な大王になってよ!」
ダイオウグソクムシ「うむ、もちろんだ」
女「でさ、もし暇ができたら、また会いにきてよね!」
ダイオウグソクムシ「ああ、是非そうさせてもらう」
家臣ダイオウグソクムシ「では若、参りましょう」
ダイオウグソクムシ「達者でな」
女「バイバイ!」
女「…………」
女「……あーあ、行っちゃった」
「あの……」ザッ
女「あ……!」
男「ごめん……家まで来てしまった」
男「だけど、どうしても諦められなくて……」
男「頼む! もう一度……やり直さないか……」
女「……うん」
ダイオウグソクムシ「…………」
家臣ダイオウグソクムシ「よろしかったのですか?」
ダイオウグソクムシ「未練がないといえば嘘になる」
ダイオウグソクムシ「しかし、未練を踏み越えなくば、皆に認められる王にはなれまい」
ダイオウグソクムシ「ゆこう、家臣よ」
家臣ダイオウグソクムシ「はっ!」
家臣ダイオウグソクムシ(若もしばらく見ないうちにご立派になられた……)
ダイオウグソクムシ「あ、しかし……」
ダイオウグソクムシ「帰る前に、最後にハンバーガーショップに寄ってもいい?」
家臣ダイオウグソクムシ「へ?」
月見バーガー買ってけ
……
……
テレビ『○×国の王子が来日し、空港には女性が殺到……』
男「うわ、すっごいな~」
男「やっぱり女は王子様に憧れてるもんなのかな」
女「ふーん、あたしは興味ないけど」
男「お前は昔からこういうアイドルみたいなのに興味薄いもんなぁ」
女「うん、それに……」
女「あたし、もっとすごい知り合いいるし」
男「もっとすごい? まさか……王様か?」
女「ううん……もっとすごいよ。なんたって“大王”だもん!」
― おわり ―
よかった
乙
ダイオウグソクムシ界行きてえ…
ちゃんと落ちたな
はい面白い
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コメント一覧 (5)
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- 2019/09/19 19:08
- あらそちらの虫は?で草
-
bipblog
が
しました
-
- 2019/09/19 20:59
- あいつらめちゃクサやから気をつけいかんで
-
bipblog
が
しました
-
- 2019/09/19 21:07
- たのしかった。まとめらしいまとめだな。
-
bipblog
が
しました
-
- 2019/09/19 21:37
- 笑いながら一気読みしてしまった。あ〜明日も仕事がんばるか。
-
bipblog
が
しました
bipblog
が
しました