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    kyoufusyou_ansyo
    1 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)21:57:59 ID:Xwi

    S パンドラ 猛スピード リゾートバイト

    A リアル 田舎であった怖い話 危険な好奇心 消えたとて浮かぶもの 一人だけ違う動画 ヒッチハイク 旅館の求人

    B+ コトリバコ 八尺様 くねくね ヤマノケ ビデオレター ひとりかくれんぼ実況 姦姦蛇螺 娘地獄落 リョウメンスクナ 

    B- きさらぎ駅 アパート祭 友人性癖 おつかれさま うひゃひゃ シシノケ 神戸の家あげます

    C 身 裏S 変な日記 猿夢 ヒサルキ しっぽ 泡姫 ゲラゲラ

    D 定価ゲーム カーチャン ここにいるよ 

    E 幽霊だけど質問ある? 

    5 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)21:59:40 ID:wAy

    リンフォン
    お歯黒
    一緒に遊んでくれたおじさんの話

    がない
    やり直し

    7 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:00:16 ID:iKO

    鮫島事件やろ

    35 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:14:41 ID:xxZ

    >>7
    あれは…嫌な事件だったね…

    37 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:14:51 ID:wAy

    >>35
    やめろ

     

     

     

    やめろ

    15 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:03:51 ID:cGA

    漏れにはちょっと変な趣味があった。その趣味って言うのが、夜中になると家の屋上に出てそこから双眼鏡で自分の住んでいる街を観察すること。
    いつもとは違う、静まり返った街を観察するのが楽しい。
    遠くに見えるおおきな給水タンクとか、酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシーとか、ぽつんと佇むまぶしい自動販売機なんかを見ていると妙にワクワクしてくる。

    漏れの家の西側には長い坂道があって、それがまっすぐ漏れの家の方に向って下ってくる。
    だから屋上から西側に目をやれば、その坂道の全体を正面から視界に納めることができるようになってるわけね。
    その坂道の脇に設置されてる自動販売機を双眼鏡で見ながら「あ、大きな蛾が飛んでるな~」なんて思っていたら、坂道の一番上のほうから物凄い勢いで下ってくる奴がいた。
    「なんだ?」と思って双眼鏡で見てみたら全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が、満面の笑みを浮かべながらこっちに手を振りつつ、猛スピードで走ってくる。
    奴はあきらかにこっちの存在に気付いているし、漏れと目も合いっぱなし。
    ちょっとの間、あっけに取られて呆然と眺めていたけど、なんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて家の中に逃げ込んだ

    ドアを閉めて、鍵をかけて「うわーどうしようどうしよう、なんだよあれ!!」
    って怯えていたら
    ズダダダダダダッって屋上への階段を上る音が。明らかに漏れを探してる。
    「凄いやばいことになっちゃったよ、どうしよう、まじで、なんだよあれ」って心の中でつぶやきながら、声を潜めて物音を立てないように、リビングの真中でアイロン(武器)を両手で握って構えてた。

    しばらくしたら、今度は階段をズダダダダッって下りる音。
    もう、バカになりそうなくらいガタガタ震えていたら
    ドアをダンダンダンダンダンダン!!って叩いて、チャイムをピンポンピンポン!ピポポン!ピポン!!と鳴らしてくる。
    「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」って感じで、奴のうめき声も聴こえる。
    心臓が一瞬とまって、物凄い勢い脈打ち始めた。
    さらにガクガク震えながら息を潜めていると、数十秒くらいでノックもチャイムもうめき声止んで、元の静かな状態に……。
    それでも当然、緊張が解けるわけがなく、日が昇るまでアイロンを構えて硬直していた。
    あいつはいったい何者だったんだ。
    もう二度と夜中に双眼鏡なんか覗かない。

    23 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:09:30 ID:Xwi

    1 二 猛スピード(>>15
    2 遊 一人だけ動画が違う
    3 右 リアル
    4 一 巨頭オ
    5 三 パンドラ
    6 左 ヒッチハイク
    7 中 ビデオレター
    8 捕 リゾートバイト
    9 投 くねくね



    3-9はクリックで内容にジャンプします。
    21 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:09:04 ID:wri

    一緒に遊んでくれたおじさんってなんや
    調べても出ない

    27 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:12:28 ID:wAy

    >>21

    スレ主(当時ガッキ)、公園?で遊んでいたら知らないおじさん(大学生風)がボール遊びしてくれる

    おじさん「お父さんに近くの駅を明日使わないでって言ってね」

    スレ主「パッパ、その駅使ってへん」

    翌日、そのおじさんが言った駅でサリン事件

    31 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:13:33 ID:wri

    >>27
    おもしろいンゴ
    サンガツ

    24 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:09:50 ID:gA0

    これは実話なんやけどって書かれ方より
    初めから創作として書かれた話の方が怖い

    25 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:10:09 ID:9Us

    2番リアルタイムで見とったわ
    本当に怖かった

    28 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:12:45 ID:wAy

    >>25
    ま?すげえ

    32 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:13:46 ID:ysA

    ワイも恐怖体験したことあるで

    33 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:13:59 ID:wAy

    >>32
    kwsk

    46 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:18:04 ID:ysA

    >>33
    ワイがまだアパート暮らししてた頃の話やが
    ワイには子供がいるんや
    夜中になると泣いてうるさいから台所で寝てたら金縛りにあったずっしりとお腹に乗ってる感じでワイはビビりやから結局朝まで震えながら起きてた

    48 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:18:37 ID:wAy

    >>46
    子供って見えるらしいからなぁ

    65 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:20:56 ID:ysA

    >>48
    多分あそこには何かあった他にもいろいろあったし

    45 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:17:26 ID:F43

    鬼門の開きかた無くね?

    47 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:18:17 ID:PZg

    >>45
    これもなかなか

    50 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:18:50 ID:sPE

    なお、おんJやなんJの怖い話はない模様

    57 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:19:49 ID:sNy

    >>50
    20 :■忍法帖【Lv=3,バラモス,8Xq】 :2016/01/11(月)04:29:13 ID:y7J ×
    蝉の泣き声
    小学生の頃は虫が大好きで、特に蝉の羽化を図鑑で見てからはその美しさや不思議さに心を奪われ、強い憧れを抱いていた。
    親父も俺の興味に理解を示してくれて、夏休みのある日、羽化を始めそうな幼虫を探しに夜の林へ連れて行ってくれた。

    そこは祖父が持つ土地にあり、親父もよく知った場所らしかったが、始めて立ち入る真っ暗な林はかなりの恐ろしさだった。蝉はなかなか見つからず、ビクビクしながらも一時間以上粘ってようやく、羽化しかけの幼虫を見つけることができた。
    恐怖心は一気に吹き飛び、息を潜めて見守っていると、薄緑色の体がゆっくりと露わになってくる。ところが、半分ほど出てきたあたりから、様子がおかしいことに気付きはじめた。目は左右の位置がずれていて大きさも非対称だし、体もところどころ窪んだように潰れている。


    21 :■忍法帖【Lv=3,バラモス,8Xq】 :2016/01/11(月)04:29:59 ID:y7J ×
    翅のうち片方は広がっていく気配を見せないどころか、途中でポロリと取れてしまった。
    この蝉は成虫になる前に死んでしまう。そう思い至ると、恐怖心が再び蘇ってきた。それでも目を離せないでいると、歪んだ体のまま脱皮を終えた蝉が、苦しそうに身をよじらせ、ビクビクと痙攣しだした。
    もう見ていられないと目を離そうとしたとき、ひときわ大きく震えたその蝉は、呻くような低い声で
    「嫌だああああああああ」と叫んで、動かなくなった。
    思わずしがみついた親父の顔もひきつっていて、小さく帰ろう…と呟いた。
    子供心にもあり得ない、勘違いだと思ったが、この日から虫が大の苦手になってしまって、親父も弟が虫をとってくるといい顔をしないようになった。

    72 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:21:50 ID:F43

    >>57
    怖すぎ

    61 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:20:20 ID:sNy

    これもおんj発
    258 :名無しさん@おーぷん :2016/01/11(月)17:40:57 ID:y7J ×
    風船

    博多駅から徒歩10分くらいにあるマンションの8階に住んでるんだけど、ベッドに入ってもなかなか寝付けず、ぼんやり窓を眺めていた時のこと。
    下の方からブツブツ呟くみたいな声が聞こえてきた。人通りの多い場所なので声が聞こえてくるのは珍しくないけど、夜中の3時過ぎだし、普通はテンション上がった酔っ払いの叫び声とかだから、抑揚の無い呟きが窓を閉めた8階まで聞こえてくることに違和感を感じた。


    259 :名無しさん@おーぷん :2016/01/11(月)17:41:37 ID:y7J ×
    気になって耳をすませながら、ぼんやり月が見える窓を見ていた。すると、声がなんだか近づいてくる。まさか変質者がよじ登って来てるのか?と不安に思っていると、風船みたいにパンパンに膨れ上がった生首の横顔が、ブツブツ言いながらゆっくり浮かんで行った。
    幸い、その声はそのまま遠ざかっていって二度と聞こえてこなかったけど、目が合わなくて良かったと心底思う。
    住んでるマンションは事故物件でもないし、変なことはそれ切りなんだけど、カーテンは必ずしめるようになった。

    64 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:20:55 ID:cGA

    >>61
    首吊り気球かな?

    75 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:22:46 ID:wAy

    >>64
    なんやっけ

    怒り新党で見たわ

    83 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:24:41 ID:wri

    >>75
    伊藤潤二やで

    vzVJ7sq

    https://i.imgur.com/vzVJ7sq.jpg

    86 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:25:09 ID:wAy

    >>83
    さんがつ

    この人、猫漫画書いてるんやっけ

    90 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:25:50 ID:a1b

    ワイが中学生の頃なんやが、寝る準備済ませて電気消してベッドで寝っ転がってたんや
    ほんで携帯で「深海魚かっけー」とか思って深海魚の画像をいろいろ見てたんや

    それが1:30頃なんやが突然地震が起きたんや
    けっこう強い揺れでタンスのドアやらバターン開いたりして「うおおヤベエヤベエ」とか思ってたら10秒ほどでおさまった

    けっこう強い揺れやったしみんな大丈夫やろか?思ってLINEグループで「みんな地震大丈夫だった?」って送ったら、みんなして「いやこっちは揺れてない」だの「勉強に集中してたから気づかなかった」だの言うんや

    あれ~おかしいな~思って携帯の充電切れかけてきたし、iPhoneのクソ雑魚充電ケーブルも千切れてたから弟の部屋に充電器借りに行った
    その時に弟にも「お前は地震大丈夫やったか?」って聞いたら「いや、揺れてないけど。兄ちゃんの部屋からなんか音はしてた」って言うんや

    当時は大して気にせず「話のネタできたわ!」程度でそれから数年も同じ部屋で過ごしてたんやが今となっては怖くてたまらん
    今は違う部屋に移ってあの部屋は物置と化しとる
    家族もその話したら怖がってなかなか近寄らんようになったわ

    99 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:28:22 ID:wAy

    >>90
    ヒェッ・・・

    でもわかるわ

    ワイも天井揺れたことあるしな

    100 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)22:28:40 ID:sNy

    >>90
    超能力でもあるんちゃう

    138 名無しさん@おーぷん 2017/01/18(水)23:01:04 ID:6IT

    村のおっさん「お前あそこ入ったんか!!!」



    3 右 リアル



    166 本当にあった怖い名無し New! 2011/05/13(金) 11:30:26.52 ID:rKgs8JSd0
    コピペだが俺的に暫定一位のヤツを。
    https://horror-terror.com/c-real/entry_6999.html

    POINT:62点/112人 Good:74.1%
    この怖い話を携帯で見るそこまで面白いことでもないし、長くしないように気をつけるが多少は目をつぶって欲しい。
    では書きます。
    何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを最初に言っておく。
    もう一つ俺の経験から言わせてもらうと、一度や二度のお祓いをすれば何とかなるって事はまず無い。
    長い時間かけてゆっくり蝕まれるからね。
    祓えないって事の方が多いみたいだな。

    俺の場合は大体2年半位。
    一応、断っておくと五体満足だし人並みに生活できてる。
    ただ、残念ながら終わったかどうかって点は定かじゃない。

    まずは始まりから書くことにする。
    当時俺は23才。 社会人一年目って事で新しい生活を過ごすのに精一杯な頃だな。
    会社が小さかったから当然同期も少ない、必然的に仲が良くなる。
    その同期に東北地方出身の○○って奴がいて、こいつがまた色んな事を知ってたりやけに知り合いが多かっりした訳。

    で、よくこれをしたら××になるとか△△が来るとかって話あるじゃない?
    あれ系の話はほとんどガセだと思うんだけど、幾つかは本当にそうなってもおかしくないのがあるらしいのよ。
    そいつが言うには何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないかって。
    俺の時は、まぁ悪ふざけが原因だろうな。
    当時は車を買ってすぐだったし、一人暮らし始めて間もないし、何よりバイトとは比べ物にならない給料が入るんで週末は遊び呆けてた。
    8月の頭に、ナンパして仲良くなった子達と○○、そして俺の計4人で所謂心霊スポットなる場所に肝試しに行ったわけさ。
    その場は確かに怖かったし、寒気もしたし何かいるような気がしたりとかあったけども、特に何も起こらず、まぁスリルを満喫して帰った訳だ


    167 本当にあった怖い名無し New! 2011/05/13(金) 11:32:58.86 ID:rKgs8JSd0
    3日後だった。 当時の会社は上司が帰るまで新人は帰れないって暗黙のルールがあって、毎日遅くなってた。
    疲れて家に帰って来て、ほんと今思い出しても理解出来ないのだが、部屋の入口にある姿見の前で、「してはいけないこと」をやったんだ。
    試そうとか考えた訳ではなく、ふと思い付いただけだったと思う。

    少し細かな説明をする。当時の俺の部屋は駅から徒歩15分、八畳1R、玄関から入ると細い廊下がありその先に八畳分の部屋がある。 姿見は部屋の入口、つまり廊下と部屋の境目に置いていた。
    俺が○○から聞いていたのは、鏡の前で△をしたまま右を見ると◆が来るとか言う話だった。
    体勢的にちょっとお辞儀をしているような格好になる。
    「来るわけねぇよな」なんて呟きながら、お辞儀のまま右向いた時だった。

    部屋の真ん中辺りに何かいた。 見た目は明らかに異常。
    多分160センチ位だったと思う。髪はバッサバサで腰まであって、簾みたいに顔にかかってた。
    っつーか顔にはお札みたいなのが何枚も貼ってあって見えなかった。なんて呼ぶのか分からないけど、亡くなった人に着せる白い和服を来て、小さい振り幅で左右に揺れてた。
    俺はと言うと…、固まった。声も出なかったし一切体は動かなかったけど、頭の中では物凄い回転数で起きていることを理解しようとしてたと思う。

    想像して欲しい。

    狭い1Rに、音もない部屋の真ん中辺りに何かいるって状態を。
    頭の中では原因は解りきっているのに起きてる事象を理解出来ないって混乱が渦を巻いてる。

    とにかく異常だぞ? 灯りをつけてたけど、逆にそれが怖いんだ。
    いきなり出てきたそいつが見えるから。 そいつの周りだけ青みがかって見えた。
    時間が止まったと錯覚するくらい静かだったな。



    169 リアル New! 2011/05/13(金) 11:37:34.51 ID:rKgs8JSd0
    すまん、以下コテにリアルって乗せとくね。この話の題名。

    とりあえず俺が出した結論は「部屋から出る」だった。
    足元にある鞄を、何故かゆっくりと、慎重に手に取った。
    そいつからは目が離せなかった。 目を離したらヤバいと思った。
    後退りしながら廊下の半分(普通に歩いたら三歩くらいなのに、かなり時間がかかった)を過ぎた辺りでそいつが体を左右に振る動きが少しずつ大きくなり始めた。
    と同時に何か呻き声みたいなのを出し始めた。
    そこから先は、実はあんまり覚えてない。気が付くと駅前のコンビニに入ってた。
    兎にも角にも、人のいるコンビニに着いて安心した。ただ頭の中は相変わらず混乱してて「何だよアレ」って怒りにも似た気持ちと、「鍵閉め忘れた」って変なとこだけ冷静な自分がいた。
    結局その日は部屋に戻る勇気は無くて一晩中ファミレスで朝を待った。

    空が白み始めた頃、恐る恐る部屋のドアを開けた。良かった。消えてた。
    部屋に入る前に、もっかい外に出て缶コーヒーを飲みながら一服した。
    実は何もいなかったんじゃないかって思い始めてた。本当にあんなん有り得ないしね。

    明るくなったってのと、もういないってので少し余裕出来たんだろうね。
    さっきよりはやや大胆に部屋に入った。
    「よし、いない」何て思いながら、カーテンが閉まってるせいで薄暗い部屋の電気を着けた。




    170 リアル New! 2011/05/13(金) 11:39:23.41 ID:rKgs8JSd0
    昨晩の出来事を裏付ける光景が目に入ってきた。
    昨日、アイツがいた辺りの床に物凄く臭いを放つ泥(多分ヘドロだと思う)が、それも足跡ってレベルを超えた量で残ってた。
    起きた事を事実と再認識するまで、時間はかからなかった。
    ハッと気付いてますますパニックになったんだけど、…俺、電気消してねーよ…ははっ。
    スイッチ押した左手見たらこっちにも泥がついてんの。
    しばらくはどんよりした気持ちから抜けられなかったが、出ちまったもんは仕方ねーなと思えてきた。

    まぁここら辺が俺がAB型である典型的なとこなんだけど、そんな状態にありながら泥を掃除してシャワー浴びて出社した。
    臭いが消えなくてかなりむかついたし、こっちはこっちで大問題だが会社を休むことも一大事だったからね。

    会社に着くと、いつもと変わらない日常が待っていた。 俺は何とか○○と話す時間を探った。
    事の発端に関係する○○から、何とか情報を得ようとしたのだ。
    昼休み、やっと捕まえる事に成功した。 以下俺と○○の会話の抜粋。

    俺「前にさぁ、話してた△すると◆が来るとかって話あったじゃん。昨日アレやったら来たんだけど。」
    ○○「は?何それ?」
    俺「だからぁ、マジ何か出たんだって!」
    ○○「あー、はいはい。カウパー出たのね」
    俺「おま、ふざけんなよ。やっべーのが出たってんだよ」
    ○○「何言ってんのかわかんねーよ!」
    俺「俺だってわかんねーよ!!」


    171 リアル New! 2011/05/13(金) 11:41:20.93 ID:rKgs8JSd0
    駄目だ、埒があかない。 ○○を信用させないと何も進まなかったため、俺は淡々と昨日の出来事を説明した。 最初はネタだと思っていた○○もやっと半信半疑の状態になった。
    仕事終わり、俺の部屋に来て確かめる事になった。
    夜10時、幸いにも早めに会社を出られた○○と俺は部屋に着いた。
    扉を開けた瞬間に今朝嗅いだ悪臭が鼻を突いた。 締め切った部屋から熱気とともに、まさしく臭いが襲ってきた。
    帰りの道でもしつこいくらいの説明を俺から受けていた○○は「・・・マジ?」と一言呟いた。信じたようだ。
    問題は○○が何かしら解決案を出してくれるかどうかだったが、望むべきではなかった。

    とりあえず、お祓いに行った方がいいことと知り合いに聞いてみるって言葉を残し奴は逃げるように帰って行った。
    予想通りとしか言いようがなかったが、奴の顔の広さだけに期待した。

    臭いとこに居たくない気持ちからその日はカプセルホテルに泊まった。
    今夜も出たら終わりかもしれないと思ったのが本音。
    翌日、とりあえず近所の寺に行く。さすがに、会社どころじゃなかった。

    お坊さんに訳を説明すると「専門じゃないから分からないですね~。
    しばらくゆっくりしてはいかがでしょう。きっと気のせいですよ」なんて呑気な答えが返ってきた。 世の中こんなもんだ。
    その日は都内では有名な寺や神社を何軒か回ったがどこも大して変わらなかった。

    疲れはてた俺は、埼玉の実家を頼った。
    正確には、母方の祖母がお世話になっているS先生なる尼僧に相談したかった。っつーかその人意外でまともに取り合ってくれそうな人が思い浮かばなかった。



    172 リアル New! 2011/05/13(金) 11:42:33.54 ID:rKgs8JSd0
    ここでS先生なる人を紹介する。

    母は長崎県出身で当然祖母も長崎にいる。
    祖母は、戦争経験からか熱心な仏教徒だ。
    S先生はその祖母が週一度通っている自宅兼寺の住職さんだ。
    俺も何度か会ったことがある。
    俺は詳しくはないが、宗派の名前は教科書に乗ってるくらいだから似非者の霊能者などとは比較にならないほどしっかりと仏様に仕えてきた方なのだ。

    人柄は温厚、落ち着いた優しい話し方をする。
    俺が中学に上がる頃親父が土地を買い家を建てることになった。
    地鎮祭とでも言うんだっけ? 兎に角その土地をお祓いした。
    その一週間後に長崎の祖母から「土地が良くないからS先生がお祓いに行く」という内容の電話があった。当然、母親的にも「もう終わってるのに何で?」ってことでそれを言ったらしい。
    そしたら祖母から「でもS先生がまだ残ってるって言うたったい」って。
    つまり、俺が知る限り唯一頼れる人物である可能性が高いのがS先生だった。


    173 リアル New! 2011/05/13(金) 11:44:16.53 ID:rKgs8JSd0
    日も暮れてきて、埼玉の実家があるバス停に着いた頃には夜9時を回る少し前だった。
    都内と違い、工場ばかりの町なので夜9時でも人気は少ない。
    バス停から実家までの約20分を足早に歩いた。人気の無い暗い道に街灯が規則的に並んでいる。
    内心、一昨日の事がフラッシュバックしてきてかなり怯えてたが、幸いにも奴は現れなかった。

    が、夜になり涼しくなったからか俺は自分の身体の異変に気が付いた。
    どうも首の付け根辺りが熱い。
    伝わりにくいかと思うが、例えるなら首に紐を巻き付けられて左右にずらされているような感じだ。
    首に手をやって寒気がした。熱い。首だけ熱い。
    しかもヒリヒリしはじめた。どうも発疹のようなモノがあるようだった。
    歩いてられなくなり、実家まで全力で走った。
    息を切らせながら実家の玄関を開けると母が電話を切るところだった。
    そして俺の顔を見るなりこう言ったんだ。

    「あぁ、あんた。長崎のお婆ちゃんから電話来て心配だって。
    S先生があんたが良くない事になってるからこっちおいでって言われたて。あんたなんかしたの?」
    「あらやだ。あんた首の回りどうしたの!!?」

    答える前に玄関の鏡を見た。奴が来るかもとか考えなかったな…、何故か。
    首の回り、付け根の部分は縄でも巻かれているかのように見事に赤い線が出来ていた。
    近づいてみると、細かな発疹がびっしり浮き上がっていた。

    さすがに小刻みに身体が震えてきた。
    何も考えずに、母にも一言も返事をせずに階段を駈け上がり、母の部屋の小さな仏像の前で南無阿弥陀仏を繰り返した。
    そうする他、何も出来なかった。心配して親父が「どうした!!」と怒鳴りながら走って来た。
    母は異常を察知して祖母に電話している。母の声が聞こえた。 泣き声だ。
    逃げ場はないと、恐ろしい事になってしまっているとこの時やっと理解した…。

    174 リアル New! 2011/05/13(金) 11:46:37.51 ID:rKgs8JSd0
    実家に帰り、自分が置かれている状況を理解して3日が過ぎた。
    精神的に参ったからか、それが何かしらアイツが起こしたものなのかは分からなかったが、2日間高熱に悩まされた。
    首から異常なほど汗をかき、2日目の昼には血が滲み始めた。
    3日目の朝には首からの血は止まっていた。
    元々滲む程度だったしね。熱も微熱くらいまで下がり、少しは落ち着いた。

    ただ、首の回りに異常な痒さが感じられた。
    チクチクと痛くて痒い。枕や布団、タオルなどが触れると鋭い、小さな痛みが走る。
    血が出ていたから瘡蓋が出来て痒いのかと思い、意識して触らないようにした。
    布団にもぐり、夕方まで気にしないように心掛けたが、便所に行った時にどうしても気になって鏡を見た。
    鏡なんて見たくもないのに、どうしても自分に起きてる事をこの目で確認しないと気が済まなかった。

    鏡は見たこともない状況を写していた。

    首の赤みは完全に引いていた。 その代わり、発疹が大きくなっていた。
    今でも思い出す度に鳥肌が立つほど気持ち悪いが敢えて細かな描写をさせて欲しい。
    気を悪くしないでくれ。
    元々首の回りの線は太さが1cmくらいだった。
    そこが真っ赤になり、元々かなり色白な俺の肌との対比で正しく赤い紐が巻かれているように見えていた。
    これが3日前の事。 目の前の鏡に映るその部分には膿が溜まっていた。

    …いや、正確じゃないな。




    175 リアル New! 2011/05/13(金) 11:50:04.21 ID:rKgs8JSd0
    正確には、赤い線を作っていた発疹には膿が溜まっていて、まるで特大のニキビがひしめき合っているようだった。
    そのほとんどが膿を滲ませていて、あまりにおぞましくて気持ちが悪くなりその場で吐いた。
    真水で首を洗い、軟膏を母から借り、塗り、泣きながら布団に戻った。 何も考えられなかった。
    唯一つ「何で俺なんだ」って憤りだけだった。

    泣きつかれた頃、携帯がなった。○○からだった。
    こういう時、ほんの僅かでも、希望って物凄いエネルギーになるぞ? 正直、こんなに嬉しい着信はなかった。
    俺「もしもし」
    ○○「おぉ~!大丈夫~!?」
    俺「ぃや…大丈夫な訳ねーだろ…」
    ○○「ぁー、やっぱヤバい?」
    俺「やべーなんてもんじゃねーよ。はぁ…。っつーか何かないんかよ?」
    ○○「ぅん」
    ○○「地元の友達に聞いてみたんだけどさ~、ちょっと分かる奴居なくて…、申し訳ない。」
    俺「ぁー、で?」

    正直、○○なりに色々してくれたとは思うがこの時の俺に相手を思いやる余裕なんてなかったから、かなり自己中な話し方に聞こえただろう。

    ○○「いや、その代わり、友達の知り合いにそーいうの強い人がいてさー。紹介してもいいんだけど金かかるって…」
    俺「!? 金とんの?」
    ○○「うん、みたい…。どーする?」
    俺「どんくらい?」
    ○○「知り合いの話だととりあえず五十万くらいらしい…」
    俺「五十万~!?」

    当時の俺からすると働いているとはいえ五十万なんて払えるわけ無い額だった。
    金が惜しかったが、恐怖と苦しみから解放されるなら…。 選択肢は無かった。

    俺「…分かった。いつ紹介してくれる?」
    ○○「その人今群馬にいるらしいんだわ。知り合いに聞いてみるからちょっと待ってて。」


    176 リアル New! 2011/05/13(金) 11:52:07.62 ID:rKgs8JSd0
    話が前後するが、俺が仏像の前で南無阿弥陀仏を繰り返していた時、母は祖母に電話をかけていた。
    祖母からすぐにS先生に相談が行き(相談と言うよりも助けて下さいってお願いだったらしいが)、最終的にはS先生がいらしてくれる事になっていた。

    ただし、S先生もご多忙だし何より高齢だ。こっちに来れるのは三週間先に決まった。
    つまり、三週間は不安と恐怖と、何か起きてもおかしか無い状況に居なければならなかった。
    そんな状況だから、少しでも出来るだけの事をしてないと気持ちが落ち着かなかった。

    ○○が電話を折り返してきたのは夜11時を過ぎた頃だった。

    ○○「待たせて悪いね。知り合いに相談したら連絡入れてくれて、明日行けるって。」
    俺「明日?」
    ○○「ほら、明日日曜じゃん?」

    そうか、いつの間にか奴を見てから五日も経つのか。不思議と会社の事を忘れてたな。

    俺「分かった。ありがと。ウチまで来てくれるの?」
    ○○「家まで行くって。車で行くらしいから住所メールしといて」
    俺「お前はどーすんの?来て欲しいんだけど」
    ○○「行く行く」
    俺「金、後でも大丈夫かな?」
    ○○「多分大丈夫じゃね?」
    俺「分かった。近くまで来たら電話して」

    何とも段取りの悪い話だが、若僧だった俺には仕方の無い事だった。

    177 リアル New! 2011/05/13(金) 11:54:39.71 ID:rKgs8JSd0
    その晩、夢を見た。 寝てる俺の脇に、白い和服をきた若い女性が正座していた。
    俺が気付くと、三指をつき深々と頭を下げた後部屋から出ていった。
    部屋から出る前にもう一度深々と頭を下げていた。
    この夢がアイツと関係しているのかは分からなかったが。

    翌日、昼過ぎに○○から連絡が来た。 電話で誘導し出迎えた。
    来たのは○○とその友達、そして三十代後半くらいだろう男が来た。
    普通の人だと思えなかったな。
    チンピラみたいな感じだったし、何の仕事をしてるのか想像もつかなかった。
    俺がちゃんと説明していなかったから両親が訝しんだ。
    まず間違いなく偽名だと思うが男は林と名乗った。

    林「T君の話は彼から聞いてましてね。まー厄介な事になってるんです。」
    (今さらですまん。Tとは俺、会話中の彼は○○だと思って読んでくれ。)

    父「それで林さんはどういった関係でいらしていただいたんですか?」
    林「いやね、これもう素人さんじゃどーしようもなぃんですよ。
    お父さん、いいですか?信じられないかも知れませんがこのままだとT君、危ないですよ?」

    林「で、彼が友達のT君が危ないから助けて欲しいって言うんでね、ここまで来たって訳なんですよ」
    母「Tは危ないんでしょうか?」
    林「いやね、私も結構こういうのは経験してますけどこんなに酷いのは初めてですね。この部屋いっぱいに悪い気が充満してます」
    父「…」
    父「失礼ですが、林さんのご職業をお聞きしても良いですか?」
    林「あー、気になりますか?ま、そりゃ急に来てこんな話したら怪しいですもんねぇ」
    林「でもね、ちゃんと除霊して、辺りを清めないと、T君、ほんとに連れて行かれますよ?」



    182 リアル New! 2011/05/13(金) 12:05:40.53 ID:rKgs8JSd0


    母「あの、林さんにお願いできるでしょうか?」
    林「それはもう、任せていただければ。
    こーいうのは私みたいな専門の者じゃないと駄目ですからね。
      ただね、お母さん。こっちとしとも危険があるんでね、少しばかりは包んでいただかないと。ね、分かるでしょ?」
    父「いくらあればいいんです?」
    林「そうですね~、まぁ二百はいただかないと…。」
    父「えらい高いな!?」
    林「これでも彼が友達助けて欲しいって言うからわざわざ時間かけて来てるんですよ?
      嫌だって言うならこっちは別に関係無いですからね~。
    でも、たった二百万でT君助かるなら安いもんだと思いますけどね」
    林「それに、T君もお寺に行って相手にされなかったんでしょう?
      分かる人なんて一握りなんですわ。また、一から探すんですか?」

    俺は黙って聞いてた。
    さすがに二百万って聞いた時は○○を見たが、○○もばつの悪そうな顔をしていた。
    結局、父も母も分からないことにそれ以上の意見を言える筈もなく、渋々任せることになった。


    183 リアル New! 2011/05/13(金) 12:09:34.66 ID:rKgs8JSd0
    林は早速今夜に除霊をすると言い出した。 準備をすると言い、一度出掛けた。
    (出がけに両親に準備にかかる金をもらって行った)
    夕方に戻ってくると、蝋燭を立て、御札のような紙を部屋中に貼り、膝元に水晶玉を置き数珠を持ち、日本酒だと思うがそれを杯に注いだ。
    何となくそれっぽくなって来た。

    林「T君。これからお祓いするから。これでもう大丈夫だから」
    林「お父さん、お母さん。すみませんが一旦家から出ていってもらえますかね?もしかしたら霊がそっちに行く事も無い訳じゃないですから」

    両親は不本意ながら、外の車で待機する事になった。
    日も暮れて、辺りが暗くなった頃、お祓いは始まった。
    林はお経のようなものを唱えながら一定のタイミングで杯に指をつけ、俺にその滴を飛ばした。
    俺は半信半疑のまま、布団に横たわり目を閉じていた。林からそうするように言われたからだ。

    お祓いが始まってから大分たった。

    お経を唱える声が途切れ途切れになりはじめた。
    目を閉じていたから、嫌な雰囲気と少しずつおかしくなってゆくお経だけが俺に分かることだった。

    最初こそ気付かなかったが首がやけに痛い。 痒さを通り越して、明らかに痛みを感じていた。
    目を開けまいと、痛みに耐えようと歯を食いしばっているとお経が止まった。

    しかしおかしい。

    良く分からないが区切りが悪い終り方だったし、終わったにしては何も声をかけてこない。
    何より、首の痛みは一向に引かず、寧ろ増しているのだ。
    寒気も感じるし、何かが布団の上に跨がっているような気がする。




    185 リアル New! 2011/05/13(金) 12:11:57.15 ID:rKgs8JSd0
    目を開けたらいけない。それだけは絶対にしてはいけない。分かってはいたが…。開けてしまった。
    目を開けると、恐ろしい光景が飛び込んできた。

    林は、布団で寝ている俺の右手側に座りお祓いをしていた。
    目を開けると、林と向き合うように俺を挟んでアイツが正座していた。
    膝の上に手を置き、上半身だけを伸ばして林の顔を覗き込んでいる。
    林の顔とアイツの顔の間には拳一つ分くらいの隙間しかなかった。
    不思議そうに、顔を斜めにして、梟のように小刻みに顔を動かしながら、聞き取れないがぼそぼそと呟きながら林の顔を覗き込んでいた。
    今思うと林に何かを囁いていたのかもしれない。

    林は…少し俯き気味に、目線を下に落としたまま瞬きもせず、口はだらしなく開いたまま涎を垂らしていた。
    少し顔が笑っていたように見えた。 時々小さく頷いていた。
    俺は、瞬きも忘れ凝視していた。 不意にアイツの首が動きを止めた。
    次の瞬間、顔を俺に向けた。
    俺は…慌てて目をギュッと閉じ、布団を被りひたすら南無阿弥陀仏と唱えていた。
    俺の顔の間近で、アイツが梟のように顔を動かしている光景が瞼に浮かんできた。 恐ろしかった。

    ガタガタと音が聞こえ、階段を駈け降りる音が聞こえた。 林が逃げ出したようだ。
    俺は怖くて怖くて布団に潜り続けていた。
    両親が来て、電気を着けて布団を剥いだとき、丸まって身体が固まった俺がいたそうだ。
    林は、両親に見向きもせず車に乗り込み、まっていた○○、○○の友達と供に何処かへ消えていった。
    後から○○に聞いた話では、「車を出せ」以外は言わなかったらしい。
    解決するどころか、ますます悪いことになってしまった俺には、三週間先のS先生を待っている余裕など残っていなかった。

    186 リアル New! 2011/05/13(金) 12:15:37.35 ID:rKgs8JSd0
    アイツを再び目にしてからさらに4日が経った。
    当たり前かも知れないが首は随分良くなり、まだ痕が残るとは言え明らかに体力は回復していた。
    熱も下がり身体はもう問題が無かった。
    ただ、それは身体的な話でしかなくて、朝だろうが夜だろうが関係無く怯えていた。
    何時どこでアイツが姿を現すかと思うと怖くて仕方無かった。
    眠れない夜が続き、食事もほとんど受け付けられず、常に辺りの気配を気にしていた。
    たった10日足らずで、俺の顔は随分変わったと思う。
    精神的に追い詰められていた俺には時間が無かった。

    当然、まともな社会生活なんて送れる訳も無く、親から連絡を入れてもらい会社を辞めた。
    (これも後から聞いた話でしかないのだが…、連絡を入れた時は随分嫌味を言われたらしい)
    とにかく、何もかもが怖くて洗濯物や家の窓から見える柿の木が揺れただけでも、もしかしたらアイツじゃないかと一人怯えていた。
    S先生が来るまでには、まだ二週間あまりが残っていた俺には長すぎた。

    見かねた両親は、強引に怯える俺を車に押し込み何処かへ向かった。
    父が何度も「心配するな」「大丈夫だ」と声をかけた。
    車の後部座席で、母は俺の肩を抱き頭を撫でていた。母に頭を撫でられるなんて何年ぶりだったろう。
    (当時の俺にはだが)時間の感覚も無く、車で移動しながら夜を迎えた。
    二十歳も過ぎて恥ずかしい話だが、母に寄り添われ安心したのか、久方ぶりに深い眠りに落ちた。

    187 リアル New! 2011/05/13(金) 12:18:29.14 ID:rKgs8JSd0
    目が覚めるとすでに陽は登っていて、久しぶりに眠れてすっきりした。
    実際には丸1日半眠っていたらしい。
    多分、あんなに長く眠るなんてもうないだろうな。外を見ると車は見慣れない景色の中を進んでいた。

    少しずつ、見覚えのある景色が目に入り始めた。
    道路の中央に電車が走っている。車は…長崎に着いていた。これには俺も流石に驚いた。
    怯え続ける俺を気遣い、飛行機や新幹線は避け車での移動にしてくれたらしい。
    途中で休憩は何度も入れたらしいが、それでもろくに眠らず車を走らせ続けた父と、俺が怖がらないようにずっと寄り添ってくれた母への恩は、一生かけても返しきれそうもない。

    祖父母の住む所は長崎の柳川という。柳川に着くと坂道の下に車を停め両親が祖父母を呼びに行った。
    (祖父母の家は坂道から脇に入った石段を登った先にある)
    その間、俺は車の中に一人きりの状態になった。
    両親が二人で出ていったのは足腰の悪い祖母やS先生の家に持っていく荷物を運ぶのを手伝うためだったのだが、自分で「大丈夫、行って来て」なんて言ったのは本当に舐めてた証拠だと思う。
    久しぶりに眠れた事や、今いる場所が東京・埼玉と随分離れた長崎だった事が気を弛めたのかもしれない。

    車の後部座席に足をまるめて座り(体育座りね)、外をぼーっと眺めていると急に首に痛みが走った。
    今までの痛みと比較にならないほど、言い過ぎかも知れないが激痛が走った。

    188 リアル New! 2011/05/13(金) 12:20:28.62 ID:rKgs8JSd0
    首に手をやると滑りがあった。…血が出てた。指先に付いた血が、否応なしに俺を現実に引き戻した。
    この時、怖いとか、アイツが近くにいるかもって考える前に「またかよ…」ってなげやりな気持ちが先に来たな。もう何か嫌になって泣けてきた。

    分かってもらえれば嬉しいけど、嫌な事が少しの間をおいて続けて起きるのってもうどうしようも無いくらい落ち込むんだよね。
    気持ちの整理が着き始めると嫌な事が起きるっては辛いよね。
    この時は少し気が弛んでいたから尚更で、「どーしろっつーんだよ!!」とか「いい加減にしてくれよ」とか独り言をぶつぶつ言いながら泣いてた。
    車に両親が祖父母を連れて戻って来たんだけど、すぐにパニックになった。
    何しろ問題の俺が首から血を流しながら後部座席で項垂れて泣いてるからね。
    何も無い訳がないよな。
    「どうした?」とか「何とか言え!」とか「もぅやだー」とか「Tちゃん、しっかりせんか!!」とか「どげんしたと!?」とか「あなたどうしよう」とか。
    この時は…思わず「てめぇらぅるっせーんだよ!!」って怒鳴ってしまった。
    こんな時に説明なんか出来るわけねーだろって、てめぇらじゃ何も出来ねぇ癖に…黙ってろよ!とか思ってたな。
    勝手に悪い事になって仕事は辞めるわ、騙されそうになるわ…こんな俺みたいな駄目な奴のために走り回ってくれてる人達なのに…。今考えると本当に恥ずかしい。

    で、人生で一度きりなんだけどさ、親父がいきなり俺の左頬に平手打ちをしてきた。
    物凄い痛かったね。親父、滅茶苦茶厳しくて何度も口喧嘩はしたけど多分生まれてから一回も打たれた事無かったからな。
    (父のポリシーで子供は絶対殴らないってのは昔から耳タコだったしね)

    で、一言だけ「お祖父さんとお祖母さんに謝れ」って静かだけど厳しい口調で言ったんだ。
    それで、何故か落ち着いた。ってかびっくりし過ぎてそれまでの絶望感がどっかに行ってしまったよ。


    190 リアル New! 2011/05/13(金) 12:23:05.92 ID:rKgs8JSd0
    冷静さを取り戻して、皆に謝ったら急に腹が据わってきた気がした。
    走り始めた車の中で励ましてくれる祖父母の言葉に感極まってまた泣いた。
    自分で思ってるよか全然心が弱かったんだな、俺は。

    S先生の家(寺でもあるが)に着くとふっと軽くなった気がした。
    何か起きたっていうよりは俺が勝手に安心したって方が正しいだろうな。
    門をくぐり、石畳が敷かれた細い道を抜けると初老の男性が迎え入れてくれた。
    そう言えばS先生の家にはいつもお客さんがいたような気がする。
    きっと、祖母のように通っている人が多いんだろう。
    奥に通され裏手の玄関から入り進んでいくと、十畳くらいの仏間がある。
    S先生は俺の記憶の通り、仏像の前に敷かれた座布団の上に正座していて…ゆっくりと振り向いたんだ。

    (下手な長崎弁を記憶に頼って書くが見逃してな)

    祖母「Tちゃん、もうよかけんね。S先生が見てくれなさるけん」
    S先生「久しぶりねぇ。随分立派になって。早いわねぇ」
    祖母「S先生、Tちゃんば大丈夫でしょかね?」
    祖父「大丈夫って。そげん言うたかてまだ来たばかりやけんS先生かてよう分からんてさ」
    祖母「あんたさんは黙っときなさんてさ。もうあたし心配で心配で仕方なかってさ」

    何でだろう…ただS先生の前に来ただけなのにそれまで慌ていた祖父母が落ち着いていた。
    それは両親にも、俺にも伝わってきて、深く息を吐いたら身体から悪いものが出ていった気がした。
    両親はもう体力的にも精神的にも限界に近かったらしく、「疲れちゃったやろ?後はS先生が良くしてくれるけん、隣ば行って休んでたらよか」と人懐こい祖父の言葉に甘えて隣の部屋へ。

    191 リアル New! 2011/05/13(金) 12:26:19.79 ID:rKgs8JSd0
    S先生「じゃあTちゃん、こっちにいらっしゃい」S先生に呼ばれ、向かい合わせで正座した。
    S先生「それじゃIさん達も隣の部屋で寛いでらして下さい。Tちゃんと話をしますからね」
    S先生「後は任せて、こっちの部屋には良いと言うまで戻って来ては駄目ですよ?」
    祖父「S先生、Tちゃんばよろしくお願いします!」
    祖母「Tちゃん、心配なかけんね。S先生がうまいことしてくれるけん。
    あんたさんはよく言うこと聞いといたらよかけんね。ね?」

    しきりにS先生にお願いして、俺に声をかけてくれる祖父母の姿にまた涙が出てきた。
    泣きっぱなしだな俺。
    S先生はもっと近づくように言い、膝と膝を付け合わせるように座った。
    俺の手を取り、暫くは何も言わず優しい顔で俺を見ていた。
    俺は何故か悪さをして怒られるじゃないかと親の顔色を伺っていた子供の頃のような気持ちになっていた。
    目の前の、敢えて書くが自分よりも小さくて明らかに力の弱いお婆ちゃんの威圧的でもなんでもない雰囲気に呑まれていた。
    あんな人本当にいるんだな。

    S先生「…どうしようかしらね」
    俺「…」
    S先生「Tちゃん、怖い?」
    俺「…はい」
    S先生「そうよねぇ。このままって訳には行かないわよねぇ」
    俺「えっと…」
    S先生「あぁ、いいの。こっちの話だから」

    何がいいんだ!?ちっともよかねーだろなんて気持ちが溢れて来て、耐えきれずついにブチ撒けた。本当に人として未熟だなぁ、俺は。

    193 リアル New! 2011/05/13(金) 12:28:37.08 ID:rKgs8JSd0
    俺「あの、俺どーなるんすか? もう早いとこ何とかして欲しいんです。 大体何なんですか?
    何でアイツ俺に付きまとうんですか? もう勘弁してくれって感じですよ。
    S先生、何とかならないんですか?」

    S先生「Tちゃ…」
    俺「大体、俺別に悪いこと何もしてないっすよ!?確かに□□(心霊スポットね)には行ったけど俺だけじゃないし、何で俺だけこんな目に会わなきゃいけないんすか? 鏡の前で△しちゃだめだってのも関係あるんですか? ホント訳わかんねぇ!!あーっ!苛つくぅぁー!!」

    「ドォ~ドォルルシッテ」
    「ドォ~ドォルル」「チルシッテ」

    …何が何だか解らなかった。(ホントに訳解んないので取り敢えずそのまま書く)

    「ドォ~。 シッテドォ~シッテ」

    左耳に鸚鵡か鸚哥みたいな甲高くて抑揚の無い声が聞こえてきた。
    それが「ドーシテ」と繰り返していると理解するまで少し時間がかかった。
    俺はS先生の目を見ていたし、S先生は俺の目を見ていた。
    ただ優しくかったS先生の顔は無表情になっているように見えた…。

    左側の視界には何かいるってのは分かってた。 チラチラと見えちゃうからね。
    よせば良いのに、左を向いてしまった。首から生暖かい血が流れてるのを感じながら。


    195 リアル New! 2011/05/13(金) 12:31:03.08 ID:rKgs8JSd0
    アイツが立ってた。 体をくの字に曲げて、俺の顔を覗き込んでいた。
    くどいけど…訳が解らなかった。起きてることを認められなかった。
    此処は寺なのに、目の前にはS先生がいるのに…何でなんで何で…。
    一週間前に、見たまんまだった。 アイツの顔が目の前にあった。
    梟のように小刻みに顔を動かしながら俺を不思議そうに覗き込んでいた。

    「ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ? ドォシッテ?」

    鸚鵡のような声でずっと質問され続けた。
    きっと…林も同じようにこの声を聞いていたんだろう。
    俺と同じ言葉を囁かれていたのかは解らないが…。
    俺は…息する事を忘れてしまって目と口を大きく開いたままだった。
    いや、息が上手く出来なかったって方が 正しいな。たまに【コヒュッ】って感じで息を吸い込む事に失敗してた気がするし。
    そうこうしているうちに、アイツが手を動かして顔に貼り付けてあるお札みたいなのをゆっくりめくり始めたんだ。

    見ちゃ駄目だ!! 絶対駄目だって分かってるし逃げたかったんだけど動けないんだよ!!
    もう顎の辺りが見えてしまいそうなくらいまで来ていた。
    心の中では「ヤメロ!それ以上めくんな!!」って叫んでるのに口からは「ァ…ァカハッ…」みたいな情けない息しか出ないんだ。
    もうやばい!! ヤバい!ヤバい!ってところで

    「パンッ!!」

    って。 例えとか誇張でもなく“跳び上がった。 心臓が破裂するかと思った。

    204 リアル New! 2011/05/13(金) 13:00:19.41 ID:rKgs8JSd0
    「パン!!」

    その音で俺は跳び上がった。正座してたから体が倒れそうになりながら後に振り向いてすぐ走り出した。
    何か考えてた訳じゃなく体が勝手に動いたんだよね。
    でも慣れない正座のせいで足が痺れてまともに走れないのよ。
    痺れて足が縺れた事とあんまりにも前を見てないせいで頭から壁に突っ込んだがちっとも痛くなかった。
    額から血がだらだら出てたのに…、それだけテンパって周りが見えてなかったって事だな。

    血が目に入って何も見えない。手をブン回して出口を探した。けど的外れの方ばっかり探してたみたい。

    「まだいけません!」

    いきなりS先生が大きい声を出した。障子の向こうにいる両親や祖父母に言ったのか俺に言ったのか分からなかった。分からなかったがその声は俺の動きを止めるには十分だった。
    ビクってなってその場で硬直。
    またもや頭の中では物凄い回転で事態を把握しようとしていた。
    っつーか把握なんて出来る筈もなく、S先生の言うことに従っただけなんだけどね。
    俺の動きが止まり、仏間に入ろうとする両親と祖父母の動きが止まった事を確認するかのように少しの間を置いてからS先生が話始めた。

    S先生「Tちゃんごめんなさいね。怖かったわね。もう大丈夫だからこっちに戻ってらっしゃい」

    「Iさん、大丈夫ですからもう少し待ってて下さいね」

    障子(襖だったかも)の向こうからしきりに何か言ってのは聞こえてたけど覚えてない。
    血を拭いながらS先生の前に戻ると手拭いを貸してくれた。
    お香なのかしんないけどいい匂いがしたな。
    ここに来てやっとあの音はS先生が手を叩いた音だって気付いた。
    (質問出来る余裕は無かったけど)




    206 リアル New! 2011/05/13(金) 13:08:17.87 ID:rKgs8JSd0
    S先生「Tちゃん、見えたわね?聞こえた?」
    俺「見えました…どーして?って繰り返してました。」
    この時にはもうS先生の顔はいつもの優しい顔になってたんだ。俺も今度はゆっくりと、出来るだけ落ち着いて答える事だけに集中した。まぁ…考えるのを諦めたんだけどね。

    S先生「そうね。どうして?って聞いてたわね。何だと思った?」
    さっぱり分からなかった。考えようなんて思わなかったしね。

    俺「?? …いや…、ぅぅん?…分かりません」
    S先生「Tちゃんはさっきの怖い?」
    俺「怖い…です」
    S先生「何が怖いの?」
    俺「いや…、だって普通じゃないし。幽霊だし…」

    ここらへんで俺の脳は思考能力の限界を越えてたな。S先生が何が言いたいのかさっぱりだった。
    S先生「でも何もされてないわよねぇ?」
    俺「いや…首から血が出たし、それに何かお札みたいなの捲ろうとしてたし。明らかに普通じゃないし…」
    S先生「そうよねぇ。でも、それ以外は無いわよねぇ」
    俺「…」
    S先生「難しいわねぇ」
    俺「あの、よく分からなくて…すいません」
    S先生「いいのよ」

    S先生は、俺にも分かるように話してくれた。諭すっていった方がいいかもしれない。
    まず、アイツは幽霊とかお化けって呼ばれるもので間違いない。じゃあ所謂悪霊ってヤツかって言うとそう言いきっていいかS先生には難しいらしかった。
    明らかにタチが悪い部類に入るらしいけど、S先生には悪意は感じられなかったって言っていた。
    俺に起きた事は何なのかに対してはこう答えた。
    「悪気は無くても強すぎるとこうなっちゃうのよ。あの人ずっと寂しかったのね。話したい、触れたい、見て欲しい、気付いて気付いてーって、ずっと思ってたのね」
    「Tちゃんはね、分からないかもしれないけど暖かいのよ。
    色んな人によく思われてて、それがきっと“いいな~。優しそうだな~って思ったのね。
    だから自分に気付いてくれた事が嬉しくて仕方なかったんじゃないかしら」
    「でもね、Tちゃんはあの人と比べると全然弱いのね。だから、近くに居るだけでも怖くなっちゃって体が反応しちゃうのね」
    S先生は、まるで子供に話すようにゆっくりと、難しい言葉を使わないように話してくれた。

    207 リアル New! 2011/05/13(金) 13:12:17.31 ID:rKgs8JSd0
    俺はどうすればいいのか分からなくなったよ。
    アイツは絶対に悪霊とかタチの悪いヤツだと決めつけてたから。
    S先生にお祓いしてもらえばそれで終ると思ってたから…。
    それなのにS先生がアイツを庇うように話してたから…。

    S先生「さて、それじゃあ今度は何とかしないといけないわね。Tちゃん、時間かかりますけど何とかしてあげますからね」
    この一言には本当に救われたよ。 あぁ、もういいんだ。終るんだって思った。やっと安心したんだ。
    S先生に教えられたことを書きます。俺にとって一生忘れたくない言葉です。

    「見た目が怖くても、自分が知らないものでも自分と同じように苦しんでると思いなさい。
    救いの手を差し伸べてくれるのを待っていると思いなさい」

    S先生はお経をあげ始めた。お祓いのためじゃ無くアイツが成仏出来るように。
    その晩、額は裂けてたしよくよく見れば首の痕が大きく破けて痛かったけど本当にぐっすり眠れた。(お経終わってもキョドってた俺のために笑いながらその日は泊めてくれた)

    208 リアル New! 2011/05/13(金) 13:13:45.30 ID:rKgs8JSd0
    翌日、朝早く起きたつもりがS先生はすでに朝のお祈りを終らしてた。
    S先生「おはよう、Tちゃん。さ、顔洗って朝御飯食べてらっしゃい。食べ終わったら本山に向かいますからね」

    関係者でも何でもないんであまり書くのはどうかと思うが少しだけ。
    S先生が属している宗派は前にも書いた通り教科書に載るくらい歴史があって、信者の方も修行されてる方も日本全国にいらっしゃるのね。
    教えは一緒なんだけど地理的な問題から東と西それぞれに本山があるんだって。
    俺が連れていってもらったのが西の本山。
    本山に暫くお世話になって、自分が元々持っている徳(未だにどんなものか説明できないけど)を高める事と、アイツが少しでも早く成仏出来るように本山で供養してあげられるためってS先生は言ってた。
    その話を聞いて一番喜んだのが祖母、まだ信じられなそうだったのが親父。最後は俺が「もう大丈夫。行ってくる」って言ったから反対しなかったけど。

    本山に着くと迎えの若い方が待っていて、S先生に丁寧に挨拶してた。本堂の横奥にある小屋(小屋って呼ぶのが憚れるほど広くて立派だったが)で本山の方々にご挨拶。
    ここでもS先生にはかなりの低姿勢だったな。
    S先生、実は凄い人らしく、望めばかなりの地位(「寂しいけど序列ができちゃうのね」ってS先生は言ってた)にいても不思議じゃないんだって後から聞いた。
    俺は本山に暫く厄介になり、まぁ客人扱いではあったけど皆さんと同じような生活をした。
    多分、S先生の言葉添えがあったからだろうな。


    210 リアル New! 2011/05/13(金) 13:21:22.89 ID:rKgs8JSd0
    その中で、自分が本当に幸運なんだなって実感したよ。
    もう四十年間ずっと蛇の怨霊に苦しめられている女性や、家族親族まで祟りで没落してしまって
    身寄りが無くなってしまったけど、家系を辿れば立派な士族の末裔の人とか…
    俺なんかよりよっぽど辛い思いしてる人がこんなにいるなんて知らなかったから…。
    厳しい生活の中にいたからなのか、場所がそうだからなのか、
    あるいはS先生の話があったからなのか恐怖は大分薄れた。
    (とは言うものの、ふと瞬間にアイツがそばに来てる気がしてかなり怯えたけど)

    本山に預けてもらって一ヶ月経った頃S先生がいらっしゃった。
    S先生「あらあら、随分良くなったみたいね」
    俺「えぇ、S先生のおかげですね」
    S先生「あれから見えたりした?」
    俺「いや…一回も。多分成仏したかどっかにいったんじゃないですか?ここ、本山だし」
    S先生「そんな事ないわよ?」

    顔がひきつった。

    S先生「あら、ごめんなさい。また怖くなっちゃうわよね」
    「でもねTちゃん、ここには沢山の苦しんでる人がいるの。
       その人達を少しでも多く助けてあげるのが私達の仕事なのよ」
    多分だけどS先生の言葉にはアイツも含まれてたんだと思う。

    S先生「Tちゃん、もう少しここにいて勉強しなさい。折角なんだから」

    俺はS先生の言葉に従った。あの時の事がまだまだ尾を引いていて、まだここにいたいって思ってたからね。
    それに一日はあっという間なんだけど…何て言うか時間がゆっくり流れてような感じが好きだったな。
    (何か矛盾してるけどね)そんなこんなが続いて、結局三ヶ月も居座ってしまった。
    その間S先生は(二ヶ月前に来たきり)こっちには顔を出さなかった。
    やっぱりS先生の言葉がないと不安だからね。
    でも、哀しいかな流石に三ヶ月もそれまで自分がいた騒々しい世界から隔離去れると物足りない気持ちが強くなってた。

    211 リアル New! 2011/05/13(金) 13:25:33.18 ID:rKgs8JSd0
    実に二ヶ月ぶりにS先生がやって来てやっと本山での生活は終りを迎えようとしていた。
    身支度を整え、兎に角お世話になった皆さんに一人ずつ御礼を言いS先生と帰ろうとしたんだ。
    でも気付くと横にいたはずのS先生がいない。「あれ?」と思って振り向いたら少し後にいたんだ。
    「歩くの速すぎたかな?」って思って戻ったら優しい顔で
    「Tちゃん、帰るのやめてここに居たら?」って言われた。

    実はS先生に認められた気がして少し嬉しかった。

    「いや、僕にはここの人達みたいには出来ないです。本当に皆さん凄いと思います。真似出来そうもないですよ」

    照れながら答えたら

    S先生「そうじゃなくて帰っちゃ駄目みたいなのよ」
    俺「え?」
    S先生「だってまだ残ってるから」

    また顔がひきつった。
    結局、本山を降りる事が出来たのはそれから二ヶ月後だった。
    実に五ヶ月も居座ってしまった。多分、こんなに長く家族でも無い誰かに生活の面倒を見てもらう事はこの先ないだろう。
    S先生から「多分もう大丈夫だと思うけど、しばらくの間は月に一度おいでなさい。」と言われた。
    アイツが消えたのか、それとも隠れてれのか本当のところは分からないからだそうだ。
    長かった本山の生活も終ってやっと日常に戻って来た。
    借りてたアパートは母が退去手続きを済ましてくれていて、実家には俺の荷物が運び込まれてた。

    アパートの部屋を開けた時、何かを燻したような臭いと部屋の真ん中辺りの床に小さな虫が集まってたらしい。
    怖すぎたらしくその日はなにもしないで帰って来たんだってさ。
    翌日、仕方無いんで意を決してまた部屋を開けたら臭いは残ってたけど虫は消えてたらしい。
    母には申し訳ないが俺が見なくて良かった

    212 リアル New! 2011/05/13(金) 13:27:22.34 ID:rKgs8JSd0
    実家に戻り、実に約半年ぶりくらいに携帯を見ると(そーいやそれまでは気にならなかったな。)物凄い件数の着信とメールがあった。 中でも一番多かったのが○○。
    メールから、奴は奴なりに自分のせいでこんな事になったって自責の念があったらしく、謝罪とかこうすればいいとかこんな人が見つかったとかまめに連絡が入ってた。
    母から、○○が家まで来た事も聞いた。 戻って二日目の夜、○○に電話を入れた。電話口が騒がしい。○○は呂律が回らず何を言っているか分からなかった。

    …コンパしてやがった。

    とりあえず電話をきり「殺すぞ」とメールを送っておいた。 所詮世の中他人は他人だ。
    翌日、○○から誤りたいから時間くれないか?とメールが来た。電話じゃなかったのは気まずかったからだろう。
    夜になると、家まで○○が来た。わざわざ遠いところまで来るくらいだ。
    相当後悔と反省をしていたのだろう。(夜に出歩くのを俺が嫌ったからってのが一番の理由である事は言うまでもない)
    玄関を開け○○を見るなり二発ぶん殴ってやった。
    一発は奴の自責の念を和らげるため、一発はコンパなんぞに行ってて俺を苛つかせた事への贖罪のめに。

    言葉で許されるよりも殴られた方がすっきりする事もあるしね。
    まぁ、二発目は俺の個人的な怒りだが。
    ○○に経緯を細かく話し、その晩は二人して興奮したり怖がったり…今思うと当たり前の日常だなぁ。

    213 リアル New! 2011/05/13(金) 13:30:55.97 ID:rKgs8JSd0
    ○○からは、あの晩のそれからを聞いた。
    あの晩、逃げたした時には林は明らかにおかしくなっていた。
    林の車の中で友達と待っていた○○には、まず間違いなくヤバい事になっているって事がすぐに分かったそうだ。
    でも、後部座席に飛び乗ってきた林の焦り方は尋常じゃ無かったらしく、車を出さざるを得なかったらしい。
    「反抗したりもたついたりしたら何されっか分かんなかったんだよ」

    ○○の言葉が状況を物語っていた。
    ○○は、車が俺の家から離れ高速の入り口近くの信号に捕まった時に、逃げ出したらしい。

    ○○「だってあいつ、途中から笑い出したり、震えたり、“俺は違う“とか“そんな事しません“とか言い出して怖いんだもんよ」

    アイツが何か囁いてる姿が甦ってきて頭の中の映像を消すのに苦労した。
    俺の家に戻って来なかったのは単純に怖すぎたからだって。
    「根性無しですみませんでした」って謝ってたから許した。
    俺が○○でも勘弁だしね。
    その後、林がどうなったかは誰も知らない。さすがに今回の件では○○も頭に来たらしく、林を紹介した友達を問い詰めたらしい。
    結局、林は詐欺師まがいにも成りきれないようなどうしようも無いヤツだったらしく、唆されて軽い気持ち(小遣い稼ぎだってさ…)で紹介したんだと。

    ○○曰く「ちゃんとボコボコにしといたから勘弁してくれ!」との事。
    でもこんな状況を招いたのが自分の情報だってのには参ったから、今度は持てる人脈を総動員したが…
    こんなことに首を突っ込んだり聞いた事がある奴が回りにいるはずもなく、多分とか~だろうとかってレベルの情報しか無かったんだ。

    だから「何か条件が幾つかあって、偶々揃っちゃうと起きるんじゃないか」としか言えなかった。

    214 リアル New! 2011/05/13(金) 13:34:11.55 ID:rKgs8JSd0
    その後、俺はS先生の言い付けを守って毎月一度、S先生を訪ねた。
    最初の一年は毎月、次の一年は三か月に一度。 ○○も、俺への謝罪からか何も無くても家まで来ることが増えたし、
    S先生のところに行く前と帰ってきた時には必ず連絡が来た。

    アイツを見てから二年が経った頃、S先生から「もう心配いらなそうね。Tちゃん、これからはたまに顔出せばいいわよ。でも、変な事しちゃだめよ」って言ってもらえた。

    本当に終ったのか…俺には分からない。S先生はその三ヶ月後、他界されてしまった。
    敬愛すべきS先生、もっと多くの事を教えて欲しかった。ただ、今は終ったと思いたい。

    S先生のお葬式から二ヶ月が経った。
    寂しさと、大切な人を亡くした喪失感も薄れ始め俺は日常に戻っていた。
    慌ただしい毎日の隙間にふとあの頃を思い出す時がある。あまりにも日常からかけ離れ過ぎていて、
    本当に起きた事だったのか分からなくこともある。
    こんな話を誰かにするわけもなく、またする必要もなく、ただ毎日を懸命に生きてくだけだ。

    祖母から一通の手紙が来たのはそんなごくごく当たり前の日常の中だった。
    封を切ると、祖母からの手紙と、もう一つ手紙が出てきた。
    祖母の手紙には俺への言葉と共にこう書いてあった。
    “S先生から渡されていた手紙です。四十九日も終わりましたのでS先生との約束通りTちゃんにお渡しします“

    S先生の手紙、今となってはそこに書かれている言葉の真偽が確かめられないし、そのままで書く事は俺には憚られるので崩して書く。


    216 リアル New! 2011/05/13(金) 13:37:20.60 ID:rKgs8JSd0
    Tちゃんへ
    ご無沙汰しています。Sです。あれから大分経ったわねぇ。
    もう大丈夫?怖い思いをしてなければいいのだけど…。
    いけませんね、年をとると回りくどくなっちゃって。
    今日はね、Tちゃんに謝りたくてお手紙を書いたの。
    でも悪い事をした訳じゃ無いのよ。あの時はしょうがなかったの。 でも…、ごめんなさいね。

    あの日、Tちゃんがウチに来た時、先生本当は凄く怖かったの。
    だってTちゃんが連れていたのはとてもじゃ無いけど先生の手に負えなかったから。
    だけどTちゃん怯えてたでしょう?だから先生が怖がっちゃいけないって、そう思ったの。

    本当の事を言うとね、いくら手を差し伸べても見向きもされないって事もあるの。あの時は、運が良かったのね。
    Tちゃん、本山での生活はどうだった? 少しでも気が紛れたかしら?
    Tちゃんと会う度に先生まだ駄目よって言ったでしょう? 覚えてる?

    このまま帰ったら酷い事になるって思ったの。
    だから、Tちゃんみたいな若い子には退屈だとは分かってたんだけど帰らせられなかったのね。
    先生、毎日お祈りしたんだけど中々何処かへ行ってくれなくて。

    でも、もう大丈夫なはずよ。近くにいなくなったみたいだから。
    でもねTちゃん、もし…もしもまた辛い思いをしたらすぐに本山に行きなさい。
    あそこなら多分Tちゃんの方が強くなれるから中々手を出せないはずよ。

    218 リアル New! 2011/05/13(金) 14:02:03.21 ID:rKgs8JSd0
    S先生の手紙の続き

    最後にね、ちゃんと教えておかないといけない事があるの。
    あまりにも辛かったら、仏様に身を委ねなさい。
    もう辛い事しか無くなってしまった時には、心を決めなさい。
    決してTちゃんを死なせたい訳じゃないのよ。
    でもね、もしもまだ終っていないとしたらTちゃんにとっては辛い時間が終らないって事なの。

    Tちゃんも本山で何人もお会いしたでしょう?

    本当に悪いモノはね、ゆっくりと時間をかけて苦しめるの。決して終らせないの。
    苦しんでる姿を見てニンマリとほくそ笑みたいのね。
    悔しいけど、先生達の力が及ばなくて目の前で苦しんでいても何もしてあげられない事もあるの。
    あの人達も助けてあげたいけど…、どうにも出来ない事が多くて…。
    先生何とかTちゃんだけは助けたくて手を尽くしたんだけど、正直自信が持てないの。
    気配は感じないし、いなくなったとも思うけど、まだ安心しちゃ駄目。安心して気を弛めるのを待っているかも知れないから。

    いい?Tちゃん。
    決して安心しきっては駄目よ。いつも気を付けて、怪しい場所には近付かず、
    余計な事はしないでおきなさい。先生を信じて。ね?

    嘘ばかりついてごめんなさい。
    信じてって言う方が虫が良すぎるのは分かっています。
    それでも、最後まで仏様にお願いしていた事は信じてね。
    Tちゃんが健やかに毎日を過ごせるよう、いつも祈ってます。

    S

    219 リアル New! 2011/05/13(金) 14:04:20.50 ID:rKgs8JSd0
    読みながら、手紙を持つ手が震えているのが分かる。
    気持ちの悪い汗もかいている。鼓動が早まる一方だ。一体、どうすればいい?
    まだ…、終っていないのか?

    急にアイツが何処かから見ているような気がしてきた。もう、逃れられないんじゃないか?
    もしかしたら、隠れてただけでその気になればいつでも俺の目の前に現れる事が出来るんじゃないか?
    一度疑い始めたら、もうどうしようもない。全てが疑わしく思えてくる。

    S先生は、ひょっとしたらアイツに苦しめられたんじゃないか?
    だから、こんな手紙を遺してくれたんじゃないか?
    結局…、何も変わっていないんじゃないか?

    林は、ひょっとしたらアイツに付きまとわれてしまったんじゃないか?
    一体アイツに何を囁かれたんだ。俺とは違う、もっと直接的な事を言われて…、おかしくなったんじゃないか?

    S先生は、俺を心配させないように嘘をついてくれたけど、「嘘をつかなければならないほど」の事だったのか…。
    結局、それが分かってるからS先生は最後まで心配してたんじゃないのか?
    疑えば疑うほど混乱してくる。どうしたらいいのかまるで分からない。

    220 リアル New! 2011/05/13(金) 14:06:27.13 ID:rKgs8JSd0
    ここまでしか…俺が知っている事はない。
    二年半に渡り今でも終ったかどうか定かではない話の全てだ。

    結局、理由も分からないし、都合よく解決できたり何かを知ってる人がすぐそばにいるなんて事は無かった。
    何処から得たか定かではない知識が招いたものなのか、あるいはそれが何かしらの因果関係にあったのか…。
    俺には全く理解できないし、偶々としか言えない。

    でも、偶々にしてはあまりにも辛すぎる。
    果たしてここまで苦しむような罪を犯したのだろうか?犯していないだろう?
    だとしたら…何でなんだ?不公平過ぎるだろう。それが正直な気持ちだ。

    俺に言える事があるとしたらこれだけだ。
    「何かに取り憑かれたり狙われたり付きまとわれたりしたら、マジで洒落にならんことを改めて言っておく。
    最後まで、誰かが終ったって言ったとしても気を抜いちゃ駄目だ」


    222 リアル(最後) New! 2011/05/13(金) 14:10:29.09 ID:rKgs8JSd0
    そして…、最後の最後で申し訳ないが俺には謝らなければいけない事があるんだ。
    この話の中には小さな嘘が幾つもある。
    これは多少なりとも分かり易くするためだったり、俺には分からない事もあっての事なので目をつぶって欲しい。
    おかげで意味がよく分からない箇所も多かったと思う。合わせてお詫びとさせて欲しい。

    ただ…、謝りたいのはそこじゃあない。
    もっと、この話の成り立ちに関わる根本的な部分で俺は嘘をついている。
    気付かなかったと思うし、気付かれないように気を付けた。
    そうしなければ伝わらないと思ったから。
    矛盾を感じる事もあるだろう。がっかりされてしまうかもしれない…。
    でもこの話を誰かに知って欲しかった。





    俺は○○だよ。

    ‥今更悔やんでも悔やみきれない。



    4 一 巨頭オ

    70 名前:番組の途中ですが名無しです[] 投稿日:2006/06/11(日) 17:27:28 ID:Xnkh5WsT0
    数年前、ふとある村の事を思い出した。
    一人で旅行した時に行った小さな旅館のある村。
    心のこもったもてなしが印象的だったが、なぜか急に行きたくなった。


    連休に一人で車を走らせた。
    記憶力には自信があるほうなので、道は覚えている。
    村に近付くと、場所を示す看板があるはずなのだが、
    その看板を見つけたときあれっと思った。
    「この先○○km」となっていた(と思う)のが、「巨頭オ」になっていた。
    変な予感と行ってみたい気持ちが交錯したが、行ってみる事にした。
    車で入ってみると村は廃村になっており、建物にも草が巻きついていた。

    車を降りようとすると、20mくらい先の草むらから、
    頭がやたら大きい人間?が出てきた。

    え?え?とか思っていると、周りにもいっぱいいる!
    しかもキモい動きで追いかけてきた・・・。
    両手をピッタリと足につけ、デカイ頭を左右に振りながら。

    車から降りないでよかった。
    恐ろしい勢いで車をバックさせ、
    とんでもない勢いで国道まで飛ばした。
    帰って地図を見ても、数年前に言った村と、
    その日行った場所は間違っていなかった。

    だが、もう一度行こうとは思わない。



    5 三 パンドラ

    23: パンドラ[禁后]1 2011/12/16(金) 17:09:29.75 ID:s+XHJkPg0
    パンドラ[禁后]
    https://jump.2ch.net/?horror-terror.com/c-real/entry_2412.html
    私の故郷に伝わっていた「禁后」というものにまつわる話です。
    どう読むのかは最後までわかりませんでしたが、私たちの間では「パンドラ」と呼ばれていました。



    私が生まれ育った町は静かでのどかな田舎町でした。
    目立った遊び場などもない寂れた町だったのですが、一つだけとても目を引くものがありました。
    町の外れ、たんぼが延々と続く道にぽつんと建っている一軒の空き家です。
    長らく誰も住んでいなかったようでかなりボロく、古くさい田舎町の中でも一際古さを感じさせるような家でした。
    それだけなら単なる古い空き家…で終わりなのですが、目を引く理由がありました。
    一つは両親など町の大人達の過剰な反応。
    その空き家の話をしようとするだけで厳しく叱られ、時にはひっぱたかれてまで怒られることもあったぐらいです。
    どの家の子供も同じで、私もそうでした。
    もう一つは、その空き家にはなぜか玄関が無かったということ。
    窓やガラス戸はあったのですが、出入口となる玄関が無かったのです。
    以前に誰かが住んでいたとしたら、どうやって出入りしていたのか?
    わざわざ窓やガラス戸から出入りしてたのか?
    そういった謎めいた要素が興味をそそり、いつからか勝手に付けられた「パンドラ」という呼び名も相まって、当時の子供達の一番の話題になっていました。
    (この時点では「禁后」というものについてまだ何も知りません。)
    私を含め大半の子は何があるのか調べてやる!と探索を試みようとしていましたが、普段その話をしただけでも親達があんなに怒るというのが身に染みていたため、なかなか実践できずにいました。
    場所自体は子供だけでも難なく行けるし、人目もありません。
    たぶん、みんな一度は空き家の目の前まで来てみたことがあったと思います。
    しばらくはそれで雰囲気を楽しみ、何事もなく過ごしていました。

    私が中学にあがってから何ヵ月か経った頃、ある男子がパンドラの話に興味を持ち、ぜひ見てみたいと言いだしました。
    名前はAとします。
    A君の家はお母さんがもともとこの町の出身で他県に嫁いでいったそうですが、離婚を機に実家であるお祖母ちゃんの家に戻ってきたとのこと。
    A君自身はこの町は初めてなので、パンドラの話も全く知らなかったようです。


    24: パンドラ[禁后]2 2011/12/16(金) 17:10:35.26 ID:s+XHJkPg0
    その当時私と仲の良かったB君・C君・D子の内、B君とC君が彼と親しかったので自然と私達の仲間内に加わっていました。
    五人で集まってたわいのない会話をしている時、私達が当たり前のようにパンドラという言葉を口にするので、気になったA君がそれに食い付いたのでした。
    「うちの母ちゃんとばあちゃんもここの生まれだけど、その話聞いたらオレも怒られんのかな?」
    「怒られるなんてもんじゃねえぜ?うちの父ちゃん母ちゃんなんか本気で殴ってくるんだぞ!」
    「うちも。意味わかんないよね」
    A君にパンドラの説明をしながら、みんな親への文句を言い始めます。
    ひととおり説明し終えると、一番の疑問である「空き家に何があるのか」という話題になりました。
    「そこに何があるかってのは誰も知らないの?」
    「知らない。入ったことないし聞いたら怒られるし。知ってんのは親達だけなんじゃないか?」
    「だったらさ、何を隠してるのかオレたちで突き止めてやろうぜ!」
    Aは意気揚揚と言いました。
    親に怒られるのが嫌だった私と他の三人は最初こそ渋っていましたが、Aのノリにつられたのと、今までそうしたくともできなかったうっぷんを晴らせるということで、結局みんな同意します。
    その後の話し合いで、いつも遊ぶ時によくついてくるDの妹も行きたいという事になり、六人で日曜の昼間に作戦決行となりました。

    当日、わくわくした面持ちで空き家の前に集合、なぜか各自リュックサックを背負ってスナック菓子などを持ち寄り、みんな浮かれまくっていたのを覚えています。
    前述のとおり、問題の空き家はたんぼに囲まれた場所にぽつんと建っていて、玄関がありません。
    二階建の家ですが窓まで昇れそうになかったので、中に入るには一階のガラス戸を割って入るしかありませんでした。
    「ガラスの弁償ぐらいなら大した事ないって」
    そう言ってA君は思いっきりガラスを割ってしまい、中に入っていきました。
    何もなかったとしてもこれで確実に怒られるな…と思いながら、みんなも後に続きます。
    そこは居間でした。



    25: パンドラ[禁后]3 2011/12/16(金) 17:11:58.49 ID:s+XHJkPg0
    左側に台所、正面の廊下に出て左には浴室と突き当たりにトイレ、右には二階への階段と、本来玄関であろうスペース。
    昼間ということもあり明るかったですが、玄関が無いせいか廊下のあたりは薄暗く見えました。
    古ぼけた外観に反して中は予想より綺麗…というより何もありません。
    家具など物は一切なく、人が住んでいたような跡は何もない。
    居間も台所もかなり広めではあったもののごく普通。

    「何もないじゃん」
    「普通だな?何かしら物が残ってるんだと思ってたのに。」
    何もない居間と台所をあれこれ見ながら、男三人はつまらなそうに持ってきたお菓子をボリボリ食べ始めました。
    「てことは、秘密は二階かな」
    私とD子はD妹の手を取りながら二階に向かおうと廊下に出ます。

    しかし、階段は…と廊下に出た瞬間、私とD子は心臓が止まりそうになりました。
    左にのびた廊下には途中で浴室があり突き当たりがトイレなのですが、その間くらいの位置に鏡台が置かれ、真前につっぱり棒のようなものが立てられていました。
    そして、その棒に髪がかけられていたのです。
    どう表現していいかわからないのですが、カツラのように髪型として形を成したものというか、ロングヘアの女性の後ろ髪がそのままそこにあるという感じです。(伝わりにくかったらごめんなさい)
    位置的にも、平均的な身長なら大体その辺に頭がくるだろうというような位置で棒の高さが調節してあり、まるで「女が鏡台の前で座ってる」のを再現したみたいな光景。
    一気に鳥肌が立ち、「何何!?何なのこれ!?」と軽くパニックの私とD子。
    何だ何だ?と廊下に出てきた男三人も意味不明な光景に唖然。
    D妹だけが、あれなぁに?ときょとんとしていました。

    「なんだよあれ?本物の髪の毛か?」
    「わかんない。触ってみるか?」
    A君とB君はそんな事を言いましたが、C君と私達は必死で止めました。
    「やばいからやめろって!気持ち悪いし絶対何かあるだろ!」
    「そうだよ、やめなよ!」
    どう考えても異様としか思えないその光景に恐怖を感じ、ひとまずみんな居間に引っ込みます。


    26: パンドラ[禁后]4 2011/12/16(金) 17:12:36.35 ID:s+XHJkPg0
    居間からは見えませんが、廊下の方に視線をやるだけでも嫌でした。
    「どうする…?廊下通んないと二階行けないぞ」
    「あたしやだ。あんなの気持ち悪い」
    「オレもなんかやばい気がする」

    C君と私とD子の三人はあまりに予想外のものを見てしまい、完全に探索意欲を失っていました。
    「あれ見ないように行けばだいじょぶだって。二階で何か出てきたって階段降りてすぐそこが出口だぜ?しかもまだ昼間だぞ?」
    AB両人はどうしても二階を見たいらしく、引け腰の私達三人を急かします。
    「そんな事言ったって…」
    私達が顔を見合わせどうしようかと思った時、はっと気付きました。
    「あれ?D子、〇〇ちゃんは?」
    「えっ?」
    全員気が付きました。

    D妹がいないのです。
    私達は唯一の出入口であるガラス戸の前にいたので、外に出たという事はありえません。
    広めといえど居間と台所は一目で見渡せます。
    その場にいるはずのD妹がいないのです。
    「〇〇!?どこ!?返事しなさい!!」
    D子が必死に声を出しますが返事はありません。
    「おい、もしかして上に行ったんじゃ…」
    その一言に全員が廊下を見据えました。
    「やだ!なんで!?何やってんのあの子!?」
    D子が涙目になりながら叫びます。
    「落ち着けよ!とにかく二階に行くぞ!」
    さすがに怖いなどと言ってる場合でもなく、すぐに廊下に出て階段を駆け上がっていきました。
    「おーい、〇〇ちゃん?」
    「〇〇!いい加減にしてよ!出てきなさい!」

    みなD妹へ呼び掛けながら階段を進みますが、返事はありません。
    階段を上り終えると、部屋が二つありました。
    どちらもドアは閉まっています。


    27: パンドラ[禁后]5 2011/12/16(金) 17:13:37.38 ID:s+XHJkPg0
    まずすぐ正面のドアを開けました。
    その部屋は外から見たときに窓があった部屋です。
    中にはやはり何もなく、D妹の姿もありません。
    「あっちだな」
    私達はもう一方のドアに近付き、ゆっくりとドアを開けました。
    D妹はいました。
    ただ、私達は言葉も出せずその場で固まりました。
    その部屋の中央には、下にあるのと全く同じものがあったのです。
    鏡台とその真前に立てられた棒、そしてそれにかかった長い後ろ髪。
    異様な恐怖に包まれ、全員茫然と立ち尽くしたまま動けませんでした。
    「ねえちゃん、これなぁに?」
    不意にD妹が言い、次の瞬間とんでもない行動をとりました。
    彼女は鏡台に近付き、三つある引き出しの内、一番上の引き出しを開けたのです。

    「これなぁに?」
    D妹がその引き出しから取り出して私達に見せたもの…
    それは筆のようなもので「禁后」と書かれた半紙でした。
    意味がわからずD妹を見つめるしかない私達。
    この時、どうしてすぐに動けなかったのか、今でもわかりません。
    D妹は構わずその半紙をしまって引き出しを閉め、今度は二段目の引き出しから中のものを取り出しました。
    全く同じもの、「禁后」と書かれた半紙です。
    もう何が何だかわからず、私はがたがたと震えるしか出来ませんでしたが、D子が我に返りすぐさま妹に駆け寄りました。
    D子ももう半泣きになっています。
    「何やってんのあんたは!」
    妹を厳しく怒鳴りつけ、半紙を取り上げると引き出しを開け、しまおうとしました。

    この時、D妹が半紙を出した後すぐに二段目の引き出しを閉めてしまっていたのが問題でした。
    慌てていたのかD子は二段目ではなく三段目、一番下の引き出しを開けたのです。
    ガラッと引き出しを開けたとたん、D子は中を見つめたまま動かなくなりました。
    黙ってじっと中を見つめたまま、微動だにしません。
    「ど、どうした!?何だよ!?」
    ここでようやく私達は動けるようになり、二人に駆け寄ろうとした瞬間、ガンッ!!と大きな音をたてD子が引き出しを閉めました。


    28: パンドラ[禁后]6 2011/12/16(金) 17:14:23.75 ID:s+XHJkPg0
    そして肩より長いくらいの自分の髪を口元に運び、むしゃむしゃとしゃぶりだしたのです。
    「お、おい?どうしたんだよ!?」
    「D子?しっかりして!」
    みんなが声をかけても反応が無い。
    ただひたすら、自分の髪をしゃぶり続けている。

    その行動に恐怖を感じたのかD妹も泣きだし、ほんとうに緊迫した状況でした。
    「おい!どうなってんだよ!?」
    「知らねえよ!何なんだよこれ!?」
    「とにかく外に出てうちに帰るぞ!ここにいたくねえ!」
    D子を三人が抱え、私はD妹の手を握り急いでその家から出ました。
    その間もD子はずっと髪をびちゃびちゃとしゃぶっていましたが、どうしていいかわからず、とにかく大人のところへ行かなきゃ!という気持ちでした。
    その空き家から一番近かった私の家に駆け込み、大声で母を呼びました。

    泣きじゃくる私とD妹、汗びっしょりで茫然とする男三人、そして奇行を続けるD子。
    どう説明したらいいのかと頭がぐるぐるしていたところで、声を聞いた母が何事かと現われました。
    「お母さぁん!」
    泣きながらなんとか事情を説明しようとしたところで母は私と男三人を突然ビンタで殴り、怒鳴りつけました。
    「あんた達、あそこへ行ったね!?あの空き家へ行ったんだね!?」
    普段見たこともない形相に私達は必死に首を縦に振るしかなく、うまく言葉を発せませんでした。
    「あんた達は奥で待ってなさい。すぐみんなのご両親達に連絡するから。」
    そう言うと母はD子を抱き抱え、二階へ連れていきました。

    私達は言われた通り、私の家の居間でただぼーっと座り込み、何も考えられませんでした。
    それから一時間ほどはそのままだっと思います。
    みんなの親たちが集まってくるまで、母もD子も二階から降りてきませんでした。
    親達が集まった頃にようやく母だけが居間に来て、ただ一言、「この子達があの家に行ってしまった」と言いました。
    親達がざわざわとしだし、みんなが動揺したり取り乱したりしていました。
    「お前ら!何を見た!?あそこで何を見たんだ!?」
    それぞれの親達が一斉に我が子に向かって放つ言葉に、私達は頭が真っ白で応えられませんでしたが、何とかA君とB君が懸命に事情を説明しました。


    29: パンドラ[禁后]7 2011/12/16(金) 17:16:15.80 ID:s+XHJkPg0
    「見たのは鏡台と変な髪の毛みたいな…あとガラス割っちゃって…」
    「他には!?見たのはそれだけか!?」
    「あとは…何かよくわかんない言葉が書いてある紙…」
    その一言で急に場が静まり返りました。
    と同時に二階からものすごい悲鳴。

    私の母が慌てて二階に上がり数分後、母に抱えられて降りてきたのはD子のお母さんでした。
    まともに見れなかったぐらい涙でくしゃくしゃでした。
    「見たの…?D子は引き出しの中を見たの!?」
    D子のお母さんが私達に詰め寄りそう問い掛けます。
    「あんた達、鏡台の引き出しを開けて中にあるものを見たか?」
    「二階の鏡台の三段目の引き出しだ。どうなんだ?」
    他の親達も問い詰めてきました。

    「一段目と二段目は僕らも見ました…三段目は…D子だけです…」
    言い終わった途端、D子のお母さんがものすごい力で私達の体を掴み、「何で止めなかったの!?あんた達友達なんでしょう!?何で止めなかったのよ!?」と叫びだしたのです。
    D子のお父さんや他の親達が必死で押さえ「落ち着け!」「奥さんしっかりして!」となだめようとし、しばらくしてやっと落ち着いたのか、D妹を連れてまた二階へ上がっていってしまいました。
    そこでいったん場を引き上げ、私達四人はB君の家に移りB君の両親から話を聞かされました。
    「お前達が行った家な、最初から誰も住んじゃいない。あそこはあの鏡台と髪の為だけに建てられた家なんだ。オレや他の親御さん達が子供の頃からあった。」
    「あの鏡台は実際に使われていたもの、髪の毛も本物だ。それから、お前達が見たっていう言葉。この言葉だな?」
    そういってB君のお父さんは紙とペンを取り、「禁后」と書いて私達に見せました。
    「うん…その言葉だよ」
    私達が応えると、B君のお父さんはくしゃっと丸めたその紙をごみ箱に投げ捨て、そのまま話を続けました。
    「これはな、あの髪の持ち主の名前だ。読み方は知らないかぎりまず出てこないような読み方だ」
    「お前達が知っていいのはこれだけだ。金輪際あの家の話はするな。近づくのもダメだ。わかったな?とりあえず今日はみんなうちに泊まってゆっくり休め。」
    そう言って席を立とうとしたB君のお父さんにB君は意を決したようにこう聞きました。
    「D子はどうなったんだよ!?あいつは何であんな…」と言い終わらない内にB君のお父さんが口を開きました。



    30: パンドラ[禁后]8 2011/12/16(金) 17:17:19.70 ID:s+XHJkPg0
    「あの子の事は忘れろ。もう二度と元には戻れないし、お前達とも二度と会えない。それに…」
    B君のお父さんは少し悲しげな表情で続けました。
    「お前達はあの子のお母さんからこの先一生恨まれ続ける。今回の件で誰かの責任を問う気はない。だが、さっきのお母さんの様子でわかるだろ?お前達はもうあの子に関わっちゃいけないんだ」
    そう言って、B君のお父さんは部屋を出ていってしまった。
    私達は何も考えられなかった。
    その後どうやって過ごしたかもよくわからない。
    本当に長い1日でした。

    それからしばらくは普通に生活していました。
    翌日から私の親もA達の親も一切この件に関する話はせず、D子がどうなったかもわかりません。
    学校には一身上の都合となっていたようですが、一ヵ月程してどこかへ引っ越してしまったそうです。
    また、あの日私達以外の家にも連絡が行ったらしく、あの空き家に関する話は自然と減っていきました。
    ガラス戸などにも厳重な対策が施され中に入れなくなったとも聞いています。
    私やA達はあれ以来一度もあの空き家に近づいておらず、D子の事もあってか疎遠になっていきました。
    高校も別々でしたし、私も三人も町を出ていき、それからもう十年以上になります。

    ここまで下手な長文に付き合ってくださったのに申し訳ないのですが、結局何もわからずじまいです。
    ただ、最後に…
    私が大学を卒業した頃ですが、D子のお母さんから私の母宛てに手紙がありました。
    内容はどうしても教えてもらえなかったのですが、その時の母の言葉が意味深だったのが今でも引っ掛かっています。

    「母親ってのは最後まで子供の為に隠し持ってる選択があるのよ。もし、ああなってしまったのがあんただったとしたら、私もそれを選んでたと思うわ。それが間違った答えだとしてもね」

    代々、母から娘へと三つの儀式が受け継がれていたある家系にまつわる話。
    まずはその家系について説明します。
    その家系では娘は母の「所有物」とされ、娘を「材料」として扱うある儀式が行われていました。


    31: パンドラ[禁后]9 2011/12/16(金) 17:17:57.19 ID:s+XHJkPg0
    母親は二人または三人の女子を産み、その内の一人を「材料」に選びます。
    (男子が生まれる可能性もあるはずですが、その場合どうしていたのかはわかりません)
    選んだ娘には二つの名前を付け、一方は母親だけが知る本当の名として生涯隠し通されます。
    万が一知られた時の事も考え、本来その字が持つものとは全く違う読み方が当てられるため、字が分かったとしても読み方は絶対に母親しか知り得ません。
    母親と娘の二人きりだったとしても、決して隠し名で呼ぶ事はありませんでした。
    忌み名に似たものかも知れませんが、「母の所有物」であることを強調・証明するためにしていたそうです。
    また、隠し名を付けた日に必ず鏡台を用意し、娘の10、13、16歳の誕生日以外には絶対にその鏡台を娘に見せないという決まりもありました。
    これも、来たるべき日のための下準備でした。

    本当の名を誰にも呼ばれることのないまま、「材料」としての価値を上げるため、幼少時から母親の「教育」が始まります。
    (選ばれなかった方の娘はごく普通に育てられていきます)
    例えば…
    ・猫、もしくは犬の顔をバラバラに切り分けさせる
    ・しっぽだけ残した胴体を飼う
    (娘の周囲の者が全員、これを生きているものとして扱い、娘にそれが真実であると刷り込ませていったそうです)
    ・猫の耳と髭を使った呪術を教え、その呪術で鼠を殺す
    ・蜘蛛を細かく解体させ、元の形に組み直させる
    ・糞尿を食事に(自分や他人のもの)など。

    全容はとても書けないのでほんの一部ですが、どれもこれも聞いただけで吐き気をもよおしてしまうようなものばかりでした。
    中でも動物や虫、特に猫に関するものが全体の3分の1ぐらいだったのですが、これは理由があります。
    この家系では男と関わりを持つのは子を産むためだけであり、目的数の女子を産んだ時点で関係が断たれるのですが、条件として事前に提示したにも関わらず、家系や呪術の秘密を探ろうとする男も中にはいました。
    その対応として、ある代からは男と交わった際に呪術を使って憑きものを移すようになったのです。
    それによって自分達が殺した猫などの怨念は全て男の元へ行き、関わった男達の家で憑きもの筋のように災いが起こるようになっていたそうです。
    そうする事で、家系の内情には立ち入らないという条件を守らせていました。



    32: パンドラ[禁后]10 2011/12/16(金) 17:19:29.69 ID:s+XHJkPg0
    こうした事情もあって、猫などの動物を「教育」によく使用していたのです。
    「材料」として適した歪んだ常識、歪んだ価値観、歪んだ嗜好などを形成させるための異常な「教育」は代々の母娘間で13年間も続けられます。

    その間で三つの儀式の内の二つが行われます。
    一つは10歳の時、母親に鏡台の前に連れていかれ、爪を提供するように指示されます。
    ここで初めて、娘は鏡台の存在を知ります。
    両手両足からどの爪を何枚提供するかはそれぞれの代の母親によって違ったそうです。
    提供するとはもちろん剥がすという意味です。
    自分で自分の爪を剥がし母親に渡すと、鏡台の三つある引き出しの内、一番上の引き出しに爪と娘の隠し名を書いた紙を一緒に入れます。
    そしてその日は一日中、母親は鏡台の前に座って過ごすのです。
    これが一つ目の儀式。

    もう一つは13歳の時、同様に鏡台の前で歯を提供するように指示されます。
    これも代によって数が違います。
    自分で自分の歯を抜き、母親はそれを鏡台の二段目、やはり隠し名を書いた紙と一緒にしまいます。
    そしてまた一日中、母親は鏡台の前で座って過ごします。
    これが二つ目の儀式です
    この二つの儀式を終えると、その翌日?16歳までの三年間は「教育」が全く行われません。
    突然、何の説明もなく自由が与えられるのです。
    これは13歳までに全ての準備が整ったことを意味していました。
    この頃には、すでに母親が望んだとおりの生き人形のようになってしまっているのがほとんどですが、わずかに残されていた自分本来の感情からか、ごく普通の女の子として過ごそうとする娘が多かったそうです。

    そして三年後、娘が16歳になる日に最後の儀式が行われます。
    最後の儀式、それは鏡台の前で母親が娘の髪を食べるというものでした。
    食べるというよりも、体内に取り込むという事が重要だったそうです。
    丸坊主になってしまうぐらいのほぼ全ての髪を切り、鏡台を見つめながら無我夢中で口に入れ飲み込んでいきます。
    娘はただ茫然と眺めるだけ。
    やがて娘の髪を食べ終えると、母親は娘の本当の名を口にします。
    娘が自分の本当の名を耳にするのはこの時が最初で最後でした。



    33: パンドラ[禁后]11 2011/12/16(金) 17:20:10.06 ID:s+XHJkPg0
    これでこの儀式は完成され、目的が達成されます。
    この翌日から母親は四六時中自分の髪をしゃぶり続ける廃人のようになり、亡くなるまで隔離され続けるのです。
    廃人となったのは文字通り母親の脱け殻で、母親とは全く別のものです。
    そこにいる母親はただの人型の風船のようなものであり、母親の存在は誰も見たことも聞いたこともない誰も知り得ない場所に到達していました。
    これまでの事は全て、その場所へ行く資格(神格?)を得るためのものであり、最後の儀式によってそれが得られるというものでした。
    その未知なる場所ではそれまで同様にして資格を得た母親たちが暮らしており、決して汚れることのない楽園として存在しているそうです。
    最後の儀式で資格を得た母親はその楽園へ運ばれ、後には髪をしゃぶり続けるだけの脱け殻が残る…そうして新たな命を手にするのが目的だったのです。
    残された娘は母親の姉妹によって育てられていきます。
    一人でなく二?三人産むのはこのためでした。
    母親がいなくなってしまった後、普通に育てられてきた母親の姉妹が娘の面倒を見るようにするためです。
    母親から解放された娘は髪の長さが元に戻る頃に男と交わり、子を産みます。
    そして、今度は自分が母親として全く同じ事を繰り返し、母親が待つ場所へと向かうわけです。


    ここまでがこの家系の説明です。
    もっと細かい内容もあったのですが、二度三度の投稿でも収まる量と内容じゃありませんでした。
    なるべく分かりやすいように書いたのですが、今回は本当に分かりづらい読みづらい文章だと思います。
    申し訳ありません。
    本題はここからですので、ひとまず先へ進みます。

    実は、この悪習はそれほど長く続きませんでした。
    徐々にこの悪習に疑問を抱くようになっていったのです。
    それがだんだんと大きくなり、次第に母娘として本来あるべき姿を模索するようになっていきます。
    家系としてその姿勢が定着していくに伴い、悪習はだんだん廃れていき、やがては禁じられるようになりました。
    ただし、忘れてはならない事であるとして、隠し名と鏡台の習慣は残す事になりました。
    隠し名は母親の証として、鏡台は祝いの贈り物として受け継いでいくようにしたのです。
    少しずつ周囲の住民達とも触れ合うようになり、夫婦となって家庭を築く者も増えていきました。


    34: パンドラ[禁后]12 2011/12/16(金) 17:21:36.42 ID:s+XHJkPg0
    そうしてしばらく月日が経ったある年、一人の女性が結婚し妻となりました。
    八千代という女性です。
    悪習が廃れた後の生まれである母の元で、ごく普通に育ってきた女性でした。
    周囲の人達からも可愛がられ平凡な人生を歩んできていましたが、良き相手を見つけ、長年の交際の末の結婚となったのです。
    彼女は自分の家系については母から多少聞かされていたので知っていましたが、特に関心を持った事はありませんでした。
    妻となって数年後には娘を出産、貴子と名付けます。
    母から教わった通り隠し名も付け、鏡台も自分と同じものを揃えました。
    そうして幸せな日々が続くと思われていましたが、娘の貴子が10歳を迎える日に異変が起こりました。
    その日、八千代は両親の元へ出かけており、家には貴子と夫だけでした。
    用事を済ませ、夜になる頃に八千代が家に戻ると、信じられない光景が広がっていました。
    何枚かの爪が剥がされ、歯も何本か抜かれた状態で貴子が死んでいたのです。
    家の中を見渡すと、しまっておいたはずの貴子の隠し名を書いた紙が床に落ちており、剥がされた爪と抜かれた歯は貴子の鏡台に散らばっていました。
    夫の姿はありません。
    何が起こったのかまったく分からず、娘の体に泣き縋るしか出来ませんでした。
    異変に気付いた近所の人達がすぐに駆け付けるも、八千代はただずっと貴子に泣き縋っていたそうです。
    状況が飲み込めなかった住民達はひとまず八千代の両親に知らせる事にし、何人かは八千代の夫を探しに出ていきました。
    この時、八千代を一人にしてしまったのです。
    その晩のうちに、八千代は貴子の傍で自害しました。
    住民達が八千代の両親に知らせたところ、現場の状況を聞いた両親は落ち着いた様子でした。
    「想像はつく。八千代から聞いていた儀式を試そうとしたんだろ。八千代には詳しく話したことはないから、断片的な情報しか分からんかったはずだが、貴子が10歳になるまで待っていやがったな。」と言って、八千代の家へ向かいました。
    八千代の家に着くと、さっきまで泣き縋っていた八千代も死んでいる…住民達はただ愕然とするしかありませんでした。
    八千代の両親は終始落ち着いたまま、「わしらが出てくるまで誰も入ってくるな」と言い、しばらく出てこなかったそうです。



    35: パンドラ[禁后]13 2011/12/16(金) 17:22:55.87 ID:s+XHJkPg0
    八千代の両親は終始落ち着いたまま、「わしらが出てくるまで誰も入ってくるな」と言い、しばらく出てこなかったそうです。
    数時間ほどして、やっと両親が出てくると「二人はわしらで供養する。夫は探さなくていい。理由は今に分かる。」と住民達に告げ、その日は強引に解散させました。
    それから数日間、夫の行方はつかめないままだったのですが、程なくして八千代の家の前で亡くなっているのが見つかりました。
    口に大量の長い髪の毛を含んで死んでいたそうです。
    どういう事かと住民達が八千代の両親に尋ねると、「今後八千代の家に入ったものはああなる。そういう呪いをかけたからな。
    あの子らは悪習からやっと解き放たれた新しい時代の子達なんだ。こうなってしまったのは残念だが、せめて静かに眠らせてやってくれ。」と説明し、八千代の家をこのまま残していくように指示しました。
    これ以来、二人への供養も兼ねて、八千代の家はそのまま残される事となったそうです。
    家のなかに何があるのかは誰も知りませんでしたが、八千代の両親の言葉を守り、誰も中を見ようとはしませんでした。
    そうして、二人への供養の場所として長らく残されていたのです。

    その後、老朽化などの理由でどうしても取り壊すことになった際、初めて中に何があるかを住民達は知りました。
    そこにあったのは私達が見たもの、あの鏡台と髪でした。
    八千代の家は二階がなかったので、玄関を開けた目の前に並んで置かれていたそうです。
    八千代の両親がどうやったのかはわかりませんが、やはり形を成したままの髪でした。
    これが呪いであると悟った住民達は出来るかぎり慎重に運び出し、新しく建てた空き家の中へと移しました。
    この時、誤って引き出しの中身を見てしまったそうですが、何も起こらなかったそうです。
    これに関しては、供養をしていた人達だったからでは?という事になっています。
    空き家は町から少し離れた場所に建てられ、玄関がないのは出入りする家ではないから、窓・ガラス戸は日当たりや風通しなど供養の気持ちからだという事でした。
    こうして誰も入ってはいけない家として町全体で伝えられていき、大人達だけが知る秘密となったのです。

    ここまでが、あの鏡台と髪の話です。
    鏡台と髪は八千代と貴子という母娘のものであり、言葉は隠し名として付けられた名前でした。




    36: パンドラ[禁后]14 2011/12/16(金) 17:24:53.23 ID:s+XHJkPg0
    ここから最後の話になります。
    空き家が建てられて以降、中に入ろうとする者は一人もいませんでした。
    前述の通り、空き家へ移る際に引き出しの中を見てしまったため、中に何があるかが一部の人達に伝わっていたからです。
    私達の時と同様、事実を知らない者に対して過剰に厳しくする事で、何も起こらないようにしていました。
    ところが、私達の親の間で一度だけ事が起こってしまったそうです。
    前回の投稿で私と一緒に空き家へ行ったAの家族について、少しふれたのを覚えていらっしゃるでしょうか。
    Aの祖母と母がもともと町の出身であり、結婚して他県に住んでいたという話です。
    これは事実ではありませんでした。

    子供の頃に、Aの母とBの両親、そしてもう一人男の子(Eとします)を入れた四人であの空き家へ行ったのです。
    私達とは違って夜中に家を抜け出し、わざわざハシゴを持参して二階の窓から入ったそうです。
    窓から入った部屋には何もなく、やはり期待を裏切られたような感じでガクッとし、隣にある部屋へ行きました。
    そこであの鏡台と髪を見て、夜中という事もあり凄まじい恐怖を感じます。
    ところが四人のうちA母はかなり肝が据わっていたようで、怖がる三人を押し退けて近づいていき、引き出しを開けようとさえしたそうです。
    さすがに三人も必死で止め、その場は治まりますが、問題はその後に起こりました。
    その部屋を出て恐る恐る階段を降りるとまたすぐに恐怖に包まれます。
    廊下の先にある鏡台と髪。
    この時点で三人はもう帰ろうとしますが、A母が問題を引き起こしてしまいました。
    私達の時のD妹のように引き出しを開け中のものを出したのです。
    A母が取り出したのは一階の鏡台の一段目の引き出しの中の「紫逅」と書かれた紙で、何枚かの爪も入っていたそうです。
    さすがにやばいものでは、と感じた三人はA母を無理矢理引っ張り、紙を元に戻して帰ろうとしますが、じたばたしてるうちに棒から髪が落ちてしまったそうです。
    空き家の中で最も異様な雰囲気であるその髪にA母も触れる勇気はなく、四人はそのままにして帰ってきてしまいました。
    それから二、三日はそのまま放っておいたらしいですが、親にバレたら…という気持ちがあったので、元に戻しに行く事になります。
    B両親はどうしても都合があわなかったため、A母とE君の二人で行く事になりました。


    37: パンドラ[禁后]15 2011/12/16(金) 17:25:46.32 ID:s+XHJkPg0
    夜中に抜け出し、ハシゴを使って二階から入ります。
    階段を降り、家から持ってきた箸で髪を掴んで何とか棒に戻しました。
    さぁ早く帰ろうとE君は急かしましたが、ホッとしたのかA母はE君を怖がらせようと思い、今度は二段目の引き出しを開けたのです。
    「紫逅」と書かれた紙と何本かの歯が入っていました。
    あまりの恐怖にE君は取り乱し泣きそうになっていたのですが、A母はこれを面白がってしまい、E君にだけ中が見えるような態勢で三段目の引き出しを開けたそうです。
    E君が引き出しの中を見たのはほんの数秒ほどでした。

    何があった??とA母が覗き込もうとした瞬間、ガンッ!!と引き出しを閉め、ぼーっとしたまま動かなくなりました。
    A母はE君が仕返しにふざけてるんだと思ったのですが、何か異常な空気を感じ、突然怖くなって一人で帰ってしまったのです。
    家に着いてすぐに母親に事情を話すと、母親の顔色が変わり異様な事態となりました。
    E君の両親などに連絡し、親達がすぐに空き家へ向かいます。
    数十分ぐらいして、家で待っていたA母は親達に抱えられて帰ってきたE君を少しだけ見ました。
    何かを頬張っているようで、口元からは長い髪の毛が何本も見えていたそうです。
    この後B両親も呼び出され、親も交えて話したそうですが、E君の両親は三人に何も言いませんでした。
    ただ、言葉では表せないような表情でずっとA母を睨み付けていたそうです。

    この後、三人はあの空き家にまつわる話を聞かされました。
    E君の事に関しては、私達に言ったのと全く同じ事を言われたようでした。
    そして、E君の家族がどこかへ引っ越していくまでの一ヵ月間ぐらいの間、毎日A母の家にE君の両親が訪ねてきていたそうです。
    この事でA母は精神的に苦しい状態になり、見かねた母親が他県の親戚のところへ預けたのでした。
    その後A母やE君がどうしていたのかはわかりませんが、A母が町に戻ってきたのはE君への償いからだそうです。


    38: パンドラ[禁后]16 2011/12/16(金) 17:26:21.57 ID:s+XHJkPg0
    以上で話は終わりです。
    最後に鏡台の引き出しに入っているものについて。
    空き家には一階に八千代の鏡台、二階に貴子の鏡台があります。
    八千代の鏡台には一段目は爪、二段目は歯が、隠し名を書いた紙と一緒に入っています。
    貴子の鏡台は一、二段目とも隠し名を書いた紙だけです。
    八千代が「紫逅」、貴子が「禁后」です。

    そして問題の三段目の引き出しですが、中に入っているのは手首だそうです。
    八千代の鏡台には八千代の右手と貴子の左手、貴子の鏡台には貴子の右手と八千代の左手が、指を絡めあった状態で入っているそうです。
    もちろん、今現在どんな状態になっているのかはわかりませんが。
    D子とE君はそれを見てしまい、異常をきたしてしまいました。
    厳密に言うと、隠し名と合わせて見てしまったのがいけなかったという事でした。
    「紫逅」は八千代の母が、「禁后」は八千代が実際に書いたものであり、三段目の引き出しの内側にはそれぞれの読み方がびっしりと書かれているそうです。
    空き家は今もありますが、今の子供達にはほとんど知られていないようです。
    娯楽や誘惑が多い今ではあまり目につく存在ではないのかも知れません。
    地域に関してはあまり明かせませんが、東日本ではないです。

    それから、D子のお母さんの手紙についてですが、これは控えさせていただきます。
    D子とお母さんはもう亡くなられていると知らされましたので、私の口からは何もお話出来ません。



    6 左 ヒッチハイク


    836 本当にあった怖い名無し sage 2009/12/24(木) 22:12:17 ID:NNdtlw3F0
    今から7年ほど前の話になる。俺は大学を卒業したが、就職も決まっていない有様だった。
    生来、追い詰められないと動かないタイプで(テストも一夜漬け対タイプだ)、
    「まぁ何とかなるだろう」とお気楽に自分に言い聞かせ、バイトを続けていた。
    そんなその年の真夏。悪友のカズヤ(仮名)と家でダラダラ話していると、
    なぜか「ヒッチハイクで日本を横断しよう」と言う話に飛び、その計画に熱中する事になった。

    その前に、この悪友の紹介を簡単に済ませたいと思う。
    このカズヤも俺と同じ大学で、入学の時期に知り合った。コイツはとんでもない女好きで、頭と下半身は別、と言う典型的なヤツだ。
    だが、根は底抜けに明るく、裏表も無い男なので、女関係でトラブルは抱えても、男友達は多かった。
    そんな中でも、カズヤは俺と1番ウマが合った。そこまで明朗快活ではない俺とはほぼ正反対の性格なのだが。


    ヒッチハイクの計画の話に戻そう。計画と行ってもズサンなモノであり、
    まず北海道まで空路で行き、そこからヒッチハイクで地元の九州に戻ってくる、と言う計画だった。
    カズヤは「通った地方の、最低でも1人の女と合体する!」と女好きならではの下世話な目的もあったようだ。
    まぁ、俺も旅の楽しみだけではなく、そういう期待もしていたのだが…
    カズヤは長髪を後ろで束ね、一見バーテン風の優男なので(実際クラブでバイトをしていた)コイツとナンパに行って良い思いは確かにした事があった。
    そんなこんなで、バイトの長期休暇申請や(俺は丁度別のバイトを探す意思があったので辞め、カズヤは休暇をもらった)、
    北海道までの航空券、巨大なリュックに詰めた着替え、現金などを用意し、計画から3週間後には俺達は機上にいた。
    札幌に到着し、昼食を済ませて市内を散策した。慣れない飛行機に乗ったせいか、
    俺は疲れのせいで夕方にはホテルに戻り、カズヤは夜の街に消えていった。
    その日はカズヤは帰ってこず、翌朝ホテルのロビーで再開した。
    にやついて指でワッカをつくり、OKマークをしている。昨夜はどうやらナンパした女と上手く行った様だ。

    837 本当にあった怖い名無し sage 2009/12/24(木) 22:13:11 ID:NNdtlw3F0
    さぁ、いよいよヒッチハイクの始まりだ。ヒッチハイクなど2人とも人生で初めての体験で、流石にウキウキしていた。
    何日までにこの距離まで行く、など綿密な計画はなく、ただ「行ってくれるとこまで」という大雑把な計画だ。
    まぁしかし、そうそう止まってくれるものではなかった。1時間ほど粘ったが、一向に止まってくれない。
    昼より夜の方が止まってくれやすいんだろう、等と話していると、ようやく開始から1時間半後に最初の車が止まってくれた。
    同じ市内までだったが、南下するので距離を稼いだのは稼いだ。距離が短くても、嬉しいものだ。

    夜の方が止まってくれやすいのでは?と言う想像は意外に当たりだった。
    1番多かったのが、長距離トラックだ。距離も稼げるし、まず悪い人はいないし、かなり効率が良かった。
    3日目にもなると、俺達は慣れたもので、長距離トラックのお兄さん用にはタバコ等のお土産、
    普通車の一般人には飴玉等のお土産、と勝手に決め、コンビニで事前に買っていた。
    特にタバコは喜ばれた。普通車に乗った時も、喋り好きなカズヤのおかげで、常に車内は笑いに満ちていた。
    女の子2~3人組の車もあったが、正直、良い思いは何度かしたものだった。
    4日目には本州に到達していた。コツがつかめてきた俺達は、
    その土地の名物に舌鼓を打ったり、一期一会の出会いを楽しんだりと余裕も出てきていた。

    銭湯を見つけなるべく毎日風呂には入り、宿泊も2日に1度ネカフェに泊まると決め、経費を節約していた。
    ご好意で、ドライバーの家に泊めてもらう事もあり、その時は本当にありがたかった。
    しかし、2人共々に生涯トラウマになるであろう恐怖の体験が、出発から約2週間後、甲信地方の山深い田舎で起こったのだった。

    838 その3 sage 2009/12/24(木) 22:14:14 ID:NNdtlw3F0
    「おっ♪ おっ♪ おま○こ おま○こ 舐めたいなっ♪ ペロペロ~ ペロペロ~」
    男友達だけの集まりになると、いつもカズヤは卑猥な歌を歌いだす。その夜もカズヤは歌いだした。
    その日の夜は、2時間前に寂れた国道沿いのコンビニで降ろしてもらって以来、
    中々車が止まらず、それに加えてあまりの蒸し暑さに俺達はグロッキー状態だった。
    暑さと疲労の為か、俺達は変なテンションになっていた。
    「こんな田舎のコンビニに降ろされたんじゃ、たまったもんじゃないよな。

     これなら、さっきの人の家に無理言って泊めてもらえば良かったかなぁ?」とカズヤ。
    確かに先ほどのドライバーは、このコンビニから車で10分程行った所に家があるらしい。
    しかし、どこの家かも分かるはずもなく、言っても仕方が無い事だった。
    時刻は深夜12時を少し過ぎた所だった。俺たちは30分交代で、車に手を上げるヤツ、
    コンビニで涼むヤツ、に別れることにした。コンビニの店長にも事情を説明したら
    「頑張ってね。最悪、どうしても立ち往生したら俺が市内まで送ってやるよ」と言ってくれた。こういう田舎の暖かい人の心は実に嬉しい。
    それからいよいよ1時間半も過ぎたが、一向に車がつかまらない。と言うか、ほとんど通らない。

    カズヤも店長とかなり意気投合し、いよいよ店長の行為に甘えるか、と思っていたその時、
    1台のキャンピングカーがコンビニの駐車場に停車した。これが、あの忘れえぬ悪夢の始まりだった。

    839 その4 sage 2009/12/24(木) 22:15:34 ID:NNdtlw3F0
    運転席のドアが開き、コンビニに年齢はおよそ60代くらいかと思われる男性が入ってきた。
    男の服装は、カウボーイがかぶるようなツバ広の防止に、スーツ姿、と言う奇妙なモノだった。
    俺はその時、丁度コンビニの中におり、何ともなくその男性の様子を見ていた。
    買い物籠に、やたらと大量の絆創膏などを放り込んでいる。コーラの1.5?のペットボトルを2本も投げ入れていた。
    その男を、会計をしている最中、じっと立ち読みをしている俺の方を凝視していた。
    何となく気持ちが悪かったので、視線を感じながらも俺は無視して本を読んでいた。

    やがて男は店を出た。そろそろ交代の時間なので、カズヤの所に行こうとすると、駐車場でカズヤが男と話をしていた。
    「おい、乗せてくれるってよ!」
    どうやら、そういう事らしい。俺は当初は男に何か気持ち悪さは感じていたのだが、
    間近で見ると、人の良さそうな普通のおじさんに見えた。俺は疲労や眠気の為にほとんど思考が出来ず、
    「はは~ん、アウトドア派(キャンピングカー)だからああいう帽子か」などと言う良く分からない納得を自分にさせた。

    キャンピングカーに乗り込んだ時、「しまった」と思った。
    「おかしい」のだ。「何が」と言われても「おかしいからおかしい」としか書き様がないかも知れない。
    これは感覚の問題なのだから…ドライバーには家族がいた。もちろん、
    キャンピングカーと言うことで、中に同乗者が居る事は予想はしていたのだが。

    父 ドライバー およそ60代
    母 助手席に座る。見た目70代
    双子の息子 どう見ても40過ぎ

    840 その5 sage 2009/12/24(木) 22:16:30 ID:NNdtlw3F0
    人間は、予想していなかったモノを見ると、一瞬思考が止まる。
    まず車内に入って目に飛び込んで来たのは、まったく同じギンガムチェックのシャツ、
    同じスラックス、同じ靴、同じ髪型(頭頂ハゲ)、同じ姿勢で座る同じ顔の双子の中年のオッサンだった。
    カズヤも絶句していた様子だった。いや、別にこういう双子が居てもおかしくはない、
    おかしくもないし悪くもないのだが…あの異様な雰囲気は、実際その場で目にしてみないと伝えられない。
    「早く座って」と父に言われるがまま、俺たちはその家族の雰囲気に呑まれるかの様に、車内に腰を下ろした。

    まず、俺達は家族に挨拶をし、父が運転をしながら、自分の家族の簡単な説明を始めた。
    母が助手席で前を見て座っている時は良く分からなかったが、母も異様だった。
    ウェディングドレスのような、真っ白なサマーワンピース。顔のメイクは「バカ殿か」と
    見まがうほどの白粉ベタ塗り。極めつけは母の名前で、「聖(セント)ジョセフィーヌ」。
    父はちなみに「聖(セント)ジョージ」と言うらしい。
    双子にも言葉を失った。名前が「赤」と「青」と言うらしいのだ。
    赤ら顔のオッサンは「赤」で、ほっぺたに青痣があるオッサンは「青」。普通、自分の子供にこんな名前をつけるだろうか?
    俺達はこの時点で目配せをし、適当な所で早く降ろしてもらう決意をしていた。狂っている。
    俺達には主に父と母が話しかけて来て、俺達も気もそぞれで適当な答えをしていた。
    双子はまったく喋らず、まったく同じ姿勢、同じペースでコーラのペットボトルをラッパ飲みしていた。
    ゲップまで同じタイミングで出された時は、背筋が凍り、もう限界だと思った。


    842 その6 sage New! 2009/12/24(木) 22:17:48 ID:NNdtlw3F0
    「あの、ありがとうございます。もうここらで結構ですので…」
    キャンピングカーが発車して15分も経たないうちに、カズヤが口を開いた。
    しかし、父はしきりに俺達を引きとめ、母は「熊が出るから!今日と明日は!」と意味不明な事を言っていた。
    俺達は腰を浮かせ、本当にもう結構です、としきりに訴えかけたが、
    父は「せめて晩餐を食べていけ」と言って、降ろしてくれる気配はない。
    夜中の2時にもなろうかと言う時に、晩餐も晩飯も無いだろうと思うのだが…
    双子のオッサン達は、相変わらず無口で、今度は棒つきのペロペロキャンディを舐めている。

    「これ、マジでヤバイだろ」と、カズヤが小声で囁いてきた。
    俺は相槌を打った。しきりに父と母が話しかけてくるので、中々話せないのだ。
    1度、父の言葉が聞こえなかった時など「聞こえたか!!」とえらい剣幕で怒鳴られた。
    その時双子のオッサンが同時にケタケタ笑い出し、俺達はいよいよ「ヤバイ」と確信した。

    キャンピングカーが、国道を逸れて山道に入ろうとしたので、流石に俺達は立ち上がった。
    「すみません、本当にここで。ありがとうございました」と運転席に駆け寄った。
    父は延々と「晩餐の用意が出来ているから」と言って聞こうとしない。
    母も、素晴らしく美味しい晩餐だから、是非に、と引き止める。
    俺らは小声で話し合った。いざとなったら、逃げるぞ、と。
    流石に走行中は危ないので、車が止まったら逃げよう、と。
    やがて、キャンピングカーは山道を30分ほど走り、小川がある開けた場所に停車した。
    「着いたぞ」と父。その時、キャンピングカーの1番後部のドア(俺達はトイレと思っていた)から
    「キャッキャッ」と子供の様な笑い声が聞こえた。まだ誰かが乗っていたか!? その事に心底ゾッとした。
    「マモルもお腹すいたよねー」と母。マモル…家族の中では、唯一マシな名前だ。幼い子供なのだろうか。
    すると、今まで無口だった双子のオッサン達が、口をそろえて
    「マモルは出したら、だぁ・あぁ・めぇ!!」とハモりながら叫んだ。
    「そうね、マモルはお体が弱いからねー」と母。
    「あーっはっはっはっ!!」といきなり爆笑する父。
    「ヤバイ、こいつらヤバイ。フルスロットル(カズヤは、イッてるヤツや危ないヤツを常日頃からそういう隠語で呼んでいた)」

    843 その7 sage New! 2009/12/24(木) 22:20:19 ID:NNdtlw3F0
    俺達は、車の外に降りた。良く見ると、男が川の傍で焚き火をしていた。まだ仲間がいたのか…と、絶望的な気持ちになった。
    異様に背が高く、ゴツい。2m近くはあるだろうか。父と同じテンガロンハットの様な帽子をかぶり、スーツと言う異様な出で立ちだ。
    帽子を目深に被っており、表情が一切見えない。
    焚き火に浮かび上がった、キャンピングカーのフロントに描かれた十字架も、何か不気味だった。
    ミッ○ーマ○スのマーチ、の口笛を吹きながら、男は大型のナイフで何かを解体していた。
    毛に覆われた足から見ると、どうやら動物の様だった。イノシシか、野犬か…どっちにしろ、そんなモノを食わさせるのは御免だった。
    俺達は逃げ出す算段をしていたが、予想外の大男の出現、大型のナイフを見て、萎縮してしまった。

    「さぁさ、席に着こうか!」と父。大男がナイフを置き、傍でグツグツ煮えている鍋に味付けをしている様子だった。
    「あの、しょんべんしてきます」とカズヤ。「逃げよう」と言う事だろう。俺も行く事にした。
    「早くね~」と母。俺達はキャンピングカーの横を通り、森に入って逃げようとしたその時、
    キャンピングカーの後部の窓に、異様におでこが突出し、両目の位置が異様に低く、
    両手もパンパンに膨れ上がった容姿をしたモノが、バン!と顔と両手を貼り付けて叫んだ。
    「マーマ!!」
    もはや限界だった。俺達は脱兎の如く森へと逃げ込んだ。

    844 その8 sage New! 2009/12/24(木) 22:21:39 ID:NNdtlw3F0
    後方で、父と母が何か叫んでいたが、気にする余裕などなかった。
    「ヤバイヤバイヤバイ」とカズヤは呟きながら森の中を走っている。お互い、何度も転んだ。
    とにかく下って県道に出よう、と小さなペンライト片手にがむしゃらに森を下へ下へと走っていった。
    考えが甘かった。小川のあった広場からも、町の明かりは近くに見えた気がしたのだが、
    1時間ほど激走しても、一向に明かりが見えてこない。完全に道に迷ったのだ。
    心臓と手足が根をあげ、俺達はその場にへたり込んだ。
    「あのホラー一家、追ってくると思うか?」とカズヤ。
    「俺達を食うわけでもなしに、そこは追ってこないだろ。映画じゃあるまいし。
     ただの少しおかしい変人一家だろう。最後に見たヤツは、ちょっとチビりそうになったけど…」
    「荷物…どうするか」
    「幸い、金と携帯は身につけてたしな…服は、残念だけど諦めるか」
    「マジハンパねぇw」
    「はははw」

    俺達は精神も極限状態にあったのか、なぜかおかしさがこみ上げてきた。
    ひとしきり爆笑した後、森独特のむせ返る様な濃い匂いと、周囲が一切見えない暗闇に、現実に戻された。
    変態一家から逃げたのは良いが、ここで遭難しては話にならない。
    樹海じゃあるまいし、まず遭難はしないだろうが、万が一の事も頭に思い浮かんだ。
    「朝まで待った方が良くないか?さっきのババァじゃないけど、熊まではいかなくとも、野犬とかいたらな…」
    俺は一刻も早く下りたかったが、真っ暗闇の中をがむしゃらに進んで、さっきの川原に戻っても恐ろしいので、
    腰を下ろせそうな倒れた古木に座り、休憩する事にした。一時はお互いあーだこーだと喋っていたが、
    極端なストレスと疲労の為か、お互いにうつらうつらと意識が飛ぶようになってきた。

    845 その9 sage New! 2009/12/24(木) 22:23:04 ID:NNdtlw3F0
    ハッ、と目が覚めた。反射的に携帯を見る。午前4時。辺りはうっすらと明るくなって来ている。
    横を見ると、カズヤがいない。一瞬パニックになったら、俺の真後ろにカズヤは立っていた。
    「何やってるんだ?」と聞く。
    「起きたか…聞こえないか?」と、木の棒を持って何かを警戒している様子だった。
    「何が…」
    「シッ」
    かすかに遠くの方で音が聞こえた。口笛だった。ミッ○ーマ○スのマーチの。CDにも吹き込んでも良いくらいの、良く通る美音だ。
    しかし、俺達にとっては恐怖の音以外の何物でもなかった。
    「あの大男の…」
    「だよな」
    「探してるんだよ、俺らを!!」
    再び、俺たちは猛ダッシュで森の中へと駆け始めた。辺りがやや明るくなったせいか、以前よりは周囲が良く見える。

    躓いて転ぶ心配が減ったせいか、かなりの猛スピードで走った。
    20分くらい走っただろうか。少し開けた場所に出た。今は使われていない駐車場の様だった。
    街の景色が、木々越しにうっすらと見える。大分下ってこれたのだろうか。

    腹が痛い、とカズヤが言い出した。我慢が出来ないらしい。古びた駐車場の隅に、古びたトイレがあった。
    俺も多少もよおしてはいたのだが、大男がいつ追いついてくるかもしれないのに、個室に入る気にはなれなかった。
    俺がトイレの外で目を光らせている隙に、カズヤが個室で用を足し始めた。
    「紙はあるけどよ~ ガピガピで、蚊とか張り付いてるよ…うぇっ 無いよりマシだけどよ~」
    カズヤは文句を垂れながら糞も垂れ始めた。
    「なぁ…誰か泣いてるよな?」と個室の中から大声でカズヤが言い出した。
    「は?」
    「いや、隣の女子トイレだと思うんだが…女の子が泣いてねぇか?」

    846 その10 sage New! 2009/12/24(木) 22:24:27 ID:NNdtlw3F0
    カズヤに言われて初めて気がつき、聴こえた。確かに女子トイレの中から女の泣き声がする…
    カズヤも俺も黙り込んだ。誰かが女子トイレに入っているのか?何故、泣いているのか?
    「なぁ…お前確認してくれよ。段々泣き声酷くなってるだろ…」
    正直、気味が悪かった。しかし、こんな山奥で女の子が寂れたトイレの個室で1人、
    泣いているのであれば、何か大事があったに違いない。俺は意を決して、女子トイレに入り、泣き声のする個室に向かい声をかけた。
    「すみません…どうかしましたか?」
    返事はなく、まだ泣き声だけが聴こえる。
    「体調でも悪いんですか、すみません、大丈夫ですか」
    泣き声が激しくなるばかりで、一向にこちらの問いかけに返事が帰ってこない。

    その時、駐車場の上に続く道から、車の音がした。
    「出ろ!!」俺は確信とも言える嫌な予感に襲われ、女子トイレを飛び出し、カズヤの個室のドアを叩いた。
    「何だよ」
    「車の音がする、万が一の事もあるから早く出ろ!!」
    「わ、分かった」
    数秒経って、青ざめた顔でカズヤがジーンズを履きながら出てきた。と、同時に駐車場に下ってくるキャンピングカーが見えた。
    「最悪だ…」
    今森を下る方に飛び出たら、確実にあの変態一家の視界に入る。選択肢は、唯一死角になっている、トイレの裏側に隠れる事しかなかった。
    女の子を気遣っている余裕は消え、俺達はトイレを出て、裏側で息を殺してジッとしていた。

    頼む、止まるなよ、そのまま行けよ、そのまま…
    「オイオイオイオイオイ、見つかったのか?」カズヤが早口で呟いた。
    キャンピングカーのエンジン音が、駐車場で止まったのだ。ドアを開ける音が聞こえ、トイレに向かって来る足音が聴こえ始めた。
    このトイレの裏側はすぐ5m程の崖になっており、足場は俺達が立つのがやっとだった。
    よほど何かがなければ、裏側まで見に来る事はないはずだ。もし俺達に気づいて近いづいて来ているのであれば、
    最悪の場合、崖を飛び降りる覚悟だった。飛び降りても怪我はしない程度の崖であり、やれない事はない。
    用を足しに来ただけであってくれ、頼む…俺達は祈るしかなかった。
    しかし、一向に女の子の泣き声が止まらない。あの子が変態一家にどうにかされるのではないか?それが気が気でならなかった。

    847 その11 sage New! 2009/12/24(木) 22:25:32 ID:o41n3rfp0
    男子トイレに誰かが入ってきた。声の様子からすると、父だ。
    「やぁ、気持ちが良いな。ハ~レルヤ!!ハ~レルヤ!!」と、どうやら小の方をしている様子だった。
    その後すぐに、個室に入る音と足音が複数聞こえた。双子のオッサンだろうか。
    最早、女の子の存在は完全にバレているはずだった。女子トイレに入った母の「紙が無い!」と言う声も聴こえた。
    女の子はまだ泣きじゃくっている。やがて、父も双子のオッサン達(恐らく)も、トイレを出て行った様子だった。
    おかしい。女の子に対しての変態一家の対応が無い。やがて、母も出て行って、変態一家の話し声が遠くになっていった。

    気づかないわけがない。現に女の子はまだ泣きじゃくっているのだ。
    俺とカズヤが怪訝な顔をしていると、父の声が聞こえた。
    「~を待つ、もうすぐ来るから」と言っていた。何を待つ、のかは聞き取れなかった。
    どうやら双子のオッサンたちが、グズッている様子だった。
    やがて平手打ちの様な男が聴こえ、恐らく、双子のオッサンの泣き声が聴こえてきた。
    悪夢だった。楽しかったはずのヒッチハイクの旅が、なぜこんな事に…
    今まではあまりの突飛な展開に怯えるだけだったが、急にあの変態一家に対して怒りがこみ上げて来た。
    「あのキャンピングカーをブンどって、山を降りる手もあるな。あのジジィどもをブン殴ってでも。

     大男がいない今がチャンスじゃないのか?待ってるって、大男の事じゃないのか?」
    カズヤが小声で言った。しかし、俺は向こうが俺達に気がついてない以上、
    このまま隠れて、奴らが通り過ぎるのを待つほうが得策に思えた。
    女の子の事も気になる。奴らが去ったら、ドアを開けてでも確かめるつもりだった。
    その旨をカズヤに伝えると、しぶしぶ頷いた。それから15分程経った時。
    「~ちゃん来たよ~!(聞き取れない)」母の声がした。待っていた主が駐車場に到着したらしい。
    何やら談笑している声が聞こえるが、良く聞き取れない。再び、トイレに向かってくる足音が聴こえて来た。

    848 その12 sage New! 2009/12/24(木) 22:26:35 ID:o41n3rfp0
    ミッ○ーマ○スのマーチの口笛。アイツだ!! 軽快に口笛を吹きながら、大男が小を足しているらしい。
    女子トイレの女の子の泣き声が、一段と激しくなった。何故だ?何故気づかない?
    やがて、泣き叫ぶ声が断末魔の様な絶叫に変わり、フッと消えた。
    何かされたのか?見つかったのか!? しかし、大男は男子トイレににいるし、
    他の家族が女子トイレに入った形跡も無い。やがて、口笛と共に大男がトイレを出て行った。
    万が一女の子がトイレから連れ出されてはしないか、と心配になり、危険を顧みずに
    一瞬だけトイレの裏手から俺が顔を覗かせた。テンガロンハットにスーツ姿の、大男の歩く背中が見える。

    「ここだったよなぁぁぁぁぁぁぁァァ!!」
    ふいに、大男が叫んだ。俺は頭を引っ込めた。ついに見つかったか!? カズヤは木の棒を強く握り締めている。
    「そうだそうだ!!」
    「罪深かったよね!!」
    と父と母。双子のオッサンの笑い声。
    「泣き叫んだよなァァァァァァァァ!!」と、大男。
    「うんうん!!」
    「泣いた泣いた!!悔い改めた!!ハレルヤ!!」
    と、父と母。双子のオッサンの笑い声。
    何を言っているのか? どうやら俺達の事ではないらしいが…
    やがて、キャンピングカーのエンジン音が聴こえ、車は去ってった。
    辺りはもう完全に明るくなっていた。変態一家が去ったのを完全に確認して、俺は女子トイレに飛び込んだ。

    全ての個室を開けたが、誰もいない。鍵も全て壊れていた。そんな馬鹿な…
    後から女子トイレに入ってきたカズヤが、俺の肩を叩いて呟いた。
    「なぁ、お前も途中から薄々は気がついてたんだろ? 女の子なんて、最初からいなかったんだよ」
    2人して幻聴を聴いたとでも言うのだろうか。確かに、あの変態一家の女の子に対する反応が一切無かった事を考えると、
    それも頷けるのではあるが…しかし、あんなに鮮明に聴こえる幻聴などあるのだろうか…

    849 その13 sage New! 2009/12/24(木) 22:29:08 ID:o41n3rfp0
    駐車場から上りと下りに続く車道があり、そこを下れば確実に国道に出るはずだ。
    しかし、再び奴らのキャンピングカーに遭遇する危険性もあるので、あえて森を突っ切る事にした。
    街はそんなに遠くない程度に見えているし、周囲も明るいので、まず迷う可能性も少ない。
    俺達は無言のまま、森を歩いた。約2時間後。無事に国道に出る事が出来た。
    しかし、着替えもない、荷物もない。頭に思い浮かんだのは、あの親切なコンビニの店長だった。
    国道は、都会並みではないが、朝になり交通量が増えてきている。
    あんな目にあって、再びヒッチハイクするのは度胸がいったが、何とかトラックに乗せて貰える事になった。

    ドライバーは、俺達の汚れた姿に当初困惑していたが、事情を話すと快く乗せてくれた。
    事情と言っても、俺達が体験した事をそのまま話してもどうか、と思ったので、
    キャンプ中に山の中で迷った、と言う事にしておいた。運転手も、そのコンビニなら知っているし、良く寄るらしかった。
    約1時間後、俺達は例の店長のいるコンビニに到着した。店長はキャンピングカーの件を知っているので、
    そのまま俺達が酷い目にあった事を話したのだが、話してる最中に、店長は怪訝な顔をし始めた。
    「え?キャンピングカー? いや、俺はさぁ、君達があの時急に店を出て国道沿いを歩いて行くので、止めたんだよ。
     俺に気を使って、送ってもらうのが悪いので、歩いていったのかな、と。
     10mくらい追って行って、こっちが話しかけても君らがあんまり無視するもんだから、こっちも正直気ィ悪くしちゃってさ。どうしたのさ?(笑)」
    …どういう事なのか。俺達は、確かにあのキャンピングカーがコンビニに止まり、
    レジで会計も済ませているのを見ている。会計したのは店長だ。もう1人のバイトの子もいたが、あがったのか今はいない様だった。

    店長もグルか?? 不安が胸を過ぎった。カズヤと目を見合わせる。
    「すみません、ちょっとトイレに」とカズヤが言い、俺をトイレに連れ込む。
    「どう思う?」と俺。
    「店長がウソを言ってるとも思えんが、万が一、あいつらの関連者としたら、って事だろ?
     でも、何でそんな手の込んだ事する必要がある? みんなイカレてるとでも? まぁ、釈然とはしないよな。
     じゃあ、こうしよう。大事をとって、さっきの運ちゃんに乗せてもらわないか?」

    851 その14 sage New! 2009/12/24(木) 22:30:28 ID:o41n3rfp0
    それが1番良い方法に思えた。俺達の意見がまとまり、トイレを出ようとしたその瞬間、
    個室のトイレから水を流す音と共に、あのミッ○ーマ○スのマーチの口笛が聞こえてきた。
    周囲の明るさも手伝ってか、恐怖よりまず怒りがこみ上げて来た。それはカズヤも同じだった様だ。
    「開けろオラァ!!」とガンガンドアを叩くカズヤ。ドアが開く。
    「な…なんすか!?」制服を着た地元の高校生だった。
    「イヤ…ごめんごめん、ははは…」と苦笑するカズヤ。
    幸い、この騒ぎはトイレの外まで聞こえてはいない様子だった。
    男子高校生に侘びを入れて、俺達は店長と談笑するドライバーの所へ戻った。
    「店長さんに迷惑かけてもアレだし、お兄さん、街までお願いできませんかねっ これで!」
    と、ドライバーが吸っていた銘柄のタバコを1カートン、レジに置くカズヤ。交渉成立だった。

    例の変態一家の件で、警察に行こうとはさらさら思わなかった。あまりにも現実離れし過ぎており、
    俺達も早く忘れたかった。リュックに詰めた服が心残りではあったが…
    ドライバーのトラックが、市街に向かうのも幸運だった。タバコの贈り物で終始上機嫌で運転してくれた。
    いつの間にか、俺達は車内で寝ていた。ふと目が覚めると、ドライブインにトラックが停車していた。
    ドライバーが焼きソバを3人分買ってきてくれて、車内で食べた。
    車が走り出すと、カズヤは再び眠りに落ち、俺は再び眠れずに、窓の外を見ながら
    あの悪夢の様な出来事を思い返していた。一体、あいつらは何だったのか。トイレの女の子の泣き声は…
    「あっ!!」
    思案が吹き飛び、俺は思わず声を上げていた。

    852 その15 sage New! 2009/12/24(木) 22:31:11 ID:o41n3rfp0
    「どうした?」とドライバーのお兄さん。
    「止めて下さい!!」
    「は?」
    「すみません、すぐ済みます!!」
    「まさかここで降りるのか?まだ市街は先だぞ」と、しぶしぶトラックを止めてくれた。
    この問答でカズヤも起きたらしい。
    「どうした?」
    「あれ、見ろ」
    俺の指差した方を見て、カズヤが絶句した。朽ち果てたドライブインに、あのキャンピングカーが止まっていた。

    間違いない。色合い、形、フロントに描かれた十字架…しかし、何かがおかしかった。
    車体が何十年も経った様に、ボロボロに朽ち果てており、全てのタイヤがパンクし、窓ガラスも全て割れていた。
    「すみません、5分で戻ります、5分だけ時間下さい」
    とドライバーに説明し、トラックを路肩に止めてもらったまま、俺達はキャンピングカーへと向かった。
    「どういう事だよ…」とカズヤ。こっちが聞きたいくらいだった。
    近づいて確認したが、間違いなくあの変態一家のキャンピングカーだった。
    周囲の明るさ・車の通過する音などで安心感はあり、恐怖感よりも「なぜ?」と言う好奇心が勝っていた。
    錆付いたドアを引き開け、酷い匂いのする車内を覗き込む。

    853 その16 sage New! 2009/12/24(木) 22:32:00 ID:o41n3rfp0
    「オイオイオイオイ、リュック!!俺らのリュックじゃねぇか!!」カズヤが叫ぶ。
    …確かに俺達が車内に置いて逃げて来た、リュックが2つ置いてあった。
    しかし、車体と同様に、まるで何十年も放置されていたかの如く、ボロボロに朽ち果てていた。
    中身を確認すると、服や日用雑貨品も同様に朽ち果てていた。
    「どういう事だよ…」もう1度カズヤが呟いた。何が何だか、もはや脳は正常な思考が出来なかった。
    とにかく、一時も早くこの忌まわしいキャンピングカーから離れたかった。
    「行こう、行こう」カズヤも怯えている。車内を出ようとしたその時、
    キャンピングカーの1番置くのドアの奥で「ガタッ」と音がした。ドアは閉まっている。開ける勇気はない。
    俺達は恐怖で半ばパニックになっていたので、そう聴こえたかどうかは、今となっては分からないし、
    もしかしたら猫の鳴き声だったかもしれない。が、確かに、その奥のドアの向こうで、その時はそう聴こえたのだ。

    「マ ー マ ! ! 」

    俺達は叫びながらトラックに駆け戻った。すると、なぜかドライバーも顔が心なしか青ざめている風に見えた。
    無言でトラックを発進させるドライバー。
    「何かあったか?」「何かありました?」
    同時にドライバーと俺が声を発した。ドライバーは苦笑し、
    「いや…俺の見間違いかもしれないけどさ…あの廃車…お前ら以外に誰もいなかったよな?
     いや、居るわけないんだけどさ…いや、やっぱ良いわ」
    「気になります、言って下さいよ」とカズヤ。
    「いやさ…見えたような気がしたんだよ。カウボーイハット?って言うのか?
     日本で言ったら、ボーイスカウトが被るような。それを被った人影が見えた気が…
     でよ、何故かゾクッとしたその瞬間、俺の耳元で口笛が聴こえてよ…」
    「どんな感じの…口笛ですか?」
    「曲名は分かんねぇけど(口笛を吹く)こんな感じでよ…いやいやいや、何でもねぇんだよ! 俺も疲れてるのかね」
    運転手は笑っていたが、運転手が再現してみた口笛は、ミッ○ーマ○スのマーチだった。

    854 終 sage New! 2009/12/24(木) 22:32:41 ID:o41n3rfp0
    30分ほど無言のまま、トラックは走っていた。そして市街も近くなったと言う事で、
    最後にどうしても聞いておきたい事を、俺はドライバーに聞いてみた。
    「あの、最初に乗せてもらった国道の近くに、山ありますよね?」
    「あぁ、それが?」
    「あそこで前に何か事件とかあったりしました?」
    「事件…?いやぁ聞かねぇなぁ…山つっても、3つくらい連なってるからなぁ、あの辺は。
     あ~、でもあの辺の山で大分昔に、若い女が殺された事件があったとか…それくらいかぁ?
     あとは、普通にイノシシの被害だな。怖いぜ、野生のイノシシは」
    「女が殺されたところって」
    「トイレすか?」カズヤが俺の言葉に食い気味に入ってきた。
    「あぁ、確かそう。何で知ってる?」

    市街まで送ってもらった運転手に礼を言い、安心感からか、その日はホテルで爆睡した。
    翌日~翌々日には、俺達は新幹線を乗り継いで地元に帰ったいた。
    なるべく思い出したくない悪夢の様な出来事だったが、時々思い出してしまう。
    あの一家は一体何だったのか?実在の変態一家なのか?幻なのか?この世の者ではないのか?
    あの山のトイレで確かに聞こえた女の子の泣き叫ぶ声は、何だったのか?
    ボロボロに朽ち果てたキャンピングカー、同じように朽ちた俺達のリュックは、一体何を意味するのか?

    「おっ♪ おっ♪ おま○こ おま○こ 舐めたいなっ♪ ペロペロ~ ペロペロ~」
    先日の合コンが上手く行った、カズヤのテンションが上がっている。たまに遊ぶ悪友の仲は今でも変わらない。
    コイツの底抜けに明るい性格に、あの悪夢の様な旅の出来事が、いくらか気持ち的に助けられた気がする。
    30にも手か届こうかとしている現在、俺達は無事に就職も出来(大分前ではあるが)、普通に暮らしている。
    カズヤは、未だにキャンピングカーを見ると駄目らしい。俺はあの「ミッ○ーマ○スのマーチ」がトラウマになっている。

    チャンララン チャンララン チャンラランララン チャンララン チャンララン チャンラランララン♪

    先日の合コンの際も、女性陣の中に1人この携帯着信音の子がおり、心臓が縮み上がったモノだ。
    今でもあの一家、とくに大男の口笛が夢に出てくる事がある



    7 中 ビデオレター

    505: 1/4:2010/06/24(木) 14:54:37 ID:2baYGPaj0
    会社の同僚が亡くなった。
    フリークライミングが趣味のKという奴で、俺とすごく仲がよくて
    家族ぐるみ(俺の方は独身だが)での付き合いがあった。

    Kのフリークライミングへの入れ込み方は本格的で
    休みがあればあっちの山、こっちの崖へと常に出かけていた。

    亡くなる半年くらい前だったか、急にKが俺に頼みがあるといって話してきた。
    「なあ、俺がもし死んだときのために、ビデオを撮っておいてほしいんだ」

    趣味が趣味だけに、いつ命を落とすかもしれないので、あらかじめ
    ビデオメッセージを撮っておいて、万が一の際にはそれを家族に見せてほしい、
    ということだった。俺はそんなに危険なら家族もいるんだから辞めろと
    いったが、クライミングをやめることだけは絶対に考えられないとKは
    きっぱり言った。いかにもKらしいなと思った俺は撮影を引き受けた。

    Kの家で撮影したらバレるので、俺の部屋で撮ることになった。
    白い壁をバックに、ソファーに座ったKが喋り始める

    「えー、Kです。このビデオを見てるということは、僕は死んで
    しまったということになります。○○(奥さんの名前)、××(娘の名前)、
    今まで本当にありがとう。僕の勝手な趣味で、みんなに迷惑をかけて
    本当に申し訳ないと思っています。僕を育ててくれたお父さん、お母さん、
    それに友人のみんな、僕が死んで悲しんでるかもしれませんが、
    どうか悲しまないでください。僕は天国で楽しくやっています。
    皆さんと会えないことは残念ですが、天国から見守っています。
    ××(娘の名前)、お父さんはずっとお空の上から見ています。
    だから泣かないで、笑って見送ってください。ではさようなら」

    506: 2/4:2010/06/24(木) 14:55:19 ID:2baYGPaj0
    もちろんこれを撮ったときKは生きていたわけだが、それから半年後
    本当にKは死んでしまった。クライミング中の滑落による事故死で、
    クライミング仲間によると、通常、もし落ちた場合でも大丈夫なように
    下には安全マットを敷いて登るのだが、このときは、その落下予想地点
    から大きく外れて落下したために事故を防ぎきれなかったのだそうだ。


    通夜、告別式ともに悲壮なものだった。
    泣き叫ぶKの奥さんと娘。俺も信じられない思いだった。まさかあのKが。

    一週間が過ぎたときに、俺は例のビデオをKの家族に
    見せることにした。さすがに落ち着きを取り戻していたKの家族は
    俺がKのメッセージビデオがあるといったら是非見せて欲しいと言って来たので
    ちょうど初七日の法要があるときに、親族の前で見せることになった。

    俺がDVDを取り出した時点で、すでに泣き始める親族。
    「これも供養になりますから、是非見てあげてください」とDVDをセットし、再生した。



    507: 3/4:2010/06/24(木) 14:55:59 ID:2baYGPaj0
    ヴーーーという音とともに、真っ暗な画面が10秒ほど続く。
    あれ?撮影に失敗していたのか?と思った瞬間、真っ暗な中に
    突然Kの姿が浮かび上がり、喋り始めた。
    あれ、俺の部屋で撮ったはずなんだが、こんなに暗かったか?


    「えー、Kです。このビデオを・・るということは、僕は・・んで
    しまっ・・いう・・ります。○○(奥さんの名前)、××(娘の名前)、
    今まで本・・ありが・・・」

    Kが喋る声に混ざって、さっきからずっと鳴り続けている
    ヴーーーーーーという雑音がひどくて声が聞き取りにくい。



    「僕を育ててくれたお父さん、お母さん、
    それに友人のみんな、僕が死んで悲しんでるかもしれませんが、
    どうか悲しまないでください。僕はズヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
    アアアアアアアアアアアアア××(娘の名前)、お父さん死んじゃっヴァアアアアアアア
    アアアアアア死にたくない!死にズヴァアアアアアアアにたくないよおおおおヴヴァアア
    アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、ザッ」



    背筋が凍った。
    最後の方は雑音でほとんど聞き取れなかったが、Kの台詞は明らかに撮影時と違う
    断末魔の叫びのような言葉に変わり、最後Kが喋り終わるときに
    暗闇の端から何かがKの腕を掴んで引っ張っていくのがはっきりと見えた。



    508: 4/4:2010/06/24(木) 14:58:28 ID:2baYGPaj0
    これを見た親族は泣き叫び、Kの奥さんはなんて物を見せるんだと俺に掴みかかり、
    Kの父親は俺を殴りつけた。奥さんの弟が、K兄さんはいたずらで
    こういうものを撮るような人じゃないとなだめてくれたおかげで
    その場は収まったが、俺は土下座をして、すぐにこのDVDは処分しますといってみんなに謝った。

    翌日、DVDを近所の寺に持っていったら、処分をお願いしますという前に
    住職がDVDの入った紙袋を見るや否や「あ、それはうちでは無理です」と。
    代わりに、ここなら浄霊してくれるという場所を教えてもらい、行ったが
    そこでも「えらいとんでもないものを持ってきたね」と言われた。

    そこの神主(霊媒師?)によると、Kはビデオを撮った時点で完全に地獄に
    引っ張り込まれており、何で半年永らえたのかわからない、本来なら
    あの直後に事故にあって死んでたはずだと言われた。



    8 捕 リゾートバイト

    まずはじめに言っておくが、こいつは驚くほど長い。
    そしてあろうことか、たいした話ではない。
    死ぬほど暇なやつだけ読んでくれ。

    忠告はしたので、はじめる。
    これは俺が大学3年の時の話。
    夏休みも間近にせまり、大学の仲間5人で海に旅行に行こうって計画を立てたんだ。

    計画段階で、仲間の一人がどうせなら海でバイトしないかって言い出して、
    俺も夏休みの予定なんて特になかったから二つ返事でOKを出した。
    そのうち2人は、なにやらゼミの合宿があるらしいとかで、バイトはNGってことに。

    結局、5人のうち3人が海でバイトすることにして、残り2人は旅行として俺達の働く
    旅館に泊まりに来ればいいべって話になった。

    それで、まずは肝心の働き場所を見つけるべく、3人で手分けして色々探してまわることにした。

    ネットで探してたんだが、結構募集してるもんで、友達同士歓迎っていう文字も多かった。
    俺達はそこから、ひとつの旅館を選択した。

    もちろんナンパの名所といわれる海の近く。そこはぬかりない。

    電話でバイトの申し込みをした訳だが、それはもうトントン拍子に話は進み、
    途中で友達と2日間くらい合流したいという申し出も、
    「その分いっぱい働いてもらうわよ」
    という女将さんの一言で難なく決まった

    計画も大筋決まり、テンションの上がった俺達は、そのまま何故か健康ランドへ直行し、
    その後友達の住むアパートに集まって、風呂上りのツルピカンの顔で、ナンパ成功時の行動などを綿密に打ち合わせた。


    そして仲間うち3人(俺含む)が旅館へと旅立つ日がやってきた。
    初めてのリゾートバイトな訳で、緊張と期待で結構わくわくしてる僕的な俺がいた。

    旅館に到着すると、2階建ての結構広めの民宿だった。
    一言で言うなら、田舎のばーちゃんち。
    ○○旅館とは書いてあるけど、まあ民宿だった。○○荘のほうがしっくりくるかんじ。

    入り口から声をかけると、中から若い女の子が笑顔で出迎えてくれた。
    ここでグッとテンションが上がる俺。

    旅館の中は、客室が4部屋、みんなで食事する広間が1つ、従業員住み込み用の部屋が2つで計7つの部屋が
    あると説明され、俺達ははじめ広間に通された。

    しばらく待っていると、若い女の子が麦茶を持ってきてくれた。
    名前は「美咲ちゃん」といって、この近くで育った女の子だった。

    それと一緒に入ってきたのが女将さんの「真樹子さん」。
    恰幅が良くて笑い声の大きな、すげーいい人。もう少し若かったら俺惚れてた。

    あと旦那さんもいて、計6人でこの民宿を切り盛りしていくことになった。

    ある程度自己紹介とかが済んで、女将さんが言った。
    「客室はそこの右の廊下を突き当たって左右にあるからね。
    そんであんたたちの寝泊りする部屋は、左の廊下の突き当たり。
    あとは荷物置いてから説明するから、ひとまずゆっくりしてきな。」

    ふと友達が疑問に思ったことを聞いた。(友達をA・Bってことにしとく)
    A「2階じゃないんですか?客室って。」

    すると女将さんは、笑顔で答えた。
    「違うよ。2階は今使ってないんだよ」

    俺達は、今はまだシーズンじゃないからかな?って思って特に気に留めてなかった。
    そのうち開放するんだろ、くらいに思って。

    部屋について荷物を下ろして、部屋から見える景色とか見てると、
    本当に気が安らいだ。これからバイトで大変かもしれないけど、
    こんないい場所でひと夏過ごせるのなら全然いいと思った。
    ひと夏のあばんちゅーるも期待してたしね。

    そうして俺達のバイト生活が始まった。

    大変なことも大量にあったが、みんな良い人だから全然苦にならなかった。
    やっぱ職場は人間関係ですな。

    1週間が過ぎたころ、友達の一人がこう言った。
    A「なあ、俺達良いバイト先見つけたよな。」

    B「ああ、しかもたんまり金はいるしな」

    友達二人が話す中俺も、
    俺「そーだな。でももーすぐシーズンだろ?忙しくなるな。」

    A「そういえば、シーズンになったら2階は開放すんのか?」

    B「しねーだろ。2階って女将さんたち住んでるんじゃないのか?」

    俺とAは
    A俺「え、そうなの?」と声を揃える。

    B「いやわかんねーけど。でも最近女将さん、よく2階に飯持ってってないか?」
    と友達が言った。


    A「知らん」
    俺「知らん」

    Bは夕時、玄関前の掃き掃除を担当しているため、2階に上がる女将さんの姿を
    よく見かけるのだという。
    女将さんはお盆に飯を乗っけて、そそくさと2階へ続く階段に消えていくらしい。

    その話を聞いた俺達は、
    「へ~」
    「ふ~ん」
    みたいな感じで、別になんの違和感も抱いていなかった。


    それから何日かしたある日、いつもどおり廊下の掃除をしていた俺なんだが、
    見ちゃったんだ。客室からこっそり出てくる女将さんを。
    女将さんは基本、部屋の掃除とかしないんだ。そうゆうのするのは全部美咲ちゃん。
    だから余計に怪しかったのかもしれないけど。

    はじめは目を疑ったんだが、やっぱり女将さんで、その日一日もんもんしたものを
    抱えていた俺は、結局黙っていられなくて友達に話したんだ。

    すると、Aが言ったんだよ、
    A「それ、俺も見たことあるわ」

    俺「おい、マジか。なんで言わなかったんだよ」

    B「それ、俺ないわ」

    俺「じゃー黙れ」

    A「だってなんか用あるんだと思ってたし、それに、疑ってギクシャクすんの嫌じゃん」

    俺「確かに」

    俺達はそのとき、残り1ヶ月近くバイト期間があった訳で。
    3人で、見てみぬふりをするか否かで話し合ったんだ。

    そしたらBが
    「じゃあ、女将さんの後ろつけりゃいいじゃん」
    ていう提案をした。

    A「つけるってなんだよ。この狭い旅館でつけるって現実的に考えてバレるだろ」

    B「まーね」

    俺「なんで言ったんだよ」

    AB俺「・・・」

    3人で考えても埒があかなかった。
    来週には残りの2人がここに来ることになってるし、何事もなく過ごせば
    楽しく過ごせるんじゃないかって思った。
    だけど俺ら男だし。3人組みだし?ちょっと冒険心が働いて、「なにか不審なものを見たら報告する」ってことで
    その晩は大人しく寝たわけ。

    そしたら次の日の晩、Bがひとつ同じ部屋の中にいる俺達をわざとらしく招集。
    お前が来いや!!と思ったが渋々Bのもとに集まる。


    B「おれさ、女将さんがよく2階に上がるっていったじゃん?あれ、最後まで見届けたんだよ。
    いつも女将さんが階段に入っていくところまでしか見てなかったんだけど、昨日はそのあと出てくるまで
    待ってたんだよ」

    B「そしたらさ、5分くらいで降りてきたんだ。」

    A「そんで?」

    B「女将さんていつも俺らと飯くってるよな?それなのに盆に飯のっけて2階に上がるってことは、
    誰かが上に住んでるってことだろ?」

    俺「まあ、そうなるよな・・・」

    B「でも俺らは、そんな人見たこともないし、話すら聞いてない」

    A「確かに怪しいけど、病人かなんかっていう線もあるよな」

    B「そそ。俺もそれは思った。でも5分で飯完食するって、結構元気だよな?」

    A「そこで決めるのはどうかと思うけどな」

    B「でも怪しくないか?お前ら怪しいことは報告しろっていったじゃん?
    だから報告した」

    語尾がちょっと得意げになっていたので俺とAはイラっとしたが、そこは置いておいて、
    確かに少し不気味だなって思った。


    「2階にはなにがあるんだろう?」

    みんなそんな想いでいっぱいだったんだ。


    次の日、いつもの仕事を早めに済ませ、俺とAはBのいる玄関先へ集合した。
    そして女将さんが出てくるのを待った。

    しばらくすると女将さんは盆に飯を載せて出てきて、2階に上がる階段のドアを開くと、
    奥のほうに消えていった。ここで説明しておくと、2階へ続く階段は、玄関を出て外にある。
    1階の室内から2階へ行く階段は俺達の見たところでは確認できなかった。

    玄関を出て壁伝いに進み角を曲がると、そこの壁にドアがある。
    そこを開けると階段がある。わかりずらかったらごめん。

    とりあえずそこに消えてった女将さんは、Bの言ったとおり5分ほど経つと戻ってきて、
    お盆の上の飯は空だった。そして俺達に気づかないまま、1階に入っていった。

    B「な?早いだろ?」

    俺「ああ、確かに早いな」

    A「なにがあるんだ?上」

    B「知らない。見に行く?」

    A「ぶっちゃけ俺、今ちょーびびってるけど?」

    B「俺もですけど?」

    俺「とりあえず行ってみるべ」

    そう言って3人で2階に続く階段のドアの前に行ったんだ。

    A「鍵とか閉まってないの?」
    というAの心配をよそに、俺がドアノブを回すと、すんなり開いた。

    「カチャ」

    ドアが数センチ開き、左端にいたBの位置からならかろうじて中が見えるようになったとき、
    B「うっ」

    Bが顔を歪めて手で鼻をつまんだ。

    A「どした?」

    B「なんか臭くない?」

    俺とAにはなにもわからなかったんだが、Bは激しく匂いに反応していた。

    A「おまえ、ふざけてるのか?」

    Aはびびってるから、Bのその動作に腹が立ったらしく、でもBはすごい真剣に

    B「いやマジで。匂わないの?ドアもっと開ければわかるよ」と言った。

    俺は、意を決してドアを一気に開けた。
    モアっと暖かい空気が中から溢れ、それと同時に埃が舞った。

    俺「この埃の匂い?」

    B「あれ?匂わなくなった」

    A「こんな時にふざけんなよ。俺、なにかあったら絶対お前置いてくからな。今心に決めたわ」
    とびびるAは悪態をつく。

    B「いやごめんって。でも本当に匂ったんだよ。なんていうか・・生ゴミの匂いっぽくてさ」

    A「もういいって。気のせいだろ」
    そんな二人を横目に俺はあることに気づいた。


    廊下が、すごい狭い。

    人が一人通れるくらいだった。

    そして電気らしきものが見当たらない。外の光でかろうじて階段の突き当たりが見える。
    突き当たりには、もうひとつドアがあった。

    俺「これ、上るとなるとひとりだな」

    A「いやいやいや、上らないでしょ」

    B「上らないの?」

    A「上りたいならお前行けよ。俺は行かない」

    B「おれも、むりだな」
    AがBをどつく。

    俺「結局行かねーのかよ。んじゃー、俺いってみる」

    AB「本気?」

    俺「俺こういうの、気になったら寝れないタイプ。寝れなくて真夜中一人で来ちゃうタイプ。
    それ完全に死亡フラグだろ?だから、今行っとく。」

    訳のわからない理由だったが、俺の好奇心を考慮すれば、今AとBがいるこのタイミングで
    確認するほうがいいと思ったんだ。

    でも、その好奇心に引けを取らずして恐怖心はあったわけで。

    とりあえず俺一人行くことになったが、なにか非常事態が起きた場合は絶対に(俺を置いて)逃げたりせず、
    真っ先に教えてくれっていう話になったんだ。

    ただし、何事もないときは、急に大声を出したりするなと。
    もしそうしてしまったときは、命の保障はできないとも伝えた。俺のね。


    そんでソロソロと階段を上りだす俺。

    階段の中は、外からの光が差し込み、薄暗い感じだった。
    慎重に一段ずつ階段を上り始めたが、途中から、
    「パキっ・・・パキっ」
    と音がするようになった。

    何事かと思い、怖くなって後ろを振り返り、二人を確認する。

    二人は音に気づいていないのか、
    じっとこちらを見て親指を立てる。
    「異常なし」の意味を込めて。

    俺は微かに頷き、再度2階に向き直る。
    古い家によくある、床の鳴る現象だと思い込んだ。

    下の入り口からの光があまり届かないところまで上ると、好奇心と恐怖心の均衡が怪しくなってきて、
    今にも逃げ帰りたい気分になった。
    暗闇で目を凝らすと、突き当たりのドアの前に何かが立っている・・かもしれないとか、
    そういう「かもしれない思考」が本領を発揮しだした。

    「パキパキパキっ・・」

    この音も段々激しくなり、どうも自分が何かを踏んでいる感触があった。
    虫か?と思った。背筋がゾクゾクした。
    でも何かが動いている様子はなく、暗くて確認もできなかった。

    何度振り返ったかわからないが、途中から下の二人の姿が逆光のせいか
    薄暗い影に見えるようになった。ただ親指はしっかり立てていてくれた。

    そしてとうとう突き当たりに差し掛かったとき、強烈な異臭が俺の鼻を突いた。
    俺はBとまったく同じ反応をした。
    俺「うっ」

    異様に臭い。生ゴミと下水の匂いが入り混じったような感じだった。
    (なんだ?なんだなんだなんだ?)
    そう思って当たりを見回す。

    その時、俺の目に飛び込んできたのは、突き当たり踊り場の角に
    大量に積み重ねられた飯だった。
    まさにそれが異臭の元となっていて、何故気づかなかったのかってくらいに
    蝿が飛びかっていた。
    そして俺は、半狂乱の中、もうひとつあることを発見してしまう。

    2階の突き当たりのドアの淵には、ベニヤ板みたいなのが無数の釘で打ち付けられていて、
    その上から大量のお札が貼られていたんだ。
    さらに、打ち付けた釘に、なんか細長いロープが巻きつけられてて、くもの巣みたいになってた。

    俺、正直お札を見たのは初めてだった。
    だからあれがお札だったと言い切れる自信もないんだが、大量のステッカーでもないだろうと思うんだ。

    明らかに、なにか閉じ込めてますっていう雰囲気全開だった。

    俺はそこで初めて、自分のしたことは間違いだったんだと思った。

    「帰ろう」
    そう思って踵を返して行こうとしたとき、突然背後から

    「ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ」
    という音がしたんだ。

    ドアの向こう側で、なにか引っかいているような音だった。

    そしてその後に、
    「ひゅー・・ひゅっひゅー」
    不規則な呼吸音が聞こえてきた。

    このときは本当に心臓が止まるかとおもった。

    (そこに誰かいるの?誰?誰なの?)←俺の心の中

    あの時の俺は、ホラー映画の脇役の演技を遥かに逸脱していたんじゃないかと思う。


    そのまま後ろを見ずに行けばいいんだけど、あれって実際できないぞ。
    そのまま行く勇気もなければ、振り返る勇気もないんだ。
    そこに立ちすくむしかできかった。

    眼球だけがキョロキョロ動いて、冷や汗で背中はビッショリだった。

    その間も
    「ガリガリガリガリガリガリ」
    「ひゅー・・ひゅっひゅー」
    って音は続き、緊張で硬くなった俺の脚をどうにか動かそうと必死になった。

    すると背後から聞こえていた音が一瞬やんで、シンっとなったんだ。
    ほんとに一瞬だった。瞬きする間もなかったくらい。

    すぐに、「バンっ!」って聞こえて
    「ガリガリガリガリガリガリ」って始まった。

    信じられなかったんだけど、それはおれの頭の真上、天井裏聞こえてきたんだ。
    さっきまでドアの向こう側で鳴っていたはずなのに、ソレが一瞬で頭上に移動したんだ。

    足がブルブル震えだして、もうどうにもできないと思った。

    心の中で、助けてって何度も叫んだ。

    そんな中、本当にこれも一瞬なんだけど、視界の片隅に動くものが見えた。
    あのときの俺は動くものすべてが恐怖で、見ようか見まいかかなり躊躇したんだが、
    意を決して目をやると、それはAとBだった。
    下から何か叫びながら手招きしている。

    そこでやっとAとBの声が聞こえてきた。
    A「おい!早く降りてこい!!」
    B「大丈夫か?」

    この瞬間一気に体が自由になり、我に返った俺は一目散に階段を駆け下りた。
    あとで二人に聞いたんだが、俺はこの時目を瞑ったまま、
    一段抜かししながらものすごい勢いで降りてきたらしい。

    駆け下りた俺は、とにかく安全な場所に行きたくて、そのままAとBの横を通りすぎ
    部屋に走っていったらしい。この辺はあまり記憶がない。
    恐怖の記憶で埋め尽くされてるからかな。

    部屋に戻ってしばらくするとAとBが戻ってきた。
    A「おい、大丈夫か?」

    B「なにがあったんだ?あそこになにかあったのか?」

    答えられなかった。というか、耳にあの音たちが残っていて、思い出すのが怖かった。

    するとAが慎重な面持ちで、こう聞いてきた。
    A「お前、上で何食ってたんだ?」

    質問の意味がわからず聞き返した。

    するとAはとんでもないことを言い出した。
    A「お前さ、上についてすぐしゃがみこんだろ?俺とBで何してんだろって目を凝らしてたんだけど、
    なにかを必死に食ってたぞ。というか、口に詰め込んでた。」

    B「うん・・。しかもさ、それ・・」

    AとBは揃って俺の胸元を見つめる。

    なにかと思って自分の胸元を見ると、大量の汚物がくっついていた。
    そこから、食物の腐ったような匂いがぷんぷんして、俺は一目散にトイレに駆け込み、胃袋の中身を全部吐き出した。

    なにが起きているのかわからなかった。
    俺は上に行ってからの記憶はあるし、あの恐怖の体験も鮮明に覚えている。
    ただの一度もしゃがみこんでいないし、ましてやあの腐った残飯を口に入れるはずがない。

    それなのに、確かに俺の服には腐った残飯がこびりついていて、よく見れば手にも、
    ソレを掴んだ形跡があった。
    気が狂いそうになった。

    俺を心配して見に来たAとBは、
    A「何があったのか話してくれないか?ちょっとお前尋常じゃない。」
    と言った。

    俺は恐怖に負けそうになりながらも、一人で抱え込むよりはいくらかましだと思い、
    さっき自分が階段の突き当たりで体験したことをひとつひとつ話した。

    AとBは、何度も頷きながら真剣に話を聞いていた。

    二人が見た俺の姿と、俺自身が体験した話が完全に食い違っていても、
    最後までちゃんと聞いてくれたんだ。それだけで、安心感に包まれて泣きそうになった。
    少しホッとしていると、足がヒリヒリすることに気づいた。
    なんだ?と思って見てみると、細かい切り傷が足の裏や膝に大量にあった。

    不思議におもって目を凝らすと、なにやら細かいプラスチックの破片ようなものが
    所々に付着していることに気づいた。
    赤いものと、ちょっと黒みのかかった白いものがあった。

    俺がマジマジと見ていると、
    B「何それ?」
    といってBはその破片を手にとって眺めた。

    途端、
    「ひっ」といってそれを床に投げ出した。

    その動作につられてAと俺も体がビクってなる。

    A「なんなんだよ?」

    B「それ、よく見てみろよ」

    A「なんだよ?言えよ恐いから!」

    B「つ、爪じゃないか?」

    瞬間、三人共完全に固まった。
    AB俺「・・・」


    俺はそのとき、ものすごい恐怖のそばで、何故か冷静にさっきまでの音を思い返していた。
    (ああ、あれ爪で引っかいてた音なんだ・・)

    どうしてそう思ったかわからない。
    だけど、思い返してみれば繋がらないこともないんだ。

    階段を上るときに鳴っていた「パキパキ」っていう音も、何かを踏みつけていた感触も、床に大量に散らばった爪のせいだったんじゃないか?って。

    そしてその爪は、壁の向こうから必死に引っかいている何かのものなんじゃないか?って。

    きっと、膝をついて残飯を食ったとき、恐怖のせいで階段を無茶に駆け下りたとき、
    床に散らばる爪の破片のせいでケガをしたんだろう。

    でも、そんなことはもうどうでもいい。

    確かなことは、ここにはもういられないってことだった。

    俺はAとBに言った。
    俺「このまま働けるはずがない」

    A「わかってる」

    B「俺もそう思ってた」

    俺「明日、女将さんに言おう」

    A「言っていくのか?」

    俺「仕方ないよ。世話になったのは事実だし、謝らなきゃいけないことだ」

    B「でも、今回のことで女将さん怪しさナンバーワンだよ?
    もしあそこに行ったって言ったらどんな顔するのか俺見たくない」

    俺「バカ。言うはずないだろ。普通にやめるんだよ。」

    A「うん、そっちのほうがいいな」

    そんなこんなで、俺たちはその晩のうちに荷物をまとめ、
    男なのにむさくるしくて申し訳ないが、あまりの恐怖のため、
    布団を2枚くっつけてそこに3人で無理やり寝た。
    めざしのように寄り添って寝た。

    誰一人、寝息を立てるやつはいなかったけど。

    そうして明日を迎えることになるんだ。


    次の日、誰もほとんど口をきかないまま朝を迎えた。
    沈黙の中、急に携帯のアラームが鳴った。
    いつも俺達が起きる時間だった。

    Bの体がビクンってなって、相当怯えているのが伺えた。

    Bは根がすごく優しいヤツだから、前の晩俺に言ったんだ。

    B「ごめんな。俺なんかよりお前のほうが全然怖い思いしたよな。
    それなのに俺がこんなんでごめん。助けに行かなくて本当ごめん。」

    俺はそれだけで本当に嬉しくて目頭が熱くなった。

    でもよくよく考えてみると、「俺なんかより怖い思い」ってなんだ?
    実際に恐怖の体験をしたのは俺だし、AもBも下から眺めていただけだ。
    もしかしてあれか?俺の階段を駆け下りる姿がマズかったか?

    普通に考えて、俺の体験談が恐ろしかったってことか?

    少し考えて、俺も大概、恐怖に呑まれて相手の言葉に過敏になりすぎてると思った。
    こんな時だからこそ、早く帰ってみんなで残りの夏休みを楽しくゆっくり過ごそうと、
    そればかりを考えるようにした。


    だがその後のBの怯えようは半端なかった。

    俺達がたてる音一つ一つに反応したり、俺の足の傷を食い入るようにじっと見つめたり、
    明らかに様子がおかしかった。


    Aも普段と違うBを見て、多少びびりながらも心配したんだろう、
    A「おい、大丈夫か?寝てないから頭おかしくなってんのか?」
    と問いかけながらBの肩を掴んだ。

    するとBは急に、
    B「うるさいっ!!」
    と叫び、Aの腕をすごい勢いで振り払ったんだ。

    Aと俺は一瞬沈黙した。

    俺「おい、どうしたんだよ?」

    Aは急のできごとに驚いて声を出せずにいた。

    B「大丈夫かだって?大丈夫なわけねーだろ?
    俺も○○(俺の名前)も死ぬような思いしてんだよ。
    何にもわかってねーくせに心配したふりすんな!!」

    Aを睨み付けながらそう叫んだ。

    何を言ってるんだろうと思った。
    Bの死ぬ思いってなんだ?俺の話を聞いて恐怖してたわけじゃないのか?

    AとBは仲間内でも特に仲が良かったんだが、その関係もAがBをいじる感じで、
    どんな悪ふざけにもBは怒らず調子を合わせていた。

    だからBがAに声を荒げる場面なんか見たことなかったし、もちろん当の本人Aもそんな経験なかったんだと思う。
    Aはこれも見たことないくらいにオロオロしていた。

    俺は疑問に思ったことをBに問いかけた。

    俺「死ぬ思いってなんだ?お前ずっと下にいたろ?」

    B「いたよ。ずっと下から見てた」

    そして少し黙ってから下を向いて言った。

    B「今も見てる。」

    俺「・・」

    今も?
    え、何を?


    俺は訳がわからない。
    全然わからないんだが、よくある話で、Bの気が狂ったんだと思った。
    何かに取り憑かれたんだと。

    そんな思いをよそに、Bは震える口調で、でもしっかりと喋りだした。

    B「あの時、俺は下にいたけど、でもずっと見てたんだ」

    俺「上っていく俺だよな?」

    B「違うんだ・・いや、初めはそうだったんだけど。
    お前が階段を上りきったくらいから、見え出したんだ」

    俺「・・うん」

    本当はこのとき、俺の心の中は聞きたくないという気持ちが大半を占めていた。
    でもBは、もうこれ以上一人で抱えきれないという表情で、まるで前の日の自分を見ているようだったんだ。

    あのとき、俺の話を最後までちゃんと聞いてくれたAとB、あれで自分がどれだけ救われたかを考えると、
    俺には聞かなくちゃならない義務があるように思えた。

    俺「何が、見えたんだ?」

    B「・・・」

    Bはまた少し黙りこみ、覚悟したように言った。

    B「影・・だと思う」

    俺「影?」

    B「うん。初めはお前の影だと思ってたんだ。
    けど、お前がしゃがみこんで残飯を食っている間にも、ずっと影は動いてたんだ。
    お前の影が小さくなるのはちゃんと見えたし、自分らの影も足元にあった。」


    B「それでそれ以外に動き回る影が・・」



    B「3つ・・いや4つくらいあった。」


    俺は、全身にぶわっと鳥肌が立つのを感じた。

    どうかこれがBの冗談であってくれと思った。
    しかし、今目の前にいるBはとてもじゃないが冗談を言っているように見えなかった。
    むしろ、冗談という言葉を口に出したとたんに殴りかかってくるんじゃないかってくらいに真剣だった。


    俺「あそこには、俺しかいなかった」

    B「わかってる」

    俺「そもそも、あのスペースに人が4,5人も入って動き回れるはずない」

    あの階段は人が一人通れる位のスペースだったんだ。

    B「あれは人じゃない。それ位わかるだろ」

    俺「・・・」

    B「それに、どう考えても人じゃ無理だ」

    Bはポツリと言った。

    俺「どういうことだ?」







    B「全部、壁に張り付いてた」

    俺「え?」

    B「蜘蛛みたいに、全部壁の横とか上に張り付いてたんだ。
    それで、もぞもぞ動いてて、それで、それで・・・」

    自分の見た光景を思い出したのか、Bの呼吸が荒くなる。

    俺「落ち着け!深呼吸しろ。な?大丈夫だみんないる」

    Bはしばらく興奮状態だったが、落ち着きを取り戻してまた話しだした。

    B「あれは人じゃない。いや、元から人じゃないんだけど、形も人じゃない。
    いや、人の形はしてるんだけど、違うんだ」

    Bが何を言いたいのかなんとなくわかった俺は、
    俺「人間の形をしたなにかが、壁に張り付いてたってことか?」
    と聞いた。

    Bは黙って頷いた。

    口から飛び出そうなくらいに心臓の鼓動が激しくなった。

    とっさに、Bが見たのは影じゃないと思った。
    影が横や上の天井を動き回るのは不自然だ。
    仮にそれが影だったとしても、確実にそこに何かがいたから影ができたんだ。

    それくらいバカの俺でもわかる。

    ということは、俺は自分の周りで這い回る何かに気づかず、しかも腐った残飯を
    モリモリと食べていたってことなのか?

    あの音は・・?
    あのガリガリと壁を引っかく音は、壁やドアの向こう側からじゃなくて、
    俺のいる側のすぐそばで鳴っていたということか?
    あの呼吸音も?

    恐怖のあまり頭がクラクラした。

    そんな俺の様子を知ってか知らずか、Bは傍に立っていたAに向き直り、
    B「ごめん、さっきは取り乱して。悪かった」
    と謝った。

    A「いや、大丈夫・・こっちこそごめんな」
    Aもすかさず謝った。

    その後なんとなく気まずい雰囲気だったが、俺は平静を保つのに必死だった。
    無意味に深呼吸を繰り返した。

    そんな中Aが口を開いた。

    A「お前さ、さっき今も見てるっていったけど」

    BはAが言い終わらないうちに答えた。

    B「ああ、ごめん。あれはちょっと、錯乱してたんだわ。ははっ
    ごめん、今は大丈夫」

    そういったBの笑顔は、完全に作り笑いだった。
    明らかに無理した笑顔で、目はどこか違うところを見ているようだった。

    関係ないんだが、このとき何故かものすごい印象的だったのは、Bの目の下がピクピクいってたことだ。
    こんなん何人かに一人はよくあることだよな?
    だけど無理して笑う人の目の下ピクピクは、結構くるものがあるぞ。

    話を戻すと、Aと俺はそれ以上聞かなかった。
    臆病者だと思われても仕方ない。だけど怖くて聞けなかったんだ。

    ちょっと考えてみろ、ここまで話したBが敢えて何かを隠すんだぞ。
    絶対無理だろ。聞いたら、俺の心臓砕け散るだろ。
    それこそ俺が発狂するわ。

    少しの沈黙のあと、広間のほうから美咲ちゃんが朝飯の時間だと俺達を呼んだ。
    3人で話している間に結構な時間が過ぎていたらしい。

    正直、食欲などあるはずもなく。
    だが不審に思われるのは嫌だったし、行くしかないと思った。

    俺はのっそりと立ち上がり、二人に言った。

    俺「なるべく早いほうがいいよな。朝飯食い終わったら言おう」

    A「そうだな」

    B「俺、飯いいや。Aさ、ノートPCもってきてたよな?ちょっと、貸してくれないか?」

    A「いいけど、朝飯食えよ」

    B「ちょっと調べたいことがあるんだ。あんまり時間もないし、悪いけど二人でいってきて」

    俺「了解。美咲ちゃんに頼んでおにぎり作ってもらってきてやるよ」

    B「うん、ありがと」

    A「パソコンは俺のカバンの中に入ってる。勝手に使っていいよ。ネットも繋がるから。」

    そう言って俺達はそのまま広間に行った。

    後から考えると、辞めるその日の朝飯食うってどうなの?
    他人がやってたら絶対突っ込むくせして、俺らふっつーに食べたんだが。

    広間に着くと、女将さんが俺らを見て、更には俺の足元をみて、満面の笑顔で聞いてきたんだ。

    「おはよう、よく眠れた?」って。

    そんな言葉、初日以来だったし、昨日のこともあったからすごい不気味だった。

    びびった俺は直立不動になってしまったわけだが、Aが、
    A「はい。すみません遅れて。」
    と返事をしながら俺のケツをパンと叩いた。

    体がスっと動いた。
    いつも人一倍びびってたAに助け舟を出してもらうとは思わなかったから、正直驚いた。

    そしてBが体調不良のためまだ部屋で寝ていることを伝え、美咲ちゃんにおにぎりを作ってもらえるよう頼んだ。

    「あ、いいですよ。それよりBくん、今日は寝てたほうがいいんじゃ」

    美咲ちゃんは心配そうにそう言った。

    Aと俺は、得に何も言わず席についた。
    ”もう辞めるから大丈夫”とは言えないからな。

    朝飯を食っている間、女将さんはずっとニコニコしながら俺を見てた。
    箸が完全に止まってるんだ。「俺、ときどき飯」みたいな。
    美咲ちゃんも旦那さんもその異様な光景に気づいたのか、チラチラ俺と女将さんを見てた。
    Aは言うまでもなく、凝固。

    凄まじく気分の悪くなった俺達は朝飯を早々に切り上げて、女将さん達に話をするため、部屋にBを呼びに行った。

    部屋に戻る途中、Bの話し声が聞こえてきた。
    どうやらどこかに電話をしているようだった。

    俺達は電話中に声をかけるわけにもいかなかったので、部屋に入り座って電話が終わるのを待った。

    B「はい、どうしても今日がいいんです。・・・・はい、ありがとうございます!
    はい、はい、必ず伺いますのでよろしくお願いします。」
    そう言って電話を切った。

    どうやらBは、ここから帰ってすぐどこかへ行く予定を立てたらしい。
    俺もAも別に詮索するつもりはなかったんで何も聞かず、すぐにBを連れて広間に向かった。

    広間に戻ると美咲ちゃんが朝飯の片付けをしていた。
    女将さんはいなかった。
    俺はふと思った。

    あそこに行ってるんじゃないか?って。
    盆に飯のっけて、2階への階段に消えていったあの女将さんの後姿がフラッシュバックした。
    きっとあの時持って行った飯は、あの残飯の上に積み重ねてあったんだろう。
    そうして何日も何日も繰り返して、あの山ができたんだろうな。

    (一体あれは何のためなんだ?)
    俺の頭に疑問がよぎった。

    けど、そんなこと考えるまでもないとすぐに思い直した。
    俺は今日で辞めるんだ。ここともおさらばするんだ。すぐに忘れられる。
    忘れなきゃいけない。心の中で自分に言い聞かせた。

    Aが女将さんの居場所を美咲ちゃんに尋ねた。

    「女将さんならきっと、お花に水やりですね。すぐ戻ってきますよ」

    そう言って美咲ちゃんは、Bの方を見て、

    「Bくん、すぐおにぎり作るからまっててね」
    と笑顔で台所に引っ込んだ。

    ああ、美咲ちゃん・・何もなければきっと俺は美咲ちゃんとひと夏のあばん(ry

    俺達は女将さんが戻ってくるのを待った。

    しばらくすると女将さんは戻ってきて、仕事もせずに広間に座り込む俺達を見て
    「どうしたのあんたたち?」
    とキョトンとした顔をしながら言った。

    俺は覚悟を決めて切り出した。

    俺「女将さん、お話があるんですけどちょっといいですか?」

    女将さんは
    「なんだい?深刻な顔して」
    と俺達の前に座った。

    俺「勝手を承知で言います。
    俺達、今日でここを辞めさせてもらいたいんです」

    AとBもすぐ後に、
    AB「お願いします」
    と言って頭を下げた。

    女将さんは表情ひとつ変えずにしばらく黙っていた。
    俺はそれがすごく不気味だった。
    眉ひとつ動かさないんだ。まるで予想していたかのような表情で。

    そして沈黙の後、
    「そうかい。わかった、ほんとにもうしょうがない子たちだよ~。」
    と言って笑った。

    そして給料の話、引き上げる際の部屋の掃除などの話を一方的に喋り、
    用意ができたら声をかけるようにと俺達に言ったんだ。

    拍子抜けするくらいにすんなり話が通ったことに、三人とも安堵していた。
    だけど、心のどこかでなんかおかしいと思う気持ちもあったはずだ。

    話が決まったからには俺達は即行動した。
    荷物は前の晩のうちにまとめてある。
    あとは部屋の掃除をするだけで良かった。

    バイトを始めてから、仕事が終われば近くの海で遊んだり、疲れてる日には戻ってすぐに爆睡だったんで、
    部屋にいる時間はあまりなかったように思う。
    だから男3人の部屋といえど、元からそんなに汚れているわけでもなかった。
    そんなこんなで、一時間ほどの掃除をすれば部屋も大分綺麗になった。

    準備ができたということで、俺達は広間に戻り、女将さんたちに挨拶をすることにした。


    広間に着くと女将さんと旦那さん、そして悲しそうな顔をした美咲ちゃんが座っていた。

    俺達は3人並んで正座し、
    俺「短い間ですが、お世話になりました。
    勝手言ってすみません」


    俺AB「ありがとうございました」
    と言って頭を下げた。

    すると女将さんが腰を上げて、俺達に近寄りこう言った。
    「こっちこそ、短い間だったけどありがとうね。
    これ、少ないけど・・・」

    そう言って茶封筒を3つ、そして小さな巾着袋を3つ手渡してきた。
    茶封筒は思ったよりズッシリしてて、巾着袋はすごく軽かった。

    そして後ろから美咲ちゃんが、
    「元気でね」
    といってちょっと泣きそうな顔しながら言うんだ。
    そして、
    「みんなの分も作ったから」って、
    3人分のおにぎりを渡してくれた。

    おいおい止めてくれ。泣いちゃうよ俺!
    そう思ってあんまり美咲ちゃんの顔を見れなかった。

    前日で死にそうな思いしたのにまさかのセンチって思うだろ?
    だけど、実際すげー世話になった人との別れって、その時はそういうの無しになるものなんだわ。

    挨拶も済んで、俺達は帰ることになった。

    行きは近くのバス停までバスを使って来たんだが、帰りはタクシーにした。
    旦那さんが車で駅まで送ってくれるって話も出たんだが、Bが断った。


    そして美咲ちゃんに頼んでタクシーを呼んでもらった。

    タクシーが到着すると、女将さんたちは車まで見送りに来てくれた。
    周りから見ればなんとなく感動的な別れに見えただろうが、実際俺達は逃げ出す真っ最中だったんだよな。

    タクシーに乗り込む前に、俺は振り返った。
    かろうじて見えた2階への階段のドア。目を凝らすと、ほんの少し開いてるような気がして思わず顔を背けた。

    そして3人とも乗り込み、行き先を告げた後すぐ車が動き出した。

    旅館から少し離れると、急にBが運転手に行き先を変更するよう言ったんだ。
    運転手になにかメモみたいなものを渡して、ここに行ってくれと。

    運転手はメモを見て怪訝な顔をして聞いてきた。
    「大丈夫?結構かかるよ?」

    B「大丈夫です」

    Bはそう答えると、後部座席でキョトンとしているAと俺に向かって
    B「行かなきゃいけないとこがある。お前らも一緒に」
    と言った。

    俺とAは顔を見合わせた。考えてることは一緒だったと思う。

    (どこへ行くんだ・・?)

    だが、朝のBの様子を見た後だったんで、正直気が引けて何も聞けなかった。
    またキレ出すんじゃないかとびびってたんだ。

    しばらく走っていると運転手さんが聞いてきた。
    「後ろ走ってる車、お客さんたちの知り合いじゃない?」

    え?と思って振り返ると、軽トラックが一台後ろにぴったりくっついて走っていた。
    そして中から手を振っていたのは、旦那さんだった。

    俺達は何か忘れ物でもしたのかと思い、車を止めてもらえるよう頼んだ。

    道の端に車が止まると、旦那さんもそのまますぐ後ろに軽トラを止めた。
    そして出てくると俺達のところに来て、
    「そのまま帰ったら駄目だ。」
    と言った。

    B「帰りませんよ。こんな状態で帰れるはずないですから」

    Bと旦那さんはやけに話が通じあっていて、Aと俺は完全に置いてけぼりを食らった。

    俺「え、どういうこと?」
    なにがなにやらわからんかったので素直に質問した。

    すると旦那さんは俺のほうを向き、まっすぐ目を見つめて言った。
    旦「おめぇ、あそこ行ったな?」

    心臓がドクンって鳴った。

    (なんで知ってんの?)

    この時は本気で怖かった。
    霊的なものじゃなくて、なんていうか大変なことをしてしまったっていう思いがすごくて。

    俺は、「はい」と答えるだけで精一杯だった。

    すると旦那さんはため息をひとつ吐くと言った。
    旦「このまま帰ったら完全に持ってかれちまう。
    なぁんであんなとこ行ったんだかな。
    まあ、元はと言えば俺がちゃんと言わんかったのが悪いんだけどよ。」

    おい、持ってかれるってなんだ。勘弁してくれよ。
    ここから帰ったら楽しい夏休みが待ってるはずだろ?

    不安になってAを見た。Aは驚くような目で俺を見ていた。
    さらに不安になってBを見た。
    するとBは言うんだ。
    B「大丈夫。これから御祓いに行こう。そのためにもう向こうに話してあるから」


    信じられなかった。
    憑かれていたってことか?
    何だよ俺死ぬのか?この流れは死ぬんだよな?
    なんであんなとこ行ったんだって?行くなと思うなら始めから言ってくれ。

    あまりの恐怖で、自分の責任を誰か他の人に転嫁しようとしていた。

    呆然としている俺を横目に、旦那さんは話を進めた。

    旦「御祓いだって?」

    B「はい」

    旦「おめぇ、見えてんのか」

    B「・・・」

    A「おい、見えてるって・・」

    B「ごめん。今はまだ聞かないでくれ」

    俺は思わずBに掴みかかった。

    俺「いい加減にしろよ。さっきから何なんだよ!」

    旦那さんが割って入る。

    旦「おいおい止めとけ。おめぇら、逆にBに感謝しなきゃならねぇぞ」

    A「でも、言えないってことないんじゃないすか?」

    旦「おめぇらはまだ見えてないんだ。一番危ないのはBなんだよ」

    俺とAは揃ってBを見た。
    Bは、困ったような顔をしてそこにいた。

    俺「どうしてBなんですか?実際にあそこに行ったのは俺です」

    旦「わかってるさ。でもおめぇは見えてないんだろ?」

    俺「さっきから見えてるとか見えてないとか、なんなんですか?」

    旦「知らん」

    俺「はぁ!?」

    トンチンカンなことを言う旦那さんに対して俺はイラっとした。

    旦「真っ黒だってことだけだな、俺の知ってる情報は」

    旦「だがなぁ・・」

    そう言って旦那さんはBを見る。

    旦「御祓いに行ったところで、なんもなりゃせんと思うぞ」

    Bは、疑いの目を旦那さんに向けて聞いた。
    B「どうしてですか?」

    旦「前にもそういうことがあったからだな。
    でも、詳しくは言えん。」

    B「行ってみなくちゃわからないですよね?」

    旦「それは、そうだな」

    B「だったら」

    旦「それで駄目だったら、どうするつもりなんだ?」

    B「・・・」

    旦「見えてからは、とんでもなく早いぞ」

    早いという言葉が何のことを言っているのか俺にはさっぱりわからなかった。
    だが、旦那さんがそういった後、Bは崩れ落ちるようにして泣き出したんだ。

    声にならない泣き声だった。俺とAは、傍で立ち尽くすだけで何もできなかった。

    俺達の異様な雰囲気を感じ取ったのか、タクシーの窓を開けて中から運転手が話しかけてきた。
    「お客さんたち大丈夫ですか?」

    俺達3人は何も答えられない。
    Bに限っては道路に伏せて泣いてる始末だ。

    すると旦那さんが運転手に向かってこう言った。
    旦「あぁ、すまんね。呼び出しておいて申し訳ないんだが、こいつらはここで降ろしてもらえるか?」

    運転手は、
    「え?でも・・」
    と言って俺達を交互に見た。

    その場を無視して旦那さんはBに話しかける。

    旦「俺がなんでおめぇらを追いかけてきたかわかるか?
    事の発端を知る人がいる。その人のとこに連れてってやる。
    もう話はしてある。すぐ来いとのことだ。」

    旦「時間がねぇ。俺を信じろ」

    肩を震わせ泣いていたBは、精一杯だったんだろうな、顔をしわくちゃにして声を詰まらせながら言った。
    B「おねが・・っ・・します・・」

    呼吸ができていなかった。
    男泣きでもなんでもない、泣きじゃくる赤ん坊を見ているようだった。

    昨日の今日だが、Bは一人で、何かものすごい大きなものを抱え込んでいたんだと思った。
    あんなに泣いたBを見たのは、後にも先にもこの時だけだ。

    Bのその声を聞いた俺は、運転手に言った。
    俺「すいません。ここで降ります。いくらですか?」





    その後、俺達は旦那さんの軽トラに乗り込んだ。
    といっても、俺とAは後の荷台なわけで。
    乗り心地は史上最悪だった。

    旦那さんは俺達が荷台に乗っているにも関わらず、有り得んほどにスピードを出した。
    Aから軽く女々しい悲鳴を聞いたが、スルーした。

    どれくらい走ったのか分からない。
    あんまり長くなかったんじゃないかな。
    まあ正直、それどころじゃないほど尾てい骨が痛くて覚えていないだけなんだが。

    着いた場所は、普通の一軒家だった。
    横に小さな鳥居が立っていて石段が奥の方に続いていた。

    俺達の通されたのはその家の方で、旦那さんは呼び鈴を鳴らして待っている間、俺達に「聞かれたことにだけ答えろ」と言った。

    旦「おめぇら、口が悪いからな。変なこと言うんじゃねぇぞ」

    俺は思った。
    この人にだけは言われる筋合いがないと。

    少し待つと、家から一人の女の人が出てきた。
    年は20代くらいの普通の人なんだけど、額の真ん中にでっかいホクロがあったのがすごく印象的だった。

    その女の人に案内されて通されたのは家の一角にある座敷だった。
    そこには一人の坊さん(僧って言うのか?)と、一人のおっさん、一人のじいさんが座っていた。

    俺達が部屋に入るなり、おっさんが「禍々しい」と呟いたのが聞こえた。

    旦「座れ」

    旦那さんの掛け声で俺達は、坊さんたちが並んで座っている丁度向かい側に3人並んで座った。
    そして旦那さんがその隣に座った。

    するとじいさんは口を開いた。
    「○○(旅館の名前)の旦那、この子ら全部で3人かね?」

    旦「えぇ、そうなんですわ。このBって奴は、もう見えてしまってるんですわ」

    旦那さんがそう言った瞬間、おっさんとじいさんは顔を見合わせた。

    すると坊さんが口を開いた。
    坊「旦那さん、堂に行ったというのは彼ですか?」

    旦「いえ。実際行ったのはこの○○(俺の名前)って奴で」

    坊「ふむ」

    旦「Bは下から覗いていただけらしいんです」

    坊「そうですか」

    そして少し黙ったあと坊さんはBに聞いたんだ。

    坊「あなたは、この様な経験は初めてですか?」

    Bが聞き返す。
    B「この様な経験?」

    坊「そうです。この様に、霊を見たりする体験です」

    B「え・・ないです」

    坊「そうですか。不思議なこともあるものです」

    B「・・俺」

    Bが何か喋ろうとしていた。
    そこにいた全員がBを見た。

    坊「はい」

    B「俺、・・・死ぬんでしょうか?」

    そう言ったBの腕は、正座した膝の上で突っ張っているのに、ガクガクと震えていた。

    すると坊さんは静かに答えた。

    坊「そうですね。このままいけば、確実に」

    Bは言葉を失った様子だった。
    震えが急に止まって、畳を一点食い入るように見つめだした。
    それを見たAが口を挟んだ。

    A「死ぬって」

    坊「持って行かれるという意味です」

    意味を説明されたところで俺達はわからない。
    何に何を持って行かれるのか。

    更に坊さんは続けた。

    坊「話がわからないのは当然です。○○くんは、堂へ行った時に何か違和感を感じませんでしたか?」

    坊さんが堂といっているのは、どうやらあの旅館の2階の場所らしかった。
    それで俺は答えた。

    俺「音が聞こえました。あと、変な呼吸音が。
    2階のドアにはお札の様なものが沢山貼ってありました」

    坊「そうですか。
    気づいているかも知れませんがあそこには、人ではないものがおります」

    あまり驚かなかった。事実、俺もそう思っていたからだ。

    坊「恐らくあなたは、その人ではないものの存在を耳で感じた。
    本来ならば人には感じられないものなのです。誰にも気づかれず、ひっそりとそこにいるものなのです」

    そう言うと、坊さんはゆっくりと立ち上がった。

    坊「Bくん、今は見えていますか?」

    B「いえ。ただ音が、さっきから壁を引っかく音がすごくて」

    坊「ここには入れないということです。幾重にも結界を張っておきました。
    その結界を必死に破ろうとしているのですね」

    坊「しかし、皆がいつまでもここに留まることは出来ないのです。
    今からここを出て、おんどう(ごめん音でしかわからない)へ行きます。Bくん、ここから出ればまたあのものたちが現れます。」

    坊「また苦しい思いをすると思います。
    でも必ず助けますから、気をしっかり持って付いて来てくださいね」

    Bはカクカクと首を縦に振っていた。

    そうして、坊さんに連れられて俺達はその家を出てすぐ隣の鳥居をくぐり、石段を登った。
    旦那さんは家を出るまで一緒だったが、おっさんたちと何やら話をした後、坊さんに頭を下げて行ってしまった。

    知ってる人がいなくなって一気に心細くなった俺達は、3人で寄り添うように歩いた。
    特にBは、目を左右に動かしながら背中を丸めて歩いていて、明らかに憔悴しきっていた。
    だから俺達はできる限り、Bを真ん中にして二人で守るように歩いた。

    石段を上り終わる頃、大きな寺が見えてきた。
    だが坊さんはそこには向かわず、俺達を連れて寺を右に回り奥へと進んだ。
    そこにはもう一つ鳥居があり、更に石段が続いていた。

    鳥居をくぐる前に坊さんがBに聞いた。
    坊「Bくん、今はどんな感じですか?」

    B「二本足で立っています。ずっとこっちを見ながら、付いてきてます」

    坊「そうか、もう立ちましたか。よっぽどBくんに見つけてもらえたのが嬉しかったんですね。
    ではもう時間がない。急がなくてはなりませんね」

    そして石段を上り終えると、さっきの寺とは比べ物にならない位小さな小屋がそこにあり、坊さんはその小屋の裏へ回ると、俺達を呼んだ。

    俺達も裏へ回ると坊さんは、ここに一晩入り、憑きモノを祓うのだと言った。
    そして、中には明りが一切ないこと、夜が明けるまでは言葉を発っしてはならないことを伝えてきた。

    坊「もちろん、携帯電話も駄目です。明りを発するものは全て。食ったり寝たりすることもなりません」

    どうしても用を足したくなった場合はこの袋を使用するようにと、変な布の袋を渡された。
    俺は目を疑った。

    (布って・・)

    だが坊さん曰く、中から液体が漏れないようになっているらしい。
    信じ難かったが、そこに食いついてもしょうがないので大人しくしといた。

    その後俺達に、竹の筒みたいなものに入った水を一口ずつ飲ませ、自分も口に含むと俺達に吹きかけてきた。
    そして小さな小屋の中に入るように言った。

    俺達は順番に入ろうとしたんだが、Bが入る瞬間、口元を押さえて外に飛び出して吐いたんだ。
    突然のことで驚いた俺達だったが、坊さんが慌てた様子で聞いてきた。

    坊「あなたたち、堂に行ったのは今日ではないですよね?」

    俺「え?昨日ですけど」

    坊「おかしい、一時的ではあるが身を清めたはずなのに、おんどうに入れないとは」

    言ってる意味がよく分からなかった。

    すると坊さんはBのヒップバッグに目をつけ、
    坊「こちらに滞在する間、誰かから何かを受け取りましたか?」
    と聞いてきた。

    俺は特に思い浮かばず、だがAが言ったんだ。
    A「今日給料もらいましたけど」

    当たり前すぎて忘れてた。
    そういえば給料も貰いものだなって妙に感心したりして。

    俺「あ、あと巾着袋も」

    A「おにぎりも。もらい物に入るなら」

    給料を貰った時に女将さんにもらった小さな袋を思い出した。
    そして美咲ちゃんには朝、おにぎりを作って貰ったんだった。

    坊さんはそれを聞くと、Bに話しかけた。
    坊「Bくん、それのどれか一つを今、持っていますか?」

    B「おにぎりはデカイ鞄の方に入れてありますけど、給料と袋は、今持ってます」

    Bはそう言ってバッグからその二つを取り出した。

    坊さんは、まず巾着袋を開けた。

    すると一言、「これは・・」と言って俺達に見えるように袋の口を広げた。

    中を覗き込んで俺達は息を呑んだ。

    そこには、大量の爪の欠片が詰まっていたんだ。
    俺の足に張り付いていたものと一緒だった。見覚えのある、赤と黒ずんだものだった。

    Bは、その場ですぐまた吐いた。
    俺もそれに釣られて吐いた。
    周辺が汚物の匂いでいっぱいになり、坊さんも顔を歪めていた。

    坊さんは、Bの持ち物を全て預かると言い、俺達2人も持ち物を全て出すように言った。

    俺は、携帯と財布を坊さんに手渡し、旅行鞄の方に入っている巾着袋を処分してもらえるよう頼んだ。

    坊さんは頷き、再度Bに竹筒の水を飲ませ、吹きかけた。

    そして俺達3人がおんどうの中に入ると、
    坊「この扉を開けてはなりません。皆、本堂のほうにおります。明日の朝まで、誰もここに来ることはありません。」

    坊「そして、壁の向こうのものと会話をしてはなりません。このおんどうの中でも言葉を発してはなりません。居場所を教えてはなりません。」

    坊「これらをくれぐれもお守りいただけますよう、お願いします」

    そう言って俺達の顔を見渡した。
    俺達は頷くしかなかった。
    この時既に言葉を発してはならない気がして、怖くて何も言えなかったんだ。

    坊さんは俺達の様子を確認すると、扉を閉め、そのまま何も言わず行ってしまった。


    おんどうの中はひんやりしていた。
    実際ここで飲まず食わずでやっていけるのかと不安だったが、これなら一晩くらいは持ちそうだと思った。

    建物自体はかなり古く、壁には所々に隙間があった。といっても結構小さいものだけど。

    まだ昼時ということもあり、外の光がその隙間から入り、AとBの顔もしっかり確認できた。
    顔を見合わせても何も喋ることができないという状況は、生まれて初めてだった。

    「大丈夫だ」という意味を込めて俺が頷くと、AもBも頷き返してくれた。

    しばらくすると、顔を見合わせる回数も少なくなり、終いにはお互い別々の方向を向いていた。

    喋りたくても喋れないもどかしさの中、後どれくらいの時間が残っているのか見当も付かない俺達は、ただただ呆然とその場にいることしかできなかったんだ。

    途方もない時間が過ぎていると感じているのに、まだ外は明るかった。

    するとAがゴソゴソと音を立て出した。
    何をしているのかと思い、あまり大きな音を出す前に止めさせようと思ってAの方に向き直ると、Aは手に持った紙とペンを俺達に見せた。

    こいつは、坊さんの言うことを聞かずに密かにペンを隠し持っていたのだ。
    そして紙は、板ガムの包み紙だった。まあメモ用紙なんて持っているはずない俺達なので、きっとそれしか思い浮かばなかったんだろう。

    (こいつ何やってんだよ・・)
    一瞬そう思った俺だが、意思の疎通ができないこの状況で極限に心細くなっていた所為もあり、Aの取った行動に何も言う事が出来なかった。
    むしろ、ひとつの光というか、上手く説明できないんだが、とにかくすごく安心したのを覚えてる。

    Aはまず自分で紙に文字を書き、俺に渡してきた。

    ”みんな大丈夫か?”

    俺はAからペンを受け取り、なるべく小さく、スペースを空けるようにして書き込んだ。

    ”俺は今のところ大丈夫、Bは?”

    そしてBに紙とペンを一緒に手渡した。

    ”俺も今は平気。何も見えないし聞こえない。”

    そしてAに紙とペンが戻った。

    こんな感じで、俺達の筆談が始まったんだ。

    A”ガム残り4枚。外紙と銀紙で8枚。小さく文字書こう”

    俺”OK。夜になったらできなくなるから今のうちに喋る”

    B”わかった”

    A”今何時くらい?”

    俺”わからん”

    B”5時くらい?”

    A”ここ来たの1時くらいだった”

    俺”なら4時くらいか”

    B”まだ3時間か”

    A”長いな”

    こんな感じで他愛もない話をして1枚目が終わった。

    するとAが書いてきた。

    A”○○文字でかい”

    俺は謝る仕草を見せた。

    するとAは俺にペンを渡してきたので、

    俺”腹減った”

    と書き込みBに渡した。

    そしてBが何も書かずにAに紙を渡した。

    するとAは

    A”俺も”

    と書いて俺に渡してきた。

    あれだけ心細かったのに、いざ話すとなるとみんな何も出てこなかった。

    俺は、日が沈む前に言っておかなければならないことを書いた。

    俺”何があっても、最後までがんばろうな”

    B”うん”

    A”俺、叫んだらどうしよう”

    俺”なにか口に突っ込んどけ”

    B”突っ込むものなんてないよ”

    A”服脱いでおくか”

    俺”てか、何も起きない、そう信じよう”

    Bは俺の書いた言葉にはノーコメントだった。

    俺も書いたあと、自分で何を言ってるんだろうと思った。

    坊さんは、何も起きないとは一言も言っていなかった。
    むしろ、これから何が起こるのかを予想しているような口ぶりで俺達にいくつも忠告をしたんだ。

    そう考えると俺達は、一刻も早く時間が過ぎてくれることを願っている一方で、本当の本当は、夜を迎えるのがすごく怖かったんだ。

    夜だけじゃない、あの時ああしてる時間も、本当は怖くてしょうがなかった。
    唯一の救いが、互いの存在を目視できるということだっただけで。

    俺の一言で空気が一気に重くなった。

    俺はこの空気をどうにかしようと、Bの持っていた紙とペンをもらい、

    俺”何か喋れ時間もったいない”

    と書いてAに渡した。他人任せもいいとこ。
    Aは一瞬困惑したが、少し考えて書き出し、俺に渡してきた。

    A”じゃあ、帰ったら何するか”

    俺”いいね。俺はまずツタヤだな”

    B”なんでツタヤ?”

    俺”DVD返すの忘れてた”

    A”どんだけ延泊!?”

    まあ嘘だった。どうにかして気を紛らわせたかったからなんでもいいやって適当に書いた。
    結果、雰囲気はほんの少しだが和み、AもBもそれぞれ帰ったら何をするかを書いた。

    少しずつだが、ゆっくりと俺達は静かな時間を過ごした。
    そして残りの紙も少なくなった頃、Bはある言葉を紙に書いた。

    B”俺は坊さんに言われたことを必ず守る。死にたくない”

    俺もAも、最後の言葉を見つめてた。
    俺は「死にたくない」なんて言葉、生まれてこの方本気で言ったことなんかない。
    きっとAもそうだろう。

    死ぬなんて考えていなかったからだ。
    死を間近に感じたことがないからだ。

    それを、今目の前で心の底から言うヤツがいる。
    その事実がすごく衝撃的だった。

    俺はBの目をしっかりと見つめ、頷いた。

    その後は特に何も話さなかったが、不思議と孤独感はなかった。

    お互いの存在を感じながら、俺達は日が暮れるのを感じていた。

    何もせずにいると蝉の鳴き声がうるさくて、でも徐々に耳が慣れて気にならなくなった。
    でも、なんか違和感なんだ。よく耳を凝らすとなにか他の音が聞こえるんだ。

    さらに耳を凝らすと、段々その音がクリアに聞こえるようになった。

    俺は考えるより先に確信した。
    あの呼吸音だって。

    Bを見た。薄暗くて分かりづらかったが、Bに気づいている気配はなかった。

    Bには聞こえないのか?
    そういえばBって呼吸音について言ってたっけ?
    もしかしてあれは聞いたことがないのか?
    それとも単に気づいていないだけか?

    頭の中で色々な考えが浮かんだ。
    すると硬直する俺の様子に気づいたBが、周りをキョロキョロと見回し始めた。

    この状況の中で、神経が過敏にならないはずがなかった。俺の異変にすぐ気づいたんだ。

    すると、Bの視線が一点に止まった。俺の肩越しをまっすぐ見つめていた。
    白目が一気にデカくなり、大きく見開いているのがわかった。

    AもBの様子に気が付き、Bの見ている方を見ていたが何も見つけられないようだった。
    俺は怖くて振り返れなかった。

    それでも、あの呼吸音だけは耳に入ってくる。
    ソレがすぐそこにいることがわかった。動かず、ただそこで「ひゅーっひゅーっ」といっていた。

    しばらく硬直状態が続くと、今度は俺達のいるおんどうの周りを、ズリズリとなにか引きずるような音が聞こえ始めたんだ。

    Aはこの音が聞こえたらしく、急に俺の腕を掴んできた。

    その音は、おんどうの周りをぐるぐると回り、次第に呼吸音が「きゅっ・・・・きゅえっ・・」っていう何か得体の知れない音を挟むようになった。
    俺には音だけしか聞こえないが、ソレがゆっくりとおんどうの周りを徘徊していることは分かった。

    Aの腕から心臓の音が伝わってくるのを感じた。
    Bを確認する余裕がなかったが、固まってたんだと思う。
    全員微動だにしなかった。

    俺は恐怖から逃れるために、耳を塞いで目を瞑っていた。
    頼むから消えてくれと、心の中でずっと願っていた。

    どれくらい時間が経ったかわからない。ほんの数分だったかも知れないし、そうでないかも知れない。
    目を開けて周りを見回すと、おんどうの中は真っ暗で、ほぼ何も見えない状態だった。

    そしてさっきまでのあの音は、消えていた。

    恐怖の波が去ったのか、それともまだ周りにいるのか、判断がつかず動けなかった。

    そして目の前に広がる深い闇が、また別の恐怖を連れて来たんだ。

    目を凝らすが何も見えない。
    「いるか?」「大丈夫か?」の掛け声さえ出せない。

    ただAはずっと俺の腕を握ってたので、そこにいるのが分かった。

    俺はこの時猛烈にBが心配になった。
    Bは明らかに何かを見ていた。

    暗がりの中で、Bを必死に探すが見えない。

    俺は、Aに掴まれた腕を自分の左手に持ち直し、Aを連れてBのいた方へソロソロと歩き出した。
    なるべく音を立てないように、そしてAを驚かせないように。

    暗すぎて意思の疎通ができないんだ。
    誰かがパニックになったら終わりだと思った。

    どこにいるか全くわからないので、左手にAの腕を持ったまま、右手を手前に伸ばして左右にゆっくり振りながら進んだ。
    すると指先が急に固いものに当たり、心臓がボンっと音を立てた。

    手に触れたそれは、手触りから壁だということがわかった。

    おかしい、Bのいた方角に歩いてきたのにBがいない。

    俺は焦った。さらに壁を折り返してゆっくりと進んだ。だがまた壁に行き着いた。

    途方に暮れて泣きそうになった。

    「Bどこだ」の一言を何度も飲み込んだ。

    どうしていいかわからなくなり、その場に立ち尽くしたままAの腕を強く握った。
    すると、今度はAが俺の腕を掴み、ソロソロと歩き出したんだ。

    まず、Aは壁際まで行くと、掴んだ俺の腕を壁に触らせた。
    そしてそのままゆっくりと壁沿いを移動し、角に着いたら進路を変えてまた壁沿いに歩く。
    そうやっていくうちに、前を歩くAがぱたりと止まった。そして、俺の腕をぐいっと引っ張ると、何か暖かいものに触れさせた。
    それは、小刻みに震える人の感触だった。

    Bを見つけたと思った。
    でもすぐ後に、(これは本当にBなのか?)という疑問が芽生えた。
    よく考えたらAもそうだ。ずっと近くにいたが、実際俺の腕を掴んでいるのはAなのか?

    俺は暗闇のせいで、完全に疑心暗鬼に陥っていた。

    俺が無言でいると、Aはまた俺の腕を掴み、ソロソロと歩き出した。

    俺はゆっくりとついていった。
    すると、ほんの僅かだが、視界に光が見えるようになった。

    不思議に思っていると、部屋にある隙間から少しだけ月の明かりが入ってきているのが目に入った。
    Aはそこへ俺達を連れて行こうとしているのだと思った。

    何故気づかなかったのか、今思っても不思議なんだ。
    暗闇に目が慣れるというのを聞いたことがあったけど、恐怖に呑まれてそれどころじゃなかった。
    ほんとに真っ暗だったんだ。

    とにかく、その時俺はその光を見て心の底から救われた気持ちになった。
    そしてAに感謝した。

    後から聞いたんだが、
    A「俺は見えもしなかったし、聞こえもしなかった。なんか引きずってる音は聞こえたんだけどな。
    でもそのおかげで、お前達よりは余裕があったのかも。」
    と言っていた。
    大した奴だって思った。

    光の下に来ると、Aの反対側の手にBの腕が握られているのが見えた。
    月明かりで見えたBの顔は、汗と涙でぐっしょり濡れていた。
    何があったのか、何を見たのか、聞くまでもなかった。

    夜は昼と違って、すごく静かで、遠くで鈴虫が鳴いていた。

    俺達はしばらくそこでじっとしていた。
    恥ずかしながら、3人で互いに手を取り合う格好で座った。ちょうど円陣を組む感じで。
    あの状態が一番安心できる形だったんだと思う。

    そして何より、例え僅かな光でも、相手の姿がそこに確認できるだけで別次元のように感じられたんだ。

    しばらくそうしていると、とうとう予想していたことが起きた。

    Aが催したのだ。
    生理現象だから絶対に避けられないと思っていた。
    Aは自分のズボンのポケットから坊さんに貰った布の袋をゴソゴソと取り出すと、立ち上がって俺達から少し離れた。

    静寂の中、Aの出す音が響き渡る。
    なんか、まぬけな音に若干気が抜けて、俺もBも顔を見合わせてニヤっとした。

    その瞬間だった。

    「Bくん」

    AB俺(・・・)

    一瞬にして体に緊張が走る。

    するとまた聞こえた。
    俺達がおんどうに入った扉のすぐ外側からだった。

    「Bくん」

    俺達は声の主が誰か一瞬で分かった。
    今朝も聞いた、美咲ちゃんの声だった。

    「Bくんおにぎり作ってきたよ」

    こちらの様子を伺うように、少し間を空けながら喋りかけてくる。
    抑揚が全くなく、機械のようなトーンだった。

    Bの手にぐっと力が入るのが分かった。

    「Bくん」

    「・・・」

    しばらくの沈黙の後、突然関を切ったように、

    「Bくんおにぎり作ってきたよ」

    「いらっしゃいませ~」

    「おにぎり作ってきたよ」

    「Bくん」

    「いらっしゃいませ~」

    「おにぎり作ってきたよ」

    と同じ言葉を何度も何度も繰り返すようになった。

    尋常じゃないと思った。

    恐かった。美咲ちゃんの声なのに、すげー恐かった。

    坊さんはおんどうには誰も来ないと俺達に言っていた。
    そしてこの無機質な喋り方だ。
    扉の外にいるのは、絶対に美咲ちゃんじゃないと思った。

    気づくとAが俺達の側に戻り、俺とBの腕を掴んだ。
    力が入ってたから、こいつにも聞こえてるんだと思った。

    俺達は3人で、おんどうの扉の方を見つめたまま動けなかった。
    その間もその声は繰り返し続く。

    「いらっしゃいませ~」
    「Bくん」
    「おにぎり作ってきたよ」

    そしてとうとう、扉がガタガタと音を出して揺れ始めた。

    おい、ちょ、待て。

    扉の向こうのヤツは扉をこじ開けて入ってくるつもりなんだと思った。
    俺は扉が開いたらどうするかを咄嗟に考えた。

    (全速力で逃げる、坊さんたちは本堂にいるって言ってたからそこまで逃げて・・おい本堂ってどこだ)
    とか。もうここからどうやって逃げるかしか考えてなかった。

    やがてそいつは、ガンガンと扉に体当たりするような音を立てだした。
    無機質な声で喋りながら。

    そしてそのまま少しずつ、おんどうの壁に沿って左に移動し始めたんだ。
    一定時間そうした後にまた左に移動する。その繰り返しだった。

    (何してるんだ・・?)

    不思議に思っていると、俺はあることに気づいた。
    俺達のいる壁際には隙間が開いている。
    そしてそいつは今そこにゆっくりと向かっている。

    (もし隙間から中が見えたら?)
    (もし中からアイツの姿が見えたら?)

    そう考えると居ても立ってもいられなくなり、俺は2人を連れて急いで部屋の中央に移動した。

    移動している。ゆっくりと、でも確実に。

    心臓の音さえ止まれと思った。
    ヤツに気づかれたくない。
    いや、ここにいることはもう気づかれているのかもしれないけど。

    恐怖で歯がガチガチといい始めた俺は、自分の指を思いっきり噛んだ。

    そして俺は、隙間のある場所に差し掛かったそいつを見た。
    見えたんだ。月の光に照らされたそいつの顔を、今まで音でしか感じられなかったそいつの姿を。

    真っ黒い顔に、細長い白目だけが妙に浮き上がっていた。

    そして体当たりだと思っていたあの音は、そいつが頭を壁に打ち付けている音だと知った。
    そいつの顔が、一瞬壁の隙間から消える。
    外でのけぞっているんだろう。
    そしてその後すぐ、ものすごい勢いで壁にぶち当たるんだ。

    壁にぶち当たる瞬間も、白目をむき出しにしてるそいつから、俺は目が離せなくなった。
    金縛りとは違うんだ、体ブルブル動いてたし。

    ただ見たことのない光景に、目を奪われていただけなのかも知れないな。

    あの勢いで頭を壁にぶつけながら、それでも淡々と喋り続けるそいつは、完全に生きた人間とはかけ離れていた。

    結局、そいつは俺達が見えていなかったのか、隙間の場所でしばらく頭を打ち付けた後、さらにまた左へ左へと移動していった。

    俺の頭の中で、残像が音とシンクロし、そいつが外で頭を打ち付けている姿が鮮明に想像できた。

    正直なところ、そいつがどれくらいそこに居たのかを俺は全く覚えていない。
    残像と現実の区別がつけられない状態だったんだ。

    後から聞いた話だと、そいつがいなくなって静まりかえった後、3人ともずっと黙っていたらしい。

    Aは警戒したから。
    Bは恐怖のため動けなかったから。
    そして俺は残像の中で延長戦が繰り広げられていたから。

    そんでAが俺を光の場所へ連れていこうと腕を掴んだ時、体の硬直が半端なくて一瞬死んだと思ったらしい。
    本気で死後硬直だと思ったんだって。

    BはBで、恐怖で歯を食いしばりすぎて、歯茎から血を流してた。

    Aだけは、やっぱり姿を見ていなかった。

    あと、そいつはそこから遠ざかって行く時カラスのように「ア゛ーっア゛ー」と奇声を発していたらしい。
    その声は、Aだけが聞いていたんだけど。

    そいつの2度の襲来によって、その後の俺達の緊張の糸が緩むことはなかった。

    ただ、神経を張り巡らせている分体がついていかなかった。
    みんな首を項垂れて、目を合わすことは一切無かった。
    Bは、催したものをそのまま垂れ流していたが、Aと俺はそれを何とも思わなかった。

    あんなに夜が長いと思ったのは生まれて初めてだ。
    憔悴しきった顔を見たのも、見せたのも、もちろん人でないものの姿を見たのも。
    何もかも鮮明に覚えていて、今も忘れられない。

    おんどうの隙間から光が差し込んできて、夜が明けたと分かっても、俺達は顔を上げられずそこに座っていた。
    雀の鳴き声も、遠くから聞こえる民家の生活音も、すべてが俺の心臓に突き刺さる。
    ここから出て生きていけるのか、本気でそう思ったくらいだ。

    本格的に太陽の光が中に入りこんできた頃、遠くからこっちに近づいてくる足音が聞こえた。
    俺達は完全に身構え体制に入った。
    足音はすぐ近くまで来ると、おんどうの裏へ回り入り口の前で止まった。

    息を呑んでいると、ガタガタっと音がし、「キィーッ」と音を立てて扉が開いた。



    そこに立っていたのは、坊さんだった。


    坊さんは俺達の姿を見つけると、一瞬泣きそうな顔をして、
    坊「よく、頑張ってくれました」
    と言った。

    あの時の坊さんの目は、俺一生忘れないと思う。
    本当に本当に優しい目だった。

    俺は、不覚にも腰を抜かしていた。
    そして、いい年こいてわんわん泣いた。

    坊さんは、俺達の汗と尿まみれのおんどうの中に迷わず入って来て、そして俺達の肩を一人一人抱いた。
    その時坊さんの僧衣?から、なんか懐かしい線香の香りがして、
    (ああ、俺達、生きてる)
    って心の底から思った。
    そこでまた俺子供のように泣いた。

    しばらくしても立ち上がれない俺を見て、坊さんはおっさんを呼んできてくれた。
    そして2人に肩を抱えられながら、前日に居た一軒家に向かった。

    途中、行く時に見た大きな寺の横を通ったんだが、その時俺達3人は叫び声を聞いた。
    低く、そして急に高くなって叫ぶ人の声だった。

    家の玄関に着くと耳元でAが囁いた。
    A「さっきのあれ、女将さんの声じゃね?」

    まさかと思ったが、確かに女将さんの声に聞こえなくもなかった。
    だが俺はそれどころじゃないほど疲れていたわけで。

    早く家に上げて欲しかったんだが、玄関に出てきた女の人がすげー不快そうに俺達を見下しながら、
    「すぐお風呂入って」
    って言うんだわ。

    まーしょうがない。だって俺達有り得んくらい臭かったしね。

    そして俺達は、3人仲良く風呂に入った。
    まあ怖かった。
    いきなり一人になる勇気はさすがになかった。

    風呂を上がると見覚えのある座敷に通され、そこに3枚の布団が敷いてあった。

    「まず寝ろ」ということらしかった。

    ここは安全だという気持ちが自分の中にあったし、極限に疲れていたせいもあった。
    というか、理屈よりまず先に体が動いて、俺達は布団に顔を埋めてそのまま泥のように眠った。

    俺は眠りに入る中で、まったくもってどうでもいいことを思った。
    (起きたらあいつらに、俺達が帰るって電話しなきゃな。)

    旅行の準備満タンでスタンバイする友達2人は、俺達が今こうして死にそうな思いをしていたことを知らない。
    もちろん、旅行計画がオジャンになることも。



    そういえば、おんどうから出る時俺はBに聞いたんだ。
    俺「B、もう、見えないよな?」

    するとBは、確かな口調で答えた。
    B「ああ、見えない。助かったんだ。ありがとう」


    おれはその最後の一言を聞いて、Bが小便を垂らしたことは内緒にしておいてやろうと思った。

    俺達は助かったんだ。その事実だけで、十分だった。



    ーーー

    その後目を覚ました俺達は、事の真相を坊さんに聞かされることになる。
    そして、人間の本当の怖さと、信念の強さがもたらした怪奇的な現実を知るんだ。

    Bの見たもの、俺の見たもの、Aの聞いたもの。
    それを全て知って、俺達は再び逃げ出す決心をする。



    今まで読んでくれた人たち、本当にありがとう。
    自分でもこんな長文になるとは思ってもなかった。

    沢山の期待がある分、それに沿えない結果だったかもしれないけど、
    話を湾曲させたくなかったからそのまま書かせてもらった。

    長すぎるのもなんなんで、一応ここで完結にしておく。

    これから先は、事の真相を書くんで、本当に気になる人だけ読んでくれ。


    あの後、俺達は死んだように眠り、坊さんの声で目を覚ました。

    坊「皆さん、起きれますか?」

    特別寝起きが悪いAをいつものように叩き起こし、俺達は坊さんの前に3人正座した。

    坊「皆さん、昨日は本当によく頑張ってくれました。
    無事、憑き祓いを終えることができました」

    そう言って坊さんは優しく笑った。

    俺達は、その言葉に何と言っていいか分からず、曖昧な笑顔を坊さんに向けた。
    聞きたいことは山ほどあったのに、何も言い出せなかった。

    すると坊さんは俺達の心中を察したのか、
    坊「あなたたちには、全てお話しなくてはなりませんね。お見せしたい物があります」
    と言って立ち上がった。

    坊さんは家を出ると、俺達を連れて寺の方に向かった。

    石段を上る途中、Bはキョロキョロと辺りを警戒する仕草を見せた。
    それにつられて俺も、昨日見たアイツの姿を思い出して同じ行動を取った。

    それに気づいた坊さんは、俺達に聞いた。
    坊「もう大丈夫のはずです。どうですか?」

    B「大丈夫・・何も見えません」

    俺「俺も平気です」

    その返事を聞くと坊さんはにっこりと笑った。


    大きな寺に着くと、ここが本堂だと言われた。
    坊さんの後ろに続いて寺の横にある勝手口から中に入り、さっきまで居た座敷とさほど変わらない部屋に通された。

    坊さんは俺達にここで少し待つように言うと、部屋を出て行った。
    Bは落ち着かないのか貧乏揺すりを始めた。

    暫くすると、坊さんは小さな木箱を手に戻って来た。

    そして俺達の対面に腰を下ろすと、
    坊「今回の事の発端をお見せしますね」
    と言って箱を開けた。

    3人で首を伸ばして箱の中を覗き込んだ。
    そこには、キクラゲがカサカサに乾燥したような、黒く小さい物体が綿にくるまれていた。

    AB俺(何だこれ?)

    よく見てみるが分からない。

    だがなんとなく、どっかで見たことのある物だと思った。
    俺は暫く考え、咄嗟に思い出した。

    昔、俺がまだ小さい頃、母親がタンスの引き出しから大事そうに木の箱を持ってきたことがあった。
    そして箱の中身を俺に見せるんだ。すげー嬉しそうに。
    箱の中には綿にくるまれた黒くて小さな物体があって、俺はそれが何か分からないから母親に尋ねたんだ。

    そしたら母親は言ったんだ。
    「これはねぇ、臍(へそ)の緒って言うんだよ。お母さんと、○○が繋がってた証」

    俺は子供心に(なんでこんなの大事そうにしてるんだろ?)って思った。


    目の前にあるその物体は、あの時に見た臍の緒に似ているんだと思った。

    A「これ何ですか?」

    坊「これは、臍の緒ですよ」

    というか似てるもなにも臍の緒だった。

    A「俺初めて見たかも」

    B「おれ見たことある」

    俺「俺も」

    坊「みなさん親御さんに見せてもらったのでしょう。
    こういうものは、大切に取っておく方が多いですから」

    坊「この臍の緒も、それはそれは大切に保管されていたものなのです」

    俺たちは黙って坊さんの話を聞いていた。

    坊「母親の胎内では、親と子は臍の緒で繋がっております。
    今ではその絆や出産の記念にと、それを大切にする方が多いですが、臍の緒には色々な言い伝えがあり、昔はそれを信じる者も多かったのです」

    B「言い伝え?」

    坊「そうです。昔の人はそういう言い伝えを非常に大切にしておりました。今となっては迷信として語られるだけですが」

    そう前置きをして坊さんは臍の緒に関する言い伝えを教えてくれた。

    主に”子を守る”という意味を持っているが、解釈は様々。
    ”子が九死に一生の大病を患った際に煎じて飲ませると命が助かる”とか”子に持たせるとその子を命の危険から守る”というのがあって、親が子供を想う気持ちが込められているところでは共通しているらしい。

    俺たちはその話を聞いて、「へぇ~」なんて間抜けな返事をしていた。

    坊さんは一息入れると、微かに口元を上げて言った。

    坊「ひとつ、この土地の昔話をしてもよろしいですか?
    今回の事に関わるお話として聞いいただきたいのです」

    俺達は坊さんに頷いた。

    ここから、坊さんの話が始まる。
    結構長くて、正確には覚えてない、所々抜け落ち部分があるかも。

    坊「この土地に住む者も、臍の緒に纏わる言い伝えを深く信じておりました。
    土地柄、ここでは昔から漁を生業として生活する者が多くおりました。
    漁師の家に子が生まれると、その子は物心がつく頃から親と共に海に出るようになります。
    ここでは、それがごく普通のしきたりだったようです」

    坊「漁は危険との隣り合わせであり、我が子の帰りを待つ母親の気持ちは、私には察するに余りありますが、それは深く辛いものだったのでしょう。
    母親達はいつしか、我が子に御守りとして臍の緒を持たせるようになります」

    坊「海での危険から命を守ってくれるように、そして行方のわからなくなったわが子が、自分の元へと帰ってこれるようにと」

    俺「帰ってくる?」

    俺は思わず口を挟んだ。

    坊「そうです。まだ体の小さな子は波にさらわれることも多かったと聞きます。
    行方の分からなくなった子は、何日もすると死亡したことと見なされます。
    しかし、突然我が子を失った母親は、その現実を受け入れることができず、何日も何日もその帰りを待ち続けるのだそうです」

    坊「そうしていつからか、子に持たせる臍の緒には、”生前に自分と子が繋がっていたように、子がどこにいようとも自分の元へ帰ってこれるように”と、命綱の役割としての意味を孕むようになったのだと言います」

    皮肉な話だと思った。
    本来海の危険から身を守る御守りとしての役割を成すものが、いざ危険が起きたときの命綱としての意味も持ってる。

    母親はどんな気持ちで子どもを送り出してたんだろうな。

    坊「実際、臍の緒を持たせていた子が行方不明になり無事に帰ってくることはなかったそうです」

    坊「しかしある日、”子供が帰ってきた”と涙を流して喜ぶ1人の母親が現れます。これを聞いた周囲の者はその話を信用せず、とうとう気が狂ってしまったかと哀れみさえ抱いたそうです。
    何故なら、その母親が海で子を失ったのは3年も前のことだったからです」

    B「どこかに流れついて今まで生きてたとかじゃないんですか?」

    坊「そうですね。始めはそう思った者もいたようです。そして母親に子供の姿を見せてほしいと言い出した者もいたそうなのです」

    B「それで?」

    坊「母親はその者に言ったそうです。”もう少ししたら見せられるから待っていてくれ”と」

    どういう意味だ?
    帰って来たら見せられるはずじゃないのか?

    俺はこの時、理由もなく鳥肌が立った。

    坊「もちろんその話を聞いて村の者は不振に思ったそうですが、子を亡くしてからずっと伏せっていた母親を見てきた手前、強く言うことができずそのまま引き下がるしかできなかったそうです」

    坊「しかし次の日、同じ事を言って喜ぶ別の母親が現れるのです。そしてその母親も、子の姿を見せることはまだできないという旨の話をする。
    村の者達は困惑し始めます。」

    坊「前日の母親は既に夫が他界し、本当のところを確かめる術が無かったのですが、この別の母親には夫がおりました。
    そこで村の者達は、この夫に真相を確かめるべく話を聞くことになったそうです」

    坊「するとその夫は言ったそうです。”そんな話は知らない”と。母親の喜びとは反対に、父親はその事実を全く知らなかったのです。
    村人達が更に追求しようとすると、”人の家のことに首を突っ込むな”とついには怒りだしてしまったそうです」

    まあ、そうだよな。
    何にせよ周りの人に家の中のことをごちゃごちゃ聞かれたらいい気はしないだろうな、なんて思ったりもした。

    坊 「その後何日かするとある村の者が、最初に子が戻ってきたと言い出した母親が、昨晩子共を連れて海辺を歩く姿を見たと言い出します。暗くてあまり良く見え なかったが、手を繋ぎ隣にいる子供に話しかけるその姿は、本当に幸せそうだったと。この話を聞いた村の者達は皆、これまでの非を詫びようと、そして子が 戻ってきたことを心から祝福しようと、母親の家に訪ねに行くことにしたそうです」

    坊「家に着くと、中から満面の笑顔で母親が顔を出したそうです。村の者達はその日来た理由を告げ、何人かは頭を下げたそうです。
    すると母親は、”何も気にしていません。この子が戻って来た、それだけで幸せです”と言いながら、扉に隠れてしまっていた我が子の手を引き寄せ、皆の前に見せたそうです」

    坊「その瞬間、村の者達はその場で凍りついたそうです」

    AB俺「・・・」

    坊 「その子の肌は、全身が青紫色だったそうです。そして体はあり得ない程に膨らみ、腫れ上がった瞼の隙間から白目が覗き、辛うじて見える黒目は左右別々の方 向を向いていたそうです。そして口から何か泡のようなものを吹きながら母親の話しかける声に寄生を発していたそうです。それはまるでカラスの鳴き声のよう だったと聞きます。
    村の者達は、子供の奇声に優しく笑いかけ、髪の抜け落ちた頭を愛おしそうに撫でる母親の姿を見て、恐怖で皆その場から逃げ出してしまったのだそうです」

    坊 「散り散りに逃げた村の者達はその晩、村の長の家に集まり出します。何か得体の知れないものを見た恐怖は誰一人収まらず、それを聞いた村の長は自分の手に は負えないと判断し、皆を連れてある住職の元へ行くことにします。その住職というのが、私のご先祖に当たる人物らしいのですが・・」

    坊「相談を受けた住職は、事の重大さを悟りすぐさま母親の元に向かいます。そして母親の横に連れられた子を見るや、母親を家から引きずり出し寺へと連れて帰ったそうです。その間も、その子は住職と母親の後をずっと付いてきて奇声を発していたのだとか」

    坊「寺に着くとまず結界を強く張った一室に母親を入れ、話を聞こうとします。しかし、一瞬でも子と離れた母親は、その不安からかまともに話をできる状態ではなかったと聞きます。ついには子供を返せと、住職に向かってものすごい剣幕で怒鳴り散らしたのだそうです」

    A「それでどうなったんですか?」

    坊「子を想う母は強い。住職が本気で押さえ込もうとしたその力を跳ね飛ばし、そのまま寺を飛び出してしまったのだそうです」

    坊さんは少し情けなそうな顔をしてそう言った。

    坊「その後、村の者と従者を何人か連れて母親の家に行きましたが、そこに母と子の姿はなかったそうです。
    そして家の中には、どこのものかわからない札が至る所に貼り付けられ、部屋の片隅には腐った残飯が盛られ異臭が立ち込めていのだとか」

    この時俺は思った。あの旅館の2階で見たものと同じだと。

    坊「そこに居た皆は同じことを思いました。母親は子を失った悲しみから、ここで何かしらの儀を行っていたのだと。
    そして信じ難いことだが、その産物としてあのようなモノが生まれたのだと。その想いを悟った村の者達は、母親の行方を村一丸になって捜索します」

    坊 「住職はすぐさま従者を連れ、もう一人の母親の家に向かいますが、こちらも時既に遅しの状態だったそうです。得体の知れないモノに語りかけ、子の名前を呼 ぶ母親に恐怖する父親。その光景を見た住職は、経を唱えながらそのモノに近づこうとしますが、子を守る母親は住職に白目を向き、奇声を発しながら威嚇して きたのだそうです」

    現実味のない話だったのに、なぜかすごく汗ばんだ。

    坊「村の者は恐れ、一歩も近寄れなかったと言いま す。しかし住職とその従者は臆することなくその母親とそのモノに近づき、興奮する母親を取り押さえ寺へ連れ帰ります。暴れる母親を抱えながら、背後から付 いて来るモノに経を唱え、道に塩を盛りながら少しずつ進んだのだそうです」

    坊「寺に着くと住職は母親をおんどうへ連れて行き、体を縛りその中に閉じ込めたのだそうです」

    A「そんなことを・・」

    Aが哀れみの声を出した。

    坊「仕方がなかったのです。親と子を離すのが先決だった、そうしなければ何もできなかったのでしょう」

    坊さんがしたことではないが、Aは坊さんから顔を背けた。

    少しの沈黙の後、坊さんは続けた。

    坊 「母親の体には自害を防ぐための処置が施されたようですがその詳細は分かりません。その後、おんどうの周りに注連縄を巻きつけ、住職達はその周りを取り囲 むようにして座り経を唱え始めたそうです。中から母親の呻き声が聞こえましたが、その声が子に気づかれぬよう、全員で大声を張り上げながら経を唱えたそう です」

    坊「住職達が必死に経を唱える中、いよいよ子の姿が現れます。子は親を探し、おんどうの周りをぐるぐると回り始めます。何を以って親の場所を捜すのか、果たして経が役目を成すのかもわからない状態で、とにかく住職達は必死に経を唱えたのです」

    そこで坊さんは一息ついた。

    B「それで、どうなったんですか?」
    Bの声は恐る恐るといった感じだった。

    坊 「おんどうの周りを回っていたそのモノは、次第に歩くことを困難とし、四足歩行を始めたそうです。その後、四肢の関節を大きく曲げ、蜘蛛のように地を這い 回ったそうです。それはまるで、人間の退化を見ているようだったと。その後、なにやら呻き声を上げたかと思うとそのモノの四肢は失われ、芋虫のような形態 でそこに転がっていたのだとか」

    坊「そしてそのモノは夜が明けるにつれて小さくすぼみ、最終的に残ったのが、臍の緒だったのです」

    俺は、坊さんの話に聞き入っていた。
    まるで自分達の話に毛が生えて、昔話として語られているような感覚だった。

    するとAが聞いたんだ。

    A「え、もしかしてその臍の緒って・・」

    すると坊さんは静かに答えた。

    坊「今朝、おんどう奥の岩の上に転がっていたものです」

    B「マジかよ・・」

    Bは呆然として呟いた。

    俺「なんで?なんで俺達なんですか?」

    坊「詳しくはわかりません。この寺には、代々の住職達の手記が残されていますが、母親でない者にこのような現象が起きた事例は見当たりませんでした」

    坊「何より、肝心の母親の行った儀式について。これがまだ謎に包まれたままなのです」

    B「母親に聞かなかったんですか?」

    坊「聞かなかったのではなく、聞けなかったのです」

    ポカンとしていると坊さんはまた話し始めた。

    坊 「住職達がおんどうを開け中を確認すると、疲れ果ててぐったりした母親がいたそうです。子を求めて一晩中叫んでいたのでしょう。すぐさま母親を外に運びだ し手当てをしましたが、目を覚ました時には、母親は完全に正気を失っておりました。二度も子を失った悲しみからなのか、はたまた何か禍々しいモノの所為な のか、それも分かりかねますが」

    坊「そして村の者が捜索していたもう一人の母親ですが、一晩経を読み上げ疲れ果てた住職達の元に、発見の 知らせが届いたそうです。近海の岸辺に遺体となって打ち上げられていたと。母親は体中を何かに食い破られており、それでいて顔はとても幸せそうだったとあ ります。何が起きたのかはわかりませんが、住職の手記にはこうありました。”子に食われる母親の最後は、完全な笑顔だった”と。」

    信じられないような話なんだが、俺達は坊さんの話す言葉一つ一つをそのまま飲み込んだ。

    坊「遺体となって見つかった母親の家は、村の者達による話し合いで取り壊されることとなり、その際に家の中から母親の書いたものらしいメモが見つかったそうです」

    そう言って坊さんはそのメモの内容を俺達に説明してくれた。
    簡単に言うと、儀式を始めてからの我が子を記録した成長記録のようなものだったそうだ。
    どんな風に書かれていたのかは憶測でしかないんだが、内容は覚えているので以下に書く。わかりづらいかも。

    ○月?日 堂の作成を開始する
    ×月?日 変化なし

    ・・・

    △月?日 △△(子の名前)が帰ってくる
    △月?日 移動が困難な状態
    △月?日 手足が生える
    △月?日 はいはいを始める
    △月?日 四つ足で動き回る
    △月?日 言葉を発する
    △月?日 立つ

    この成長記録に、母親の心情がビッシリと書き連ねてあったらしい。

    ちなみに、もう一人の母親は、屋根裏に堂を作っていたらしく、父親はその存在に全く気づいていなかったのだそうだ。

    坊「私もすべてを理解しているとは言えませんが、この母親の成長記録と住職の手記を見比べると、そのモノは自分の成長した過程を遡るようにして退化していったと考えられませんか?」

    確かにその通りだと思った。
    そして坊さんは、それ以上の言及を避けるように話を続けた。

    坊 「これ以降手記には、非常に稀ですが同じような事象の記述が見られます。だがその全てに、母親達がいつどのようにしてこの儀を知るのかが明記されていない のです。それは全ての母親が、命を落とす若しくは、話すこともままならない状態になってしまったことを意味しているのです」

    坊さんは早期に発見できないことを悔やんでいると言った。

    坊「今回の現象は初めてのことで、私自身もとても戸惑っているのです。何故母親ではないあなたがそのモノを見つけてしまったのか。子の成長は母親にしか分からず、共に生活する者にもそれを確認することはできないはずなのです」

    そんなデタラメな話有りなのか?と思った。
    そしてBが、話の核心を知ろうと、恐る恐る質問した。

    B「あの、母親って、・・・もしかして女将さんなんですか?」

    坊さんは少し黙り、答えた。

    坊「その通りです」

    坊「真樹子さんは、この村出身の者ではありません。○○さん(旦那さんの名前)に嫁ぎこの村にやってきました。息子を一人儲け、非常に仲の良い家族でした」

    そう言って話してくれた坊さんの話の内容は、大方予想が付いていたものだった。

    女将さんの一人息子は、数年前のある日海で行方不明になったそうだ。
    大規模な捜索もされたが、結局行方は分からなかったらしい。

    悲しみに暮れた女将さんは、周囲から慰めを受け、少しずつだが元気を取り戻していったそうだ。
    旅館もそれなりに繁盛し、周囲も事件のことを忘れかけた頃、急に旅館が2階部分を閉鎖することになったんだって。

    周りは不振に思ったが、そこまで首を突っ込むことでもないと、別段気にすることはなかったそうだ。

    そしてこの結果だ。

    女将さんは、どこから情報を得たのか不明だが、あの2階へ続く階段に堂を作り上げそこで儀式を行っていた。
    そしてその産物が俺達に憑いてきたという訳だが、ここがこれまでの事例と違うのだと坊さんは言った。
    本来儀式を行った女将さんに憑くはずの子が、第3者の俺達に憑いたんだ。

    考えられる違いは、女将さんは息子に臍の緒を持たせていなかったということ。
    そこの村の人達は、昔からの風習で未だに続けている人もいるらしいが、女将さんはその風習すら知らなかった。
    これは旦那さんが証言していたらしい。

    そして妙な話だが、旅館の2階を閉鎖したというのに、バイトを3人も雇った。
    旦那さんも初めは反対したそうだが、女将さんに「息子が恋しい。同年代くらいの子達がいれば息子が帰ってきたように思える」と泣きつかれ、渋々承知したそうなんだ。
    これは坊さんの憶測なんだが、女将さんは初めから、帰ってきた息子が俺達を親として憑いていくことを知っていたんではないかということだった。

    結局これらのことを俺達に話した後坊さんはこう言った。
    坊「あなた達をあのおんどうに残したこと、本当に申し訳なく思います。しかし、私は真樹子さんとあなた達の両方を救わなければならなかった。
    あなた達がここにいる間、私達は真樹子さんを本堂で縛り、先代が行ったように経を読み上げました。あのモノがおんどうへ行くのか、本堂へ来るのか分からなかったのです」

    つまり、俺達に憑いてきてはいるが、これまでの事例からいくと母親の女将さんにも危険が及ぶと、坊さんはそう読んでいたってことだ。

    俺は、別に坊さんが謝ることじゃないと思った。
    それにこの人は命の恩人だろ?と思ってBを見ると、肩を震わせながら坊さんを睨み付けて言ったんだ。


    B「納得いかない。自分の息子が帰ってくりゃ人の命なんてどーでもいいのか?」

    坊「・・」

    B「全部吐かせろよ!なんでこんな目に遭わせたのか、それができないなら俺が直接会って聞いてやる」

    B「旦那さんだって知ってたんだろ?それなのに何で言わなかったんだ?」

    坊「○○さんは知らなかったのです」

    B「嘘つくな。知ってるようなこと言ってたんだ」

    坊「この話は、この土地には深く根付いています。○○さんが知っていたのは伝承としてでしょう」

    坊さんが嘘を吐いているようには見えなかった。
    だがBの興奮は収まりきらなかったんだ。

    B「ふざけんじゃねーぞ。早く会わせろ。あいつらに会わせろよ!」

    俺達はBを取り押さえるのに必死だった。

    坊さんは微動だにせず、Bの怒鳴り声を静かに聞いていた。
    そして、
    坊「この話をすると決めた時点で、あなた達には全てをお見せしようと思っておりました。真樹子さんのいる場所へ案内します」
    と言って立ち上がったんだ。

    坊さんの後を付いて、しばらく歩いた。本堂の中にいるかと思っていたんだが、渡り廊下みたいなのを渡って離れのような場所に通された。
    近づくにつれて、なにやら呻き声と何人かの経を唱える声が聞こえてきた。

    そして、その声と一緒に、

    バタンッバタン

    という音が聞こえた。かなりでかかった。
    離れの扉の前に立つと、その音はもうすぐそこで鳴っていて、中で何が起きているのかと俺は内心びくびくしていた。

    そして坊さんが離れの扉を開けると、そこには女将さん一人とそれを取り囲む坊さん達が居た。

    俺達は全員、言葉を発することができなかった。

    女将さんは、そこに居たというか・・なんか跳ねてた。エビみたいに。うまく説明できないんだが。
    寝た状態で、畳の上で、はんぺんみたいに体をしならせてビタンビタンと跳ねていたんだ。

    人間のあんな動きを俺は初めてみた。
    そして時折苦しそうにうめき声を上げるんだ。

    俺は怖くて女将さんの顔が見れなかった。

    正直、前の晩とは違う、でもそれと同等の恐怖を感じた。

    呆然とする俺達に坊さんは言った。
    坊「この状態が、今朝から収まらないのです」

    するとAが耐え切れなくなり、
    A「俺、ここにいるのキツイです」
    と言ったので、一旦外に出ることになった。

    音を聞くことさえ辛かった。
    つい昨日の朝に見た女将さんの姿とは、まるで別人の様になっていた。

    そこから少し離れたところで俺達は坊さんに尋ねた。

    憑き物の祓いは成功したのではないかと。

    坊「確かに、あなた達を親と思い憑いてきたものは祓うことができたのだと思います。現にあなた達がいて、ここに臍の緒がある。しかし・・」

    すると急にBが言ったんだ。
    B「そうか・・俺が見たのは、1つじゃなかったんだ」

    初めは何のことを言ってるのかわからなかったんだが、そのうちに俺もピンときた。
    Bはあの時、2階の階段で複数の影を見たと言っていなかったか?

    坊「1つではないのですか?」

    坊さんは驚いたように聞き返し、Bがそうだと答えるのを見ると、また少し黙った。
    そして暫く考え込んでいたかと思うと急に何かを思い出したような顔をして、俺達に言ったんだ。

    坊「あなた達は鳥居の家に行ってください。そしてあの部屋を一歩も出ないでください。後で人を行かせます」

    ポカンとする俺達を置いて、坊さんはそのまま女将さんのいる離れの方に走って行った。

    俺達は急に置いてけぼりを食らい、暫く無言で突っ立っていた。
    すると離れの方から、複数の坊さんが大きな布に包まった物体を運び出しているのが見えた。
    その布の中身がうねうねと動いて、時折痙攣しているように見えた。

    あの中にいるのは女将さんだと全員が思った。
    そのままおんどうの方に運ばれていく様を、俺達は呆然と見ていたんだ。

    ふとお互い顔を見合わせると、途端に怖くなり、俺たちは早足で家に向かった。

    そこからは、説明することが何も無いほど普通だった。
    家に行って暫くすると、別の坊さんがやって来て「ここで一晩過ごすように」と言われた。
    そしてその坊さんは俺たちの部屋に残り、微妙な雰囲気の中4人で朝を迎えたというわけ。

    次の朝、早めに目が覚めた俺達がのん気にめざにゅ~を見ていると、坊さんがやって来た。

    俺達は坊さんの前に並んで話を聞いた。

    坊さんは俺達の憑き祓いは完全に終わったと言った。
    昨日言っていた通り、俺達に憑いてきたモノは一匹で、それは退化を遂げて消滅したのを確認したんだと。

    俺達はそれを聞いて安堵した。

    しかし坊さんはこう続けた。

    女将さんを救うことができなかったと。

    泣きそうなのか怒っているのか、なんとも言えない表情を浮かべてそう言った。

    死んだのかと聞くと、そうではないと言うんだ。

    俺はその言葉から、女将さんが跳ね回っている姿を思い出した。
    (ずっとあの状態なのか・・?)

    恐る恐るそれを聞くと、坊さんは苦い顔をしただけで、肯定も否定もしなかった。

    女将さんの今の状態は、憑きものを祓うとかそういう次元の話ではなく、何かもっと別のものに起因してるんだって。
    詳しくは話してくれなかったんだが、女将さんが行った儀式は、この地に伝わる「子を呼び戻す儀」と似て非なるものらしい。

    どこかでこの儀の存在と方法を知った女将さんは、息子を失った悲しみからこれを実行しようと試みる。
    だが肝心の臍の緒は自分の手元にあったわけだ。
    こっからは坊さんの憶測なんだが、女将さんはこれを試行錯誤しながら完成系に繋げたんじゃないかということだった。
    自分の信念の元に。そしてそこから得た結果は、本来のものとは別のものだった。

    堂には複数のモノがおり、そこに息子さんがいたかは分からないと。

    坊さんが言ってた。

    この儀の結末は、非常に残酷なものでしかないんだと。
    それを重々承知の上で、母親達は時にその禁断の領域に足を踏み入れてしまう。
    子を失う悲しみがどれ程のものなのか、我々には推し量ることしかできないが、心に穴の開いた母親がそこを拠り所としてしまうのは、いつの時代にもあり得ることなのではないかと。

    Bは、女将さんのこれからを執拗に聞いていたが、坊さんは何も分からないの一点張りで、俺たちは完全に煙に巻かれた状態だった。

    俺達が坊さんと話終えると、部屋に旦那さんが入ってきた。
    俺は正直ぎょっとした。

    顔が土色になって、明らかにやつれ切った顔をしてたんだ。
    そして、俺達の前に来ると泣きながら謝って来た。

    泣きすぎて何を言ってるのかは全部聞き取れなかったんだけど、俺達は旦那さんのその姿を見て誰も何も言えなかった。

    俺達に申し訳ないことをしたと泣いているのか、それとも女将さんの招いた結果を思って泣いているのか、どっちだったんだろうな。
    今となってはわかんねーな。

    その後、俺達は何度も坊さんに確認した。
    これ以降俺達の身には何も起きないのか?と。

    すると坊さんは困ったような顔をしながら「大丈夫」だと言った。

    その後、坊さんの所にタクシーを呼んでもらって俺達は帰ることになった。

    一応、昨日の朝俺を家まで運んでくれたおっさんが駅まで同乗してくれることになったんだが。

    このおっさんがやたら喋る人で、それまでの出来事で気が沈んでる俺達の空気を一切読まずに一人で喋くりまくるんだ。

    そんでこのおっさんは
    「それにしても、子が親を食うなんて、蜘蛛みたいな話だよなぁ」
    と言ったんだ。

    俺達は胸糞悪くなって黙ってたんだけど、おっさんは一人で続けた。

    「お前達、ここで聞いた儀法は試すんじゃねーぞ。自己責任だぞ」

    そう言って笑うんだ。

    俺達の気持ちを和らげようとして言ってるのか本気でアホなのかわかんなかったけど、一つ確かなことがあった。

    俺達は、坊さんに真実を隠されて教えられたんだ。

    儀の方法は、その結果と一緒にこの地に伝わってるんだ。

    このおっさんが知ってて坊さんが知らないはずないだろ?
    そう思うと、これだけの体験をさせといて、結局は大事なところを隠して話されたことにすげーショックを受けた。
    坊さんを信用していた分、なんか怒りにも似たものが湧き上がってきたんだ。

    タクシーが駅に着くと、おっさんが金を払うと言ったが俺達は断った。

    早くこの場所から逃げ出したい、その一心だった。

    坊さんが「大丈夫」と言った一言も、全部嘘に思えてきた。

    それでも俺達には、あの寺に戻る勇気はなくて、帰りの電車をただただ無言で待つことしかできなかったんだ。

    ーーーー

    その後、帰って来てからは、なんともない。
    まあ、なんともないからここに書き込めてるわけだけど。

    「もう2度とあの場所へは行かない」
    3人で話してると必ず1回はその言葉が出てくるくらい、俺達にとってトラウマになった出来事だったんだ。

    あと、Bはあれから蜘蛛を見るのがどうもダメらしい。
    成長過程のアイツの姿を見てるからね。

    俺はと言うと、今は普通に社会人やってます。
    若干暗闇が苦手になったくらい。
    人間のど元過ぎれば熱さ忘れるって、あながち間違いじゃないかもしれないな。

    本当の本当に後日談なんだが、その話を残りの友達2人に話したんだ。
    2人とも俺達3人の様子を見て、一応信じてはくれたんだけど。

    でもそいつらその後に、興味半分で旅館に電話を掛けてみたんだって。(最低だろ)
    そしたら、電話に出たのは普通のおばさんだったらしい。

    そいつら俺達に言うんだよ。女将さんか確認しろって。そんで、後ろでカラスが異様に鳴いてるって言うんだ。
    絶対無理だと思った。女将さんが無事でも無事じゃなくても、俺にはその後を知る勇気なんか出なかった。


    タラタラ書いて正直すまなかった。
    真相といっても的を得ない内容だったかもしれないが、ご勘弁願います。
    これがありのままっす。オチなしですが。

    長々読んでくれてどうもありがとう。



    9 投 くねくね

    756 名前:あなたのうしろに名無しさんが・・・ 投稿日:03/03/29 18:56
    別サイトに掲載されてて、このスレの投票所でも結構人気のある「分からないほうがいい」って話あるじゃないですか。
    その話、自分が子供の頃体験した事と、恐ろしく似てたんです。
    それで、体験した事自体は全然怖くないのですが、その
    「分からないほうがいい」と重ね合わせると、凄い怖かったので、
    その体験話を元に「分からないほうがいい」と混ぜて
    詳しく書いてみたんですが、載せてもいいでしょうか?


    759 名前:756(1/5) 投稿日:03/03/29 19:18
    これは小さい頃、秋田にある祖母の実家に帰省した時の事である。
    年に一度のお盆にしか訪れる事のない祖母の家に着いた僕は、早速大はしゃぎで兄と外に遊びに行った。
    都会とは違い、空気が断然うまい。僕は、爽やかな風を浴びながら、兄と田んぼの周りを駆け回った。
    そして、日が登りきり、真昼に差し掛かった頃、ピタリと風か止んだ。
    と思ったら、気持ち悪いぐらいの生緩い風が吹いてきた。
    僕は、『ただでさえ暑いのに、何でこんな暖かい風が吹いてくるんだよ!』と、
    さっきの爽快感を奪われた事で少し機嫌悪そうに言い放った。
    すると、兄は、さっきから別な方向を見ている。その方向には案山子(かかし)が
    ある。『あの案山子がどうしたの?』と兄に聞くと、兄は『いや、その向こうだ』と
    言って、ますます目を凝らして見ている。僕も気になり、田んぼのずっと向こうをジーッと見た。
    すると、確かに見える。何だ…あれは。


    761 名前:756(2/5) 投稿日:03/03/29 19:19
    遠くからだからよく分からないが、人ぐらいの大きさの白い物体が、くねくねと動いている。
    しかも周りには田んぼがあるだけ。近くに人がいるわけでもない。僕は一瞬奇妙に感じたが、ひとまずこう解釈した。
    『あれ、新種の案山子(かかし)じゃない?きっと!今まで動く案山子なんか無かった
    から、農家の人か誰かが考えたんだ!多分さっきから吹いてる風で動いてるんだよ!』
    兄は、僕のズバリ的確な解釈に納得した表情だったが、その表情は一瞬で消えた。
    風がピタリと止んだのだ。
    しかし例の白い物体は相変わらずくねくねと動いている。
    兄は『おい…まだ動いてるぞ…あれは一体何なんだ?』と驚いた口調で言い、気になって
    しょうがなかったのか、兄は家に戻り、双眼鏡を持って再び現場にきた。
    兄は、少々ワクワクした様子で、『最初俺が見てみるから、お前は少し待ってろよー!』と言い、はりきって双眼鏡を覗いた。

    762 名前:756(3/5) 投稿日:03/03/29 19:20
    すると、急に兄の顔に変化が生じた。みるみる真っ青になっていき、冷や汗をだくだく
    流して、ついには持ってる双眼鏡を落とした。僕は、兄の変貌ぶりを恐れながらも、
    兄に聞いてみた。『何だったの?』
    兄はゆっくり答えた。
    『わカらナいホうガいイ……』
    すでに兄の声では無かった。兄はそのままヒタヒタと家に戻っていった。
    僕は、すぐさま兄を真っ青にしたあの白い物体を見てやろうと、落ちてる双眼鏡を
    取ろうとしたが、兄の言葉を聞いたせいか、見る勇気が無い。
    しかし気になる。
    遠くから見たら、ただ白い物体が奇妙にくねくねと動いているだけだ。少し奇妙だが、それ以上の恐怖感は起こらない。
    しかし、兄は…。よし、見るしかない。どんな物が兄に
    恐怖を与えたのか、自分の目で確かめてやる!僕は、落ちてる双眼鏡を取って覗こうとした。
    その時、祖父がすごいあせった様子でこっちに走ってきた。
    僕が『どうしたの?』と尋ねる前に、すごい勢いで祖父が、
    『あの白い物体を見てはならん!見たのか!お前、その双眼鏡で見たのか!』
    と迫ってきた。僕は『いや…まだ…』と少しキョドった感じで答えたら、祖父は『よかった…』
    と言い、安心した様子でその場に泣き崩れた。
    僕は、わけの分からないまま、家に戻された。

    763 名前:756(4/5) 投稿日:03/03/29 19:22
    帰ると、みんな泣いている。僕の事で?いや、違う。よく見ると、兄だけ狂ったように
    笑いながら、まるであの白い物体のようにくねくね、くねくねと乱舞している。
    僕は、その兄の姿に、あの白い物体よりもすごい恐怖感を覚えた。
    そして家に帰る日、祖母がこう言った。『兄はここに置いといた方が暮らしやすいだろう。
    あっちだと、狭いし、世間の事を考えたら数日も持たん…うちに置いといて、何年か
    経ってから、田んぼに放してやるのが一番だ…。』
    僕はその言葉を聞き、大声で泣き叫んだ。以前の兄の姿は、もう、無い。
    また来年実家に行った時に会ったとしても、それはもう兄ではない。
    何でこんな事に…ついこの前まで仲良く遊んでたのに、何で…。僕は、必死に涙を拭い、車に乗って、実家を離れた。

    764 名前:756(5/5) 投稿日:03/03/29 19:23
    祖父たちが手を振ってる中で、変わり果てた兄が、一瞬、僕に手を振ったように見えた。
    僕は、遠ざかってゆく中、兄の表情を見ようと、双眼鏡で覗いたら、兄は、確かに泣いていた。
    表情は笑っていたが、今まで兄が一度も見せなかったような、最初で最後の悲しい笑顔だった。
    そして、すぐ曲がり角を曲がったときにもう兄の姿は見えなくなったが、僕は涙を流しながら
    ずっと双眼鏡を覗き続けた。『いつか…元に戻るよね…』そう思って、兄の元の姿を
    懐かしみながら、緑が一面に広がる田んぼを見晴らしていた。そして、兄との思い出を
    回想しながら、ただ双眼鏡を覗いていた。
    …その時だった。
    見てはいけないと分かっている物を、間近で見てしまったのだ。

    『くねくね』






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    元スレ 2ch系怖い話の恐怖度ランク付けしようぜwwwwwwwwww
    https://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1484744279/


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       コメント一覧 (12)

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        • 2023/01/29 16:01
        • あの時代は、すごい文才の人がいるなぁって思ってた
          チラ裏とかも長文があふれかえってたな
          今はなろうとかで書いてんのかな?と思ったりする
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        • 2. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 16:09
        • 「リアル」ってタイトルだけはわりと目にするけど
          実際に読んだことないわと思ってここに貼られてるのを読み始めた
          あまりにもクッソ長くて読むのやめた
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          • 7. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
          • 2023/01/29 17:56
          • >>2
            最後まで読め
            マジで名作だから
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        • 3. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 16:27
        • 無能だろうと思って見たらやっぱり無能だった
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        • 4. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 16:29
        • リアルは普通にリンクだけ貼れよなんで原文載せるのよ
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        • 5. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 16:33
        • リンフォンはないわ~
          なんだよ極小の地獄って(笑)
          厨二病全開かよ・・・
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        • 6. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 17:16
        • 破ァ
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        • 8. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 18:13
        • 個人的には巨頭オが優勝。初めて読んだ時は鳥肌立ったわ。
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        • 9. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 18:28
        • 文章を読み上げる動画で八尺様が出てきたときは怖かった
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        • 10. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 19:40
        • 長すぎて途中でやめた
          その点猛スピードって話は短くてよくできてる
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        • 11. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 20:19
        • りあるは主観でしかわからん丈夫たくさん入れているのに
          最後の一文が蛇足過ぎる
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        • 12. 以下、VIPにかわりましてBIPがお送りします
        • 2023/01/29 20:20
        • 猛スピード(双眼鏡)にドラゴンボールのBGMとSE載せた動画を見て爆笑した
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